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サブカルチャー 2023.05.05(金)

新刊『地下アイドルとのつきあいかた』(ロマン優光/太郎次郎社エディタス)出ました):ロマン優光連載238

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第238回 新刊『地下アイドルとのつきあいかた』(ロマン優光/太郎次郎社エディタス)出ました

 この春、女性地下アイドルオタクについての本『地下アイドルとのつきあいかた』を太郎次郎社エディタスから出し、他社の本にもかかわらず編集氏から「今回、新刊についてでいいですよ」というメールが来て、この連載で紹介せてもらえることになった。編集氏優しい!

 地下アイドルと繋がるにはどうすればいいかを説明した実用書…では全くなく、自分が地下アイドル現場でオタクとして見聞きした、地下アイドルとオタク、オタク社会の悲喜こもごもと、そこから考えた「関係性」に対する考察が書かれており、繋がりを本気で求める人には全く役に立たない本である。

 アイドル・アイドル文化自体に関するメディアに掲載される文章には様々なアプローチのものが存在するが、アイドルオタクに関しては、オタクによる「HOW TO オタク」的なものや「オタク楽しい」みたいなものか、逆に外側の人間による「オタクは異常」という視点からのものが大半である。

 本書では、そういったオタク礼讚でもオタク否定でもない、良い部分も悪い部分も含めて、自分の体験に即してオタクの実像を捉えようとしてみた。

 だから、アイドルオタク当事者にとってみれば当たり前のことが書かれていることも多い。そういったオタクにとって当たり前の行動や行動原理について、できるだけ言語化しようと試みた本でもある。

 アイドルに興味がない知人、アイドルに詳しくない知人から「今、応援しているアイドルは誰ですか?」と聞かれることがよくあるが、どうにも居心地が悪いものを感じてしまう。

 彼らが想定しているオタク像は、アイドルの女の子たちが夢をかなえるための活動を純粋な気持ちで応援し、サポートしている人たちなのだろう。

 一方でアイドルオタクについて「普段の生活で女性に縁のないキモい中高年のロリコンおじさんが性欲剥き出しで若い女の子に近寄っている」「若い女の子に金を巻き上げられている下心丸出しの愚かなキモい中高年のロリコンおじさん」といったイメージを持っている人もいる。

 どちらのイメージが実像に近いかというと、どちらも正しいとは言えない。純粋な気持ちで応援している善良な人も、性欲剥き出しのキモいおじさんも実在するが、それはアイドルオタク全体の中では少数派に過ぎない。大半のオタクは聖人でも異常者でもない、普通の人間だ。純粋な善意も、自分なりの欲望も持っている、日常でよく見かける普通の人たちだ。

 だから、アイドルオタクとはこういった人種だと言い切ることはできない。外部から見た奇妙に思える行動や習慣も、一つ一つ切り分けて詳細に考えていけば、普段の生活で見かけるものの延長線上にあるものであったり、日常でよく見られる欲望の発露がより剥き出しになっているものに過ぎない。

「アイドル現場に通うものの中にはアイドル・ライブ自体が主目的ではないものがいる」という話を聞くと理解に苦しむ人がいるだろう。しかし、その目的がオタク社会での自分の地位の確保や誇示にあるとするならば、それは小規模なコミュニティーで起こりうる本末転倒な事態であり、日常でよく見かけるものとかわらないという理解をすることもできるだろう。

 人間というものは生きている時代や社会の影響から逃れることはできない。そうである以上、オタク社会も現代日本社会の縮図であり、そこで起こる問題(それがアイドルに向かうものの場合、多くはミソジニーに起因する)の大半は現代社会の抱える問題の反映である。日常生活でのしがらみを切り落とした外部の視線を意識しない閉鎖的なコミュニティ内で起こるがゆえに、より剥き出しの形で表出するだけのことである。

 逆に、日常のしがらみを切り落としているからこそ、善意であったり、純粋な気持ちの表出も明快な形でおこなわれる。汚いものが露骨にあらわれる一方で、綺麗なものも純粋な形であらわれる。そして、大半のオタクはそのどちらにもくみしないまま、その間で生きている存在だ。もっと言えば、同じ人間がその双方の行動をとっていることもある。 

 この本は現役の女性地下アイドルオタク・オタク経験者に読んでほしいのもあるが、共通する構造を抱えているかもしれない、他の生身の人間を対象にするコンテンツのオタクにも読んでもらえたらありがたい。なにより、アイドルオタクに対して今まで興味がなかった人、何の知識もなかった人にこそ読んでほしいというのはある。

 フィクションに登場するアイドルオタクの多くは旧来依然とした偏見に基づいたものが多く、現実味に欠けるものが多いように感じることが多い。聖人化されている場合も怪物化されている場合も。良いところ、悪いところをひっくるめて実情にそったものに近づいて欲しい気はする。そして、それは旧来のイメージ通りの単純化されたオタク像よりも、より複雑であるがゆえに興味深く面白いものなのではないかと思う。

 あと、この連載、隔週連載だったのが今月から毎週掲載されることになりました。あらためて、よろしくお願いします。

 

(隔週金曜連載)

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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
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