法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

評論よりも興行収入が映画の価値を決めるなら、『STAND BY ME ドラえもん』は『シン・ゴジラ』を超えた傑作

 柳下毅一郎氏が『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を評価不能としたクロスレビューに対して、あたかも映画の好評不評を予測することが評論家の仕事であるかのようなツイートが注目をあつめていた。


名作映画とやらしか見ない人生送ってると、あの特級エンターテインメントを全世界の大衆と共有できないんだなあと可哀想に思う。まあライターだ評論家だって名乗る以上そうするしか飯食えないんだろうけど。雑誌編集者って立ち位置のが一般聴衆に一番感性近いのが味わい深い。


プチバズったら「柳下は名作以外も見てるんだ!」って貴重なご指摘を頂いたんですが、そんな幅広く見てるのにマリオが世界的に大好評得るの予測できず、あまつさえ罵倒まで加えちゃったの?って余計に傷が広がるだけのような🤔

 むしろ世界的な大好評などに左右されなないことこそ、誠実な評論家の姿勢ではないだろうか。
 柳下氏といえば世間の評価どころか、国内外で批評家から高評価されていた園子温作品もこきおろすような人物である。
『黒い殺意(人間蒸發)』 -日本名物をすべて盛りこんだ偽園子温映画。いつのまにパチられるほどのブランドになっていたのか (柳下毅一郎) -2,487文字- | 柳下毅一郎の皆殺し映画通信

 ぼくは自他共に認める(監督本人公認の)アンチ園子温派筆頭なのだが、そういう人間は昨今では少ないらしく、とりわけ海外での園子温人気は圧倒的である。まあぼくが園映画について嫌っているところの作為性だったり、これみよがしの描写だったりといったものが、求めている日本映画そのものだったりするタイプの観客がいるのだろう。

 もちろん個々の評論内容に不誠実なところがあれば容赦なく批判すればいいし、なんなら好きな作品を低評価されたことへの反発だけを根拠に非難してもいい。評論とはそういうものだ。
『エスパー魔美』の名言は、批判を忘れておしまいにしようという主張ではない - 法華狼の日記


公表した表現が批判されることを覚悟すべきこと。批判することも反発しかえすことも自由であること。


 さて、下記ページの日本国内の興収ランキングをくらべると、『STAND BY ME ドラえもん*1と『シン・ゴジラ*2は、ちょうど72位と73位に入っている。
歴代ランキング - CINEMAランキング通信

72 STAND BY ME ドラえもん 東宝 83.8 2014/08/08 *
73 シン・ゴジラ 東宝 82.5 2016/07/29

 それぞれシリーズファンの評価は正反対な印象があるものの、近い時期に長期コンテンツの外様スタッフが国内では最高のVFX技術で単独作品としてリメイクしたという意味でも通じるところがある。
 さらに全体を見れば日本の実写映画で最も価値があるのはドラマの劇場版2作目になるし、日本のアニメ映画は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と『千と千尋の神隠し』以外は『アナと雪の女王』以下となる。

10 踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ! 東宝 173.5 2003/07/19

4 アナと雪の女王 ディズニー 255.0 2014/03/14

 世界的な興収を比較するなら、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『千と千尋の神隠し』もふくめて基本的に日本のアニメ映画はディズニーやピクサーに圧倒的な差をつけられている。
Top Lifetime Grosses - Box Office Mojo
 人気シリーズでいうと『スター・ウォーズ』は「フォースの覚醒」*3が世界5位、「最後のジェダイ*4が世界17位となり、どちらも現時点では25位の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』よりは順位が高い……いやTV放映版の視聴後に映像ソフトを買ったくらいは好きだし一部の不評が不当と思うくらい意欲作だとは思ってるが「最後のジェダイ」高すぎない?!


 ともかく実際には物価の変動や、そのなかでの映画鑑賞料の比率、映像ソフトや配信による収益形態の変化などもあって、興行収入を単純比較することに意味はあまりない。映画そのものの内容だけではなく、シリーズ化やメディアミックスによるファン層の充実や、配給や宣伝の多寡、そして新型コロナ禍による映画鑑賞形態の変化も観客動員を左右していく。
 そのような興行収入の上下だけが本当に映画の価値を決めるなら、映画評論家の仕事は必要ないが、そもそもレビューの必要もない。ただ興収ランキングを提示すればいいことになる。
 もちろん、マーケターの仕事とレビュアーの仕事は異なる。特にクロスレビューのような文字数が制限されつつ同時に他のレビューが提示される場であれば、共感しやすさや正確さよりも、ゆるぎない独自の視点が期待されることもある。
 むしろクロスレビュアー全員が高得点をつけることは、それ自体が売りになるくらい特異であるし、だからといってヒットと一致するわけでもない。


アニメージュ1月号/絶賛発売中】クロスレビューコーナーでは、まさかの満点作品が誕生⁉ 周防パトラさんをはじめ、いつも愛ゆえに厳しく作品を評価するあさりよしとおさんなど5人が全員星5つ。どの作品か、チェックチェック!

 上記ツイートの作品も、ミニシアター系としてはそれなりの興収をあげたものの、日本アニメ映画のランキング100位以内にすら入っていない。しかし、だからといって価値がないクロスレビューだとはならないだろう。