〈社説〉入管法改定案 重大な懸念はらんだまま

 収容や送還に関する入管当局の権限が強まり、制度のゆがみを押し広げる恐れは残ったままだ。一定の修正が図られ、根本の問題がいくらかでも是正されたように捉えては核心を見誤る。

 入管難民法の改定案である。自民、公明、日本維新の会、国民民主の与野党4党が合意した修正案が、衆院の法務委員会で賛成多数で可決された。難民認定を担当する職員の研修規定など細部の手直しにとどまり、政府原案の骨格は変わっていない。

 野党との修正協議で与党側は、難民認定の審査にあたる第三者機関の設置を検討することを付則に明記する案も示した。独立した機関の設置は、立憲民主党がまとめた対案の柱の一つだ。

 しかし、付則に定めても実際に設置される保証はないといった声が党内で上がり、協議は決裂した。与党側は白紙に戻している。

 法案の審議で斎藤健法相は「難民認定は出入国管理と密接に関連する。入管庁が行うのが適当だ」と答弁した。法案を通すため、譲歩したかのように取り繕っても、難民認定を入管から切り離す考えがないことは明らかだった。

 修正協議で政府・与党は、日本で育ちながら在留資格がない子どもに、親も含め在留特別許可を出すことを検討する姿勢も見せた。法案の成立と取引材料にしていいことではない。現行法でも法相の判断で在留許可は出せる。法案とは別に在留を認めるべきだ。

 そもそも今回の改定案は、2021年に廃案になった法案の焼き直しである。難民申請中は送還を停止する規定に例外を設けることをはじめ、外国人の命にさえ関わる重大な問題をはらんでいる。

 在留資格がない外国人に対し、収容に代わる制度として設ける監理措置にしても、認めるかどうかを判断するのは入管だ。裁判所は関与せず、収容された場合の期限の定めもない。収容を原則とする政策の根幹は変わらない。

 国連人権理事会の特別報告者らが21年に続いて、法案の見直しを求める公開書簡を日本政府に送っている。送還停止の例外規定に強い懸念を示したほか、司法の審査を欠く無期限の収容は自由権規約が禁じる恣意(しい)的な拘禁にあたることをあらためて指摘した。

 政府はそれに向き合おうとさえしない。斎藤法相は「一方的な見解を公表したことに抗議する」とまで述べている。独善が際立つばかりだ。法案を廃案にした上で、難民認定や収容政策のあり方を根本から問い直す必要がある。