重い病気にかかった患者がどんな治療を受けるかを、米国ではアルゴリズムの判断に一部頼って決めている。こうしたなか、19年10月25日に『サイエンス』誌に掲載された研究によると、数千万件単位の医療を左右するアルゴリズムが、黒人患者と比べて白人患者を体系的に優遇する結果をもたらしていたことが明らかになった。
ある米国の大規模医療機関の記録を分析したところ、糖尿病や腎臓疾患などの複雑で慢性的な疾病のある人向けの医療サーヴィスについて、白人患者が優先的に受けられるようソフトウェアのアルゴリズムが作用していることがわかったのだ。
黒人患者の医療ニーズを低く算定
この論文では調査対象となった病院の名は明らかにせず、「大規模な学術病院」とだけ記載している。この病院は米国内のほか多くの医療機関と同様に、特に複雑多岐にわたるニーズをもつプライマリーケア患者をアルゴリズムの助けを借りて見極めているという。
こうした現場で使われるソフトウェアは、複雑な慢性疾患の患者に対して手厚い追加サポートプログラム(個別の診療予約や看護チームなど)を薦めるようにできていることが多い。
今回、研究チームはこの医療機関で扱った約5万件の医療記録を分析し、アルゴリズムが黒人患者の医療ニーズを有意に低く算定している実態を突き止めた。アルゴリズムの計算に従って特にケアが必要な患者を選定すると、病状が同程度の場合、黒人患者より白人患者が優遇される傾向にあることが明らかになったのだ。
さらに、アルゴリズムがリスクスコアを同等と評価した黒人患者と白人患者を比較したところ、黒人患者のほうが血圧の数値が高い、糖尿病をうまくコントロールできていないなど、重度の健康問題を抱えていることが判明した。人種が理由で、追加サポートプログラムの対象から外される患者が出ていたのだ。
なおこの病院では、リスクスコアが一定数以上になる患者について、自動的に追加サポートプログラムの対象とするか、医師による個別の検討を実施する措置をとっていたという。
研究では、このアルゴリズムがもたらすバイアスにより、追加サポートを受ける黒人患者の割合が本来は約50パーセントいるはずのところ、実際には20パーセント足らずと半分以下にまで削減されていたと推測している。本来受けるべきだったケアを受けられなかった患者は、のちに緊急治療室へ運ばれたり入院を余儀なくされたりする可能性が高くなったと考えられるだろう。
「結果には明確な差が現れていました」と、今回の研究を実施したカリフォルニア大学バークレー校の研究者で医師のジアド・オーバーマイヤーは話す。この研究には、ほかにシカゴ大学とブリガム・アンド・ウイメンズ病院、マサチューセッツ総合病院(いずれもボストン)の医師らが参加している。
現実世界の不平等がアルゴリズムに反映された
論文は、アルゴリズムを提供した企業を明記していない。だがオーバーマイヤーいわく、同社は問題を認めて対応を進めているという。
オーバーマイヤーは、このアルゴリズムが7,000万人の患者に使われており、保険会社の系列会社が開発したと7月の講演で説明している。これを踏まえると、開発したのは医療保険大手ユナイテッドヘルスの子会社にあたるオプタム(Optum)だと考えられる。同社は自社製品について、コストを含む患者のリスクを予想するシステムで、「7,000万人以上の人々の命のマネジメント」に利用されていると記している。