2023.05.10

じつは日本が、いよいよ「強力な統制国家」になっていることに気づいていますか…?

加谷 珪一 プロフィール

市場が健全に機能していれば、こうした形で過度な低賃金や長時間労働は抑制されるはずだったが、不思議なことに日本にはこの条件が当てはまらず、一定の経済成長を実現した後も、過重労働が持続するという特殊な状況となっていた。この問題は以前から指摘されていたものの、企業が自ら事態を改善させることはなく、日本の低賃金は慢性化していた(逆に言えば、企業は人件費を削減することでしか利益を拡大できないという低収益体質を温存したことになる)。

だが近年、政府が民間への介入を強化したことで状況は一変しつつある。

2019年4月から働き方改革法が施行され、従来のような無制限の残業を強いることがほぼ不可能となった。今年の4月からは割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用され、2024年4月からは運輸や建設の分野においても労働時間の上限規制が適用される。特に運送業界への影響は大きく、今の雇用体制ではドライバーの数を確保できず、物流に大きな混乱が生じるとも言われる(いわゆる2024年問題)。

 

携帯電話のサービスにも介入

下請けに対する過度な圧迫に対しても行政のメスが入っている。先進諸外国では日本のような重層的な下請け構造は見られず、元請けがあまりにも無茶な条件を下請けに突きつけた場合、下請け企業は取引先を変えたり、合併などを通じて経営規模を拡大し、価格交渉力を増大させてしまう。このため、元請け企業が、下請け企業を際限なく買い叩くということは基本的に不可能である。

だが日本の場合、そうした市場メカニズムが働かず、下請けに対する圧迫が続いてきたが、労働者の待遇改善と同じく、政府が独占禁止法や下請法の適用を強化した結果、大手企業に対して公正取引委員会が相次いで指導を行うという異例の事態となっている。

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