CHANGE / DIVERSITY & INCLUSION

ジェネレーション・レフトはなぜ生まれたのか。【コトバから考える社会とこれから】

左傾化する若者を意味する「ジェネレーション・レフト」。資本主義のほころびを肌で感じ、配分の歪みの是正を求め、環境への危機意識を共有する新世代は、なぜ生まれ、そして何をなし得るのか。
2021年秋、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)開催地となったイギリス・グラスゴーには、同会議期間中に「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)」運動に賛同する若者が世界各地から集い、抗議を行った。

2021年秋、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)開催地となったイギリス・グラスゴーには、同会議期間中に「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)」運動に賛同する若者が世界各地から集い、抗議を行った。

「最近の若者は」という言葉は、ソクラテスの時代から、ネガティブな意味合いで使われていたという。では現代の若者は? イギリスの政治理論家キア・ミルバーンが発明した言葉、「ジェネレーション・レフト」は、世界中に存在する左傾化する若者を指す。「彼らは気候変動への関心が高く、社会運動に積極的に参加。急進的な政治家、ジェレミー・コービンやバーニー・サンダースを支持する傾向がある」と、ミルバーンは話す。この層が生まれた背景とは? 「2008年の金融危機以降、若者が人生に抱いていた理想は打ち砕かれました。年配者のように資産があるわけではない彼らは、賃貸でしか住宅を持てない。年配者が資産を運用する一方で、彼らは常に働かざるを得ない。非常に不公平な社会構造が生まれました」。アメリカの経済界と政府に対する抗議運動として、11年にはオキュパイ・ウォールストリートも始まったが、結果的には何も変わらなかった。金融業界と右派に対して腹を立てた若者たちは、政治への関心を高め、状況を改善しようと積極的に政治運動に参加するようになり、結果的には金融業界と対極をなす、左派に傾倒した。

米ニュースサイト「アクシオス」とコンサルティング会社「モメンティブ」が行った21年発表の世論調査では、資本主義に対して肯定的なアメリカ人は、18歳から34歳までの若者層では過去数年減少し続け、18歳から24歳に限ると、資本主義否定派が過半数になった。医療費や学費、住宅価格などの生活費が高騰する一方で、賃金はほとんど上がっていない現状が、資本主義に対する不満につながっている。下院議員になる以前はバーテンダーとして働いていた「アメリカ民主社会主義者」のメンバー、AOCことアレクサンドリア・オカシオ =コルテスは、若者の心を捉え、団体の人数を著しく増加させている。

「理想を掲げる若者を揶揄するのではなく応援して」
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「ウォーク(Woke)」と「スノーフレーク(Snowflake)」というスラングが2021年、イギリスで流行語になった。いずれも、環境問題や人種・性差別などに立ち向かい、社会的理想を高く掲げる若者を揶揄する表現で、元オアシスのノエル・ギャラガーが大衆紙「ザ・サン」のインタビューで2語を併用してヘンリー王子を非難したことも話題に。11月には英女子校協会会長が、「大人たちは彼らをむしろ応援すべきだ」とその風潮を批判、多くの賛同を集めた。

しかし、社会主義への肯定的な見解が広まり、社会全体が急進的になっていく一方で、現状の経済格差がさらに悪化すると、不満を抱えた若者は、現在どの政党を支持していようと、極右に傾倒していく可能性が高いと、ミルバーンは指摘する。「21年のフランスの世論調査では、若い世代の大多数が極右に移行したという結果が出ています。仏与党が若者の抱えている問題に取り組まず、不満を理解しないなら、若者は政治への関心を失い、選挙にも行かなくなる。これは非常に危険なことです」

欧州のZ世代の78%がフードシステム改善を要求。
イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、スペインに暮らす18~24歳の若者2000人以上を対象に、EIT Food(European Instituteof Innovation and...

イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、スペインに暮らす18~24歳の若者2000人以上を対象に、EIT Food(European Instituteof Innovation and Technology)が行った調査によると、78%が食の生産と供給システムをよりサステナブルに改善することは喫緊の課題だと回答。64%がここ1年以内でフードサステナビリティへの関心がより高まったとし、65%がZ世代はその上の世代よりもこの問題への関心が高いと考えていることが明らかに。

気候変動も重要な要因だ。前世代のツケを払う形で、若い世代は今後ライフスタイルの制限を余儀なくされる。ミルバーン曰く、1980年代後半に気候変動が認識されてから約30年間で、これまでの人類の歴史で排出された量の半分にものぼる炭素が排出された。これに対し、グレタ・トゥーンベリが代表するように、若い世代による抗議運動が頻繁に行われている。「今後10~ 20年間の変化が、200年先の人類の行末を決定します。ジェネレーション・レフトが増加すれば、気候変動への関心も高まり、状況の改善が望める可能性は高いでしょう」。未来のためには、若者と前世代が同じ方向を見て、行動することが不可欠だ。

Photos: Getty Images Main Text: Azumi Hasegawa Special Thanks: Reina Shimizu Editor: Yaka Matsumoto