東京のクラブ「青山蜂」が風俗営業法違反容疑(無許可営業)で摘発されたことを受け、音楽ファンやミュージシャンらの間で波紋が広がっている。BuzzFeed Newsは、担当弁護士に規制の問題点などを聞いた。

コムアイさん「胸打たれる瞬間に感謝」
2016年の改正風営法施行後、クラブの摘発は全国で初めて。報道が流れると、ネット上には悲痛な声が広がった。
「青山蜂なくならないでほしい」「なんで良い音楽と幸せな空間を提供して逮捕されなきゃいけないの?」
音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんは、ツイッターでこう綴った。
青山蜂はいいクラブなので、なくならない気がします。自分がパフォーマンスをする場所ではないけれど、いっぱい栄養をもらって、音楽の清さに胸打たれる瞬間がたくさんあって感謝しています。10ルクスない暗闇に人が揺れて、音楽を粘土のようにして遊ぶ、欲望に弱く生命力の強い人たちを愛しています。
4回にわたってツイートし、最後は「きれいなところから面白い文化はうまれない!」という言葉で結んだ。

ダンス営業縛ってきた風営法
戦後長らく、風営法では、客にダンスや飲食をさせる営業が「風俗営業」として扱われてきた。
無許可営業には2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科され、仮に許可を取ったとしても、営業時間は原則午前0時まで。深夜営業のクラブはすべて「違法」だった。
2010年以降、警察の取り締まりの強化で閉店に追い込まれるクラブが続出。利用者やミュージシャン、経営者らによる法改正運動が巻き起こり、2015年に改正法が成立、条文から「ダンス」の文字は消えた。
法律は変わったけれど
ではなぜ、いまだにクラブが摘発されているのか。
法改正によって深夜のクラブ営業が「全面解禁された」と誤解されがちだが、実際には許可を得れば営業できる「条件付き解禁」に過ぎない。
新風営法では、深夜にお酒を飲ませ、「遊興」(ダンスなど)をさせる業者は、「特定遊興飲食店」として許可を取得することが義務付けられている。
ところが、営業可能エリアは繁華街などの一部に限られており、青山蜂のように長年営業してきたクラブでも、エリアからこぼれてしまうケースが少なくない。
アーティストの会が声明
DJやラッパーらでつくる「クラブとクラブカルチャーを守る会」(Zeebra会長)は、摘発を受けてこんな声明を発表した。
当会は、クラブが特定遊興飲食店営業の許可を取得し、地域社会の一員として、住民の方々と対話の機会を得ながら、営業を行っていくことが非常に大切なことであると考えています。
一方で、特定遊興飲食店営業の営業所設置許容地域が街の実情に見合わない狭い範囲で指定されてしまっているという現実もあります。このため、店舗の中には、特定遊興飲食店営業の許可を得たくても取得できない店舗も出てきていると聞いています。
このような店舗は、特定遊興飲食店営業の許可を取得し、警察の指導を受けながら健全な営業を目指したいと考えているにもかかわらず、それが叶わない状況に置かれております。
当会といたしましては、地域住民の方々の理解を得ながら、より広い地域で特定遊興飲食店営業を営むことができる環境が整備されていくことを願っております。

担当弁護士「文化的に重要な店舗」
摘発された青山蜂の担当弁護士で、風営法改正運動で中心的な役割を果たしてきた斎藤貴弘弁護士は、BuzzFeed Newsの取材にこう答えた。
「現在、深夜営業可能なエリアはかなり狭く、多くのクラブが外れてしまっています。そのなかには蜂のような、20年以上にわたって東京のクラブカルチャーを下支えしてきた文化的に重要な店舗も多く含まれています」
「風営法の規制が強いため、日本の都市部のクラブカルチャーは、摘発リスクが高い大箱ではなく、多数の小箱の集積から成り立っており、それが多様でユニークな文化を育んできました」

エリア見直しへ向けた提言の矢先に
営業時間や営業地域は、風営法本体ではなく都道府県ごとに条例で定められているが、法改正後もエリアの見直しは進んでいない。
エリア拡大を求めるクラブ側の声などを受け、自民党のナイトタイムエコノミー議員連盟では昨年末、以下のような内容を盛り込んだ提言をまとめた。
風営法上の各種営業の営業地域や営業時間の制限について、事業者、地域住民その他の関係者の意見に配慮するとともに、各地域におけるナイトタイムエコノミー進展に向けた官民の取組等の情勢も踏まえて条例の内容を検討すべきであり、国としてもこうした検討に対し、必要な情報提供や支援を行う事

議連のアドバイザリーボード座長も務める斎藤弁護士は言う。
「警察庁の担当者も出席したナイトタイムエコノミー議連の会合で、エリア指定を見直すという提言がなされました。いままさに、周辺地域の安心安全を保持しつつ、エリア指定を見直していくための準備をしていたところでした」
「そのようななかでの摘発は驚きを禁じ得ません。勾留するのは明らかに行き過ぎだと思います」
法改正で合法営業の道が開かれたことはクラブ業界にとって大きな前進だが、置かれた環境は依然として厳しい。
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