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スタートアップが集う「交流拠点都市」として――「クリエイティブで都市をアップデートする」イベントレポート

2020年11月6日(金)、福岡市にある官民共同型の創業支援施設「Fukuoka Growth Next(以下、FGN)」にてオンラインイベントが開催されました。今回のテーマは「クリエイティブで都市をアップデートする」。福岡市長・高島宗一郎氏を迎え、カリスマクリエイターとして知られるThe Breakthrough Company GO 代表取締役でクリエイティブディレクターの三浦崇宏氏とONE MEDIA 代表取締役の明石ガクト氏とトークセッションを繰り広げました。モデレーターはNewsPicks Studios CEOの佐々木 紀彦さんです。

登壇者紹介(左から、敬称略)

  • 佐々木 紀彦 (NewsPicks Studios CEO、モデレーター)

  • 高島 宗一郎 (福岡市長 )

  • 三浦 崇宏 (The Breakthrough Company GO 代表取締役、クリエイティブディレクター)

  • 明石 ガクト(ONE MEDIA 代表取締役)

まずはThe Breakthrough Company GO 代表取締役・三浦崇宏氏、ONE MEDIA 代表取締役・明石ガクト氏の自己紹介から始まり、二人の「福岡愛」について語っていただきました。福岡市長・高島宗一郎氏は「現代を代表するクリエイターの二人から『もっとこうしたら福岡はおもしろくなる』というストレートな提案を聞きたい」と期待を寄せます。

アーティストが集まる街こそがカギ

三浦崇宏(以下、三浦)都市は、人間が経営できる最も大きな単位です。クリエイティビティによって運営されている都市の成功例としては、国内では京都がよく挙げられます。京都では古き良きものを残して、「高い建物はやめよう」「カフェやコンビニも街の空気の中に溶け込む造りにしよう」とルールを設けました。まち全体が、効率や論理を超えた美的な感覚を大切にする考えにもとづいています。

目の前の効率や論理だけを追ってしまうと、本当に美しいものや長く価値を持ち続けるものが残るのが難しくなってしまいます。そのため、壮大な都市を中長期的に経営していくには、大前提としてクリエイティビティが必要不可欠です。そのうえで福岡のことを考えると、高島市長が著書『福岡市を経営する』で言及されていた、「挑戦する人が多いことが重要だ」という言葉にヒントがあります。具体的には、アーティストが集まる街を目指すべきだと思っています。

アートは、スタートアップと構造が非常に似ています。最初はものすごく苦労しますが、ある日突然価値が反転して、世界を一変させる可能性を持つ。若者が一発逆転の夢を見ることもできます。高島市長は今、積極的にスタートアップを応援され、福岡市に起業家が集まる制度やFGNのような施設を次々と増やしている。スタートアップと同じくらい、アーティストやアートに関係する人が福岡に集まる行政ルールや仕組み、施設づくりをすれば、都市をもっとクリエイティブにアップデートできると考えています。


高島市長は三浦氏の提案にすぐさま同意を示しました。美術や芸術の敷居を下げ、市民にアートを身近に感じてもらうことを目的に、最近では福岡市美術館で福岡を拠点に活動する若手アーティスト「KYNE」のイラストを壁画に採用し、美術館に入らずともアートが目に入るパブリック・アートへ取り組みについて語りました。明石氏は「KYNE」のファンであることを話し、必ずしも「福岡」という主語がなくとも、福岡は素晴らしいものに溢れている街だと話します。

コントラストのあるコンパクトシティ

 明石ガクト氏(以下、明石)アーティストのKYNEさんのアトリエ兼ショップ「ON AIR」をインスタグラムで初めて見たとき、東京にあるショップかと思って所在地をチェックしたら、そこでようやく福岡のお店だということに気づきました。アカウントID「onair_intl」にも、「intl(internationalの略)」が入っていて、最初からグローバルを意識して発信されている点にも興味を持ちました。「ON AIR」以外にも、福岡・赤坂にある茶酒房「万(よろず)」や個性的な麺酒場「つどい」などは、世界のどこにあってもきっと人気店になるポテンシャルがあると感じています。だから僕からは、「福岡のまちづくり」から「福岡」という言葉をあえて外すことを提言します。

三浦:「福岡」という枠組みを外して、日本の中心、アジアの中心、世界の中心として振る舞ってみると、何か変わるのではないかということですね。

佐々木紀彦氏(以下、佐々木) 私自身は福岡出身で、福岡という街を客観的に捉えることなかったので、お二人の視点はすごく貴重です。

高島宗一郎氏(以下、高島市長)そうですね。「最初からグローバル」のコンセプトは、スタートアップでも大切にしてきました。現在、11カ国15拠点とMOU(Memorandum of Understanding:了解覚書)を結び、良質なコンテンツは積極的に海外へ向けて発信しています。福岡の魅力はアートや歴史、ビジネス、グルメ、歓楽街、自然など多岐に渡っていて、ひとことでは言い表せません。それぞれの魅力を生かして博多は「歴史」、天神は「ビジネス」、大濠は「憩い」などエリアに個性を持たせることで、モザイク的なコントラストのある街づくりを試みています。

明石:それぞれに魅力がありながらも、歴史ある博多エリアとビジネスエリアの天神の間が、車なら10分で移動できる。東京にはない福岡のコンパクトさは、他の都市と比べても非常に優位性がありますね。

化学反応を起こす場づくり

高島市長は、「福岡は『交流拠点都市』だ」と言います。アジアや世界をつなぐ玄関口として栄え、今なお人々が行き交う場で起きる化学反応とは。

高島市長:福岡市は全国20市の政令指定都市で唯一、一級河川を有していません。一級河川がなければ、大量の水を必要とする製造業などの工場を建設するには不向きです。となると、知的創造層の人材をいかに抱え込むかが重要です。国内外問わずさまざまなジャンルの一流が集まれば、大きな化学反応が起きるはずです。三浦さんと明石さんにも、ぜひ来てほしいと思っています。

明石:いい土地が見つかれば、すぐにでも移住したいですよ(笑)。僕と同じ動画の業界で活躍する「KOO-KI」の江口カンさんは、若い頃は東京に出ていらっしゃいましたが、福岡でしかできない映像を撮ろうと帰郷し、映画『めんたいぴりり』など数々のフィルムを残されています。ゲームソフトの制作会社「レベルファイブ」もそうですが、福岡独自のコミュニティが形成されることで、クリエイティビティにつながっています。福岡市内で個人的に注目しているエリアは、箱崎ふ頭周辺の港湾地区です。飛行機で福岡に来るときに、窓からコンテナや倉庫がずらっと並んでいる様子が見えて、「ブルックリンみたいでかっこいいな」と思っています。

福岡市の画像検索サイト「まるごと 福岡・博多」より
写真提供:福岡市 / 撮影者:Fumio Hashimoto

三浦:倉庫に憧れるクリエイターは一定数いますからね。

明石:そうそう、倉庫に憧れるクリエイタークラスターがいる(笑)。会社やオフィスは持っていないけど、「何かやりたい」という心意気を持っている人に「こんな場所があるよ」と言えれば理想的ですよね。街の役割は場づくりだと思うので、「箱」や「場」さえ用意すれば人が集まりやすいと思います。

高島市長:場づくりの観点でいうと、福岡のような地方都市は「場」を用意しやすい環境です。例えば「スタートアップが新しいサービスの実証実験を始めたい」「成功事例をつくりたい」となれば、行政がロケーションや地域の人々との調整、規制緩和などまで後押しできます。地域が隅から隅まで見える地方の強みだと思います。一方で、福岡市は政令指定都市なので、さらに大きな力も発揮できるのが特徴です。

初の事例で常識を変える

続いて三浦氏の質問から、話題は都市経営のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)に移りました。高島市長は「短期、中期、長期に分けて花が咲く指標を準備する必要がある」と語ります。


高島市長:短期的なKPIとしては、まず交流人口の増加を目指しました。そして中期的には知識創造型産業の集積、長期的には支店経済からの脱却を指標に置いています。支店経済からの脱却は、どこの地方都市も抱える課題です。景気が悪くなった時の地方支店の閉鎖を恐れて、通常は本社機能の誘致を促進するのですが、私は本社機能の誘致に加え、ここ福岡で本社を構えるスタートアップを支援することにしました。スタートアップが大きく成長して、福岡に多くの雇用やビジネスを生み出してくれるように、今まさに種をまき続けている状況です。

三浦:何か新しいことを始める人が増える街になるといいですよね。

高島市長:おっしゃる通りです。日本はある意味「完成した国」だからか、遊びが少ないんですよね。遊びをうまく仕掛ければ、福岡だけにとどまらず、その波は全国へ波及していきます。「福岡は粗大ゴミを出す時に、申し込みも支払いもLINEでできるらしい」とかね。市民の「いいな、なんでうちの市にはないの?」という素朴な疑問は、行政を最速で動かします。他都市に成功事例があると、できない言い訳ができなくなるからです。福岡市が率先してその事例を打ち出していくことが、日本を一番早く変える方法だと自負しています。

三浦:例えば、2016年の博多駅前道路陥没事故の対応は素晴らしかったですね。大陥没を1週間で修復した話は世界中が日本に拍手をしてくれたきっかけになったし、あの事例を知っているから、他の行政にも「トラブルがあった際には特例的な緊急対応が必要だ」という意識が生まれたと思います。

高島市長:事故当時は、地下にある上水道や下水道、通信、ガスなどさまざまな地下埋設物を、「直列」ではなく「並列」で一斉復旧させる計画を立てました。通常の復旧作業ではそれぞれの作業は同時並行ではなく、ガスの復旧が終わったら電気、次が通信と、作業は直列つなぎのように進行します。ですが、この時は全関係者を集めて、すべてを同時に進行させる並列作業をお願いしました。普段はライバル同士の企業グループにも、協力して動いていただいた結果、1週間で復旧に至ることができました。私自身に土木の知識や常識がなかったからこそ、「こうしたらいいのでは」と新しい発想ができたのだと思います。「常識がない」ことが、すごく重要だと学んだ瞬間でしたね。この事例は、他のさまざまな事象に汎用できるヒントでもあります。

明石:「早く復旧させます」と宣言するだけではダメで、アクションが伴わないと世の中に何も伝わりません。ブランドにふさわしい行動をとる「ブランドアクション」の考えにも似ていると思いました。

三浦:まさにそうですね。大陥没を1週間で修復したニュースは、福岡市の行政がいかにスピードを持っているか、そして、有事の際に官民がワンチームになる力があるかということを世界中に示した事例です。多くの大企業が抱える問題も、こうした縦割りによる意思決定と変革の遅さが要因なので、これは行政の事例であると同時にワンチーム化のための事例として学んでおくべきだと思います。

スタートシティ福岡宣言

福岡市がさらにアップデートするためには、これからどんなアクションをしていくべきなのか。明石氏は「スタンスを示すこと」だと話します。


明石:必要なのは「何かを始めようとしている人たちの味方になること」だと思います。例えば、今生まれている新しい職業の方々に向けて、「YouTuberやインフルエンサー、TikTokerに優しい街です」と言うと、興味を持つ若者はいるだろうし、クリエイタークラスターも同様だと思います。

三浦:なるほどね。高島市長、今掲げている「スマートシティ」という言葉を「スタートシティ」に変えるのはどうですか。明石さんの提案も踏まえ、あらゆる事業を始めるうえで優遇されている街にしてしまうんです。SNSやアートの表現者としてスタートしてもいいし、今まで通りスタートアップも応援する。そんな「スタートシティ福岡宣言」はどうでしょう。

高島市長:わかりやすくて、イメージもつきやすい。ジャンルも幅広く網羅できるし、いいフレーズをいただきました。アメリカのシアトルのように、地方でも企業の本社があり、その実績を一定数集積できれば、「地方でしかできないこと」を実現できます。クリエイティブの力を借りて、このロールモデルを福岡でつくることは大事な使命ですね。

佐々木:福岡を拠点に、我々が日本を変えるリアリティショーの役者にならないといけませんよね。

明石:今日はその予告編ですね。

高島市長:福岡の祭り「博多どんたく」で用意されているのも「舞台」だけです。この舞台を用意するのが福岡の役割で、踊るのは「あなた」。だから福岡は、これからもみなさんが舞い踊る舞台を用意し、サポートしていきます。

三浦・明石・佐々木:踊り狂いましょう!


最後は高島市長の完璧な締めくくりで、盛大な拍手とともにトークセッションが終了しました。福岡市という舞台でどんなパフォーマンスが見られるのか。街のさらなるアップデートに注目が集まります。

本セッションの模様は下記のYouTubeでも見ることができます。

文章:安永真由(株式会社チカラ
写真:池田はるか

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