渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

ナイフのグラインド

2023年05月10日 | open



この画像からさえもよく見れば
判る。
昔のナイフはブレードの中肉を
えぐるホローグラインドにはな
っていない。緩やかなコンベッ
クスだ。
ホローグラインドはマスプロ
ナイフのバックやカスタムナ
イフのラブレスが流行らせた。
見かけ上の切れ味=ブレード
の抜けの良さのみを追求した
かのような新形状だったが、
斯界の権威であるバックやラ
ブレスがやったからと、どの
メーカーも盲目的に追従した。
以来、右を見ても左を見ても
ホローグラインドだけになっ
た。
伝統を重視する北欧のナイフ
以外は。
日本も例に漏れず右へ倣えだ
った。

ホローにはホローの利点はある
にはあるが、総合的な刃物の
観点からすると、その利点は
マイナス要素を凌駕しはしない。
刃物としては良くない断面形状
だ。
ホローグラインド自体は日本が
今から300年前程に世界で初め
て発明して実行した。
現在世界中で使われる料理包丁
の形状と型式は日本人が江戸期
に発明した。
そして、片刃の和式包丁の場合、
片刃による切り込みのエッヂ線
を放物線にえぐる進行性を緩和
させる為に裏の平地の裏すきが
考案されて付加された。
この裏すき構造は大工道具から
転用だっただろう。
裏すきにより、片刃では貼り付
きを防止(あくまで緩和)して切
れ込みを保持するので鋭く刃が
どんどん前に進む。抵抗値を
減らす工夫が日本人が考え出し
た刃物の裏すきだ。
日本のノミやカンナや包丁が比
類なき切れ味を見せるのは、何
も和鋼が優秀だからではない。
その刃物の断面構造にこそ切れ
味の秘密がある。

だが、両刃の刃物で切削の際に
表裏同様の抵抗値の場合、両面
をすいてしまうとどうか。
いわゆるホローグラインドだ。
意味ないのである。
貼り付き防止ができているなど
は見かけの勘違いだ。
ホローで肉塊を切断してみれば
判る。玉ねぎ等を切断してみれ
ば判る。徹底的にテスターとし
て厳格に使い込めば。
ホローは逆に返って貼りつくの
だ。
楔作用が捨象されたホローは
刀身断面により切れ味を確保
するという刃物本来の切りの
構造を除去し、刃先のみの切
れ味に頼るという致命的欠陥
を有しているのだ。

もう一つ、ホローグラインドの
弱点の決定打がある。
それは耐久性が著しく減少する、
という事。
物体強度は体積の三乗に比例す
る。強度確保は体積を増すのが
セオリーだ。
ホローにおける強度不足は、
地のえぐりがそれをもたらし、
さらに刃先のみに切削の仕事を
させる事によって脆弱性が助長
される。

ホローグラインドは「良くない
断面構造」なのである。
昔のナイフは小型も大型も刃物
にとって極めて重要な楔作用を
除去させない考え抜かれた構造
を有していた。

この個体も、切るそばから切断
物が真っ二つに離れて行く。
楔作用が発生しているからだ。

カッターナイフのように刃先の
みで物を斬り裂くのではなく、
刃物全体で物体を切断したり
する使用法においては、ホロー
グラインドは使えない。
ほんの僅かでもコンベックスの
ハマグリ平地が切断力を発揮す
る。
それは刃先のみで斬り裂くので
はなく、刀身断面全体で切り
割くからだ。
切断はこれにあたる。
切断を目的とする刃物は、それ
用の形状が必要であり、両刃の
場合には、たとえ僅かであって
もコンベックスにすると切断力
が飛躍的に増す。
日本刀などはそれの展開だ。
日本刀を知らない外国人や日本
人の一部は、和鋼が優れている
かのような誤った神話を作りた
がる。
和鋼の優位性は切れ味とは別次
元の点にある。切れ味ではない。
日本刀の背筋が寒くなる程の
切れ味は、刀身の断面構造に
こそ存在している。

ナイフもホローグラインドより
も、ごく緩やかなコンベックス、
つまりハマグリ刃の物が圧倒的
に全方位的に優れている。
だが、少し前まで全てのナイフ
がほぼホローグラインドのみで
コンベックスなどは壊滅状態だ
った。
俄に沸いたキャンプブームが
その誤った固定概念を打破する
光明をもたらした。
ナイフでバトニングを多くの
人が始めたからだ。
ホローグラインドなどはそう
した荒々しい使用法に耐えない
事はすぐに判明した。
そしてコンベックスグラインド
が復活した。
刃先のみ頼りの刃物では割断
が不能である事は、刃物に詳
しくない人たちにさえも即判っ
た。

人々は、そろそろ、ホローグラ
インド万能神話から解放される
べきだろう。
それは虚飾なのだから。
ホローが流行した本当の理由を
教えましょうか?
あれは、優秀なベルトサンダー
がまだ殆ど無かった頃に、その
新工法の平肉えぐりができるの
だぞと、削り技術を見せる為の
ものだったんですよ。
なので、中肉えぐりをすれば
高級な高度技術を駆使された
ナイフのようなイメージにで
きた。
バックがやってラブレスが飛び
ついた。
ラブレスなどは初期作品はコン
ベックスやフラットが主体だ
ったのに、ある時期から全て
をえぐり物にして技術が高度
であるかのようなイメージ戦略
を展開してそれが成功した。
だが、ラブレスの歴史的功績
は、システム化された同パターン
のシルエットを類別化させて
鋼材削りによりナイフを完成
させられる道筋を作った事だ。
ホローグラインドを広めたの
がラブレスの功績ではない。
ホロー蔓延はむしろ刃物の本
質性を損なった。

真の姿を見るのは人の歴史で
とても大切だ。
ホロー蔓延は、ある時期から
「ホローでないと売れない」
から広まった。
そして、それがあたかもナイフ
の定番常識形状であるかのよ
うな誤謬も同時に広く感染し
た。
元々は削りの特化技術を見せ
つけるために登場したのに、
構造的な優位性があるかのよ
うな誤認が広まった。
それが真実の歴史だ。

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