ライブに向けて大勢のファンで埋め尽くされていくアリーナ=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール

 オリジナルテレビアニメ「ゾンビランドサガ」のライブイベント「ゾンビランドサガLIVE~3D Virtualフランシュシュ ライブ&イリューゾン!!~」が10月23日、千葉市の幕張メッセイベントホールで開かれた。声優がキャラクターに扮(ふん)する従来の形式とは異なり、キャラクター自身が観客の前でパフォーマンスするシリーズ初の試み。言わば「次元の壁」を越える意欲的なライブで、ファンやトークパートに出演した声優6人は「フランシュシュが確かにいた」と感動を分かち合った。

 ◇強い思いと挑戦

映像と本物の炎やレーザーなどを組み合わせた演出でステージとの一体感を演出するゾンビランドサガのライブイベント=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール

 作中のアイドル「フランシュシュ」のメンバー7人が、ステージ正面の巨大画面にほぼ等身大の3Dバーチャルモデルで登場。アニメ本編と同様、人の動きをそのまま取り込むモーションキャプチャー技術を用いたパフォーマンスで、ダイナミックなダンスを自然に表現した。

 ステージから噴き出る炎やレーザー、客席に舞う羽や銀テープは本物。「イリュージョン」では雪を降らせたり香りを使ったりする演出もあった。目や耳に限らず触覚や嗅覚も刺激するライブの醍醐味を味わわせた。

 フランシュシュを演じる声優による従来のライブは、これまで唐津市のアルピノを含め複数回実施されている。いずれもファンを大いに熱狂させ、今後も同様の形式ならファンを満足させられるのは確実と言えた。

 そんな中で企画された今回のライブには「アニメのキャラクターと空間を共有する体験をファンに届けたい」という、製作側の強い思いと挑戦がにじんだ。歌は既発の音源にないシャウトや観客へのあおりが入った生の歌声を思わせるものだったし、「イリュージョン」も次元の壁を越えてメンバーとファンをつなぐ仕掛けだったと理解できる。

 ◇アップデート

ライブ会場の外に設けられたグッズ売り場。好きなキャラクターの名前(「1号」など)が書かれたTシャツやうちわなども、フランシュシュを実在するアイドルとして応援する気分を高める=千葉県千葉市の幕張メッセ

 アニメのキャラクターと同じ空間を共有する、すなわち「2次元の世界へ行く」というのは、一昔前まではインターネット文化で定番の冗談に過ぎなかった。ただその夢に限りなく近づく技術がいまはある。キャラクターを立体モデルの映像で表現する手法は、バーチャル歌手「初音ミク」をはじめさまざまなライブで用いられている。

 一方ゾンビランドサガは、佐賀県内の各地をアニメに登場させ、数え切れないほどの「聖地」を誕生させた。まちのあちこちに「彼女たちがここにいたんだ」と感じられる場所が既に存在する。

 ただ今回のライブを含め、最近のコンテンツ展開からは、このファン心理を一段階アップデートさせようとする動きが随所に感じられる。ライブのひと月前に発表されたメンバー紹介曲「We are FranChouChou!」に、こんな歌詞がある。

 これだけは覚えとけ/会えないときだって/ずっとずっとこの街で頑張ってるよ

 「この街」が佐賀を指すことは明白だが、これまでの歌で記号的に用いられることも多かった「サガ」ではない、ある種の実感を伴う「この街」という詞は、よりリアルなメッセージに響く。

 フランシュシュがいま届けようとしているのは「いまこの瞬間も『この街』のどこかで頑張っている」「ライブに行けば〝本人〟に会える」という実感だろう。聖地で抱く「この場所にいたんだ」という憧れにとどまらない、フランシュシュをもはや佐賀の日常に当然存在するものと捉える感覚―。それはファンが、作中の他のキャラクターと全く同じ視点に立つことでもある。そのアップデートのために、今回のライブは重要な意味があった。

それぞれの「推し」のTシャツやタオル、うちわを手にライブを楽しんだファン。中にはコスプレ姿で来場した人も=千葉県千葉市の幕張メッセ

 ◇リアルもバーチャルも

 初めての試みで、そうした狙いが全てうまくいったわけではないかもしれない。だが今後、キャラクターと時空間を共有する体験はさらなる進化も期待できる。世間には既に、より高精細な3Dバーチャルモデルや、さまざまな角度からバーチャルアイドルを映すAR(拡張現実)技術を導入したライブもある。バーチャル技術を用いたライブは日々、より深い「リアル感」が追求されている。

トークパートに登場した「フランシュシュ」の声優陣。右から本渡楓、田野アサミ、種田梨沙、河瀬茉希、衣川里佳、田中美海(敬称略)=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール

 中には従来の声優陣によるライブを望むファンもいるだろうが、リアルとバーチャルは両立する関係にあり、どちらかが取って代わるものでもないはずだ。実際、ライブ後のトークパートで、声優陣は新曲について「私たちもやりたい」「あの動きできるかな」など、自らがパフォーマンスする未来を自然と想像していた。

トークパートに登場し、フランシュシュのパフォーマンスを見た感動をファンと分かち合った声優の(右から)本渡楓、田野アサミ、種田梨沙(敬称略)=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール
 
トークパートに登場し、ゾンビランドサガのクイズなどでファンと交流した声優の(右から)河瀬茉希、衣川里佳、田中美海(敬称略)=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール

 どちらのフランシュシュも「本物」として楽しめれば、表現や演出の可能性は大いに広がる。従来のライブで表現に限界があった0号(山田たえ)という切り札も3Dバーチャルモデルによって手に入れた。今後もしかすると、声優陣と3Dバーチャルモデルの共演というぜいたくなイベントだってできるかもしれない。ライブに参加していた男性(25)=札幌市=も「フランシュシュは進化している。新しい取り組みに挑戦していくスタイルを応援したい」と、さらなる展開に期待した。

 と、思わず無責任な演出を夢想してしまうが、やはり待ち遠しいのは、リアルであれバーチャルであれ、本拠地である佐賀で彼女たちの姿が見られる機会だ。2023年5月にオープンを控えるSAGAアリーナがその舞台となることを、ファンは確信にも近い思いで期待しているが、果たして―。(志垣直哉)

ライブのクライマックスで銀テープが飛ぶアリーナ=千葉県千葉市の幕張メッセイベントホール