家事審判に関するメモ書き


目次
1 総論
2 家事審判の期日
3 家事審判における証拠調べ
4 別表第二に掲げる事項についての審判事件における手続保障
5 15歳以上の子の陳述を聴く必要がある場合
6 家事審判の申立ての取下げ
7 家事審判事件の記録の閲覧等
8 関連記事その他

1 総論
(1) ①特殊調停事件及び一般調停事件が不成立の場合,人事訴訟又は民事訴訟に移行するのに対し,②別表第二の調停事件が不成立の場合,当然に家事審判に移行するという違いがあります。
    そのため,前者及び後者を同時に申し立てる場合,例えば,離婚調停(=一般調停事件)及び婚姻費用分担調停(=別表第二の調停事件)を同時に申し立てる場合,申立書を分割するのが普通です。
(2)ア 別表第二に掲げる事項についての調停事件が家事審判に移行した場合,当事者が合意で定める家庭裁判所で家事審判をしてもらうことができます(合意管轄。家事事件手続法66条・民事訴訟法11条2項及び3項)。
イ 平成24年12月31日までは,家事審判に関する合意管轄は認められていませんでしたし,離婚訴訟等の人事訴訟の場合,現在でも合意管轄は認められていません。
(3) 別表第二に掲げる事項(例えば,財産分与及び年金分割)について,同事項に該当しない他の家庭に関する事項と併せて調停の申立てがされた場合であっても,申立人が調停不成立のときに審判への移行を求める意思を有していないなど特段の事情がない限り,その事件名にかかわらず,家事事件手続法272条4項に基づいて審判に移行します(最高裁平成23年7月27日決定参照)。

2 家事審判の期日
(1) 家庭裁判所は,別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,審問の期日において,当事者の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法68条)。
    ただし,請求すべき按分割合に関する審判事件(=年金分割事件)の場合,審問の期日における当事者の陳述を聴かずに,書面照会による陳述聴取だけがなされることがあります(家事事件手続法233条3項参照)
(2) 調停手続が選考した場合に調停が不成立となった後の審判手続では,以下のような方法で当事者の陳述を聴くことが予定されています。
① 改めて審判期日を指定し,審判期日において,審問して陳述を聴取する。
② 審判期日は開かずに,当事者双方に陳述聴取書を送付し,これに回答して返送してもらうことで陳述を聴取する。
③ 当事者双方が出席している調停期日において,調停不成立後,直ちに審判期日を開いて,審問して陳述を聴取する。
(3) 家庭裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調査をするときは,他の当事者は,原則として,当該期日に立ち会うことができます(家事事件手続法69条)。

3 家事審判における証拠調べ
(1) 家庭裁判所は,職権で事実の調査をし,かつ,申立てにより又は職権で,必要と認める証拠調べをしなければなりません(家事事件手続法56条1項・258条1項)し,当事者もまた,事実の調査及び証拠調べに協力しなければなりません(家事事件手続法56条2項・258条1項)。
(2) 家事事件の手続における証拠調べ手続は原則として,民事訴訟法の定める方法によります(家事事件手続法64条1項・258条1項)。
    ただし,公益性・後見性を実現するための職権探知主義,密行性等の家事事件手続の特質から,以下のような特徴を有します。
① 証拠調べ手続は非公開で行われます(家事事件手続法33条)。
② 職権で証拠調べがされることがあります(家事事件手続法56条1項・258条1項)。
③ 以下の規定は準用されません(家事事件手続法64条1項・258条1項参照)。
(a) 証明することを要しない事実についての民事訴訟法179条
(b) 集中証拠調べについての民事訴訟法182条
(c) 参考人等の審尋に関する民事訴訟法187条
(d) 証人尋問を当事者本人尋問に先行させることとする民事訴訟法207条2項
(e) 真実擬制について定める民事訴訟法208条・224条(229条2項及び232条1項において準用する場合を含む)及び229条4項
・ 真実擬制の代替措置として,家庭裁判所は,当事者が正当な理由なく出頭しないとき等には,過料の制裁を科すことができます(家事事件手続法64条3項,4項及び6項・258条1項)。


4 別表第二に掲げる事項についての審判事件における手続保障
(1) 別表第二に掲げる事項についての審判事件は,別表第一に掲げる事項についての審判事件に比して,公益性はさほど高くなく,むしろ自ら処分することのできる権利又は利益をめぐる対立が当事者間にあるという特徴があります。
    そのため,当事者が自ら手続を主体的に追行して裁判所の判断の基礎となる資料を積極的に提出し,相互に反論し合うことができる制度とすることが望ましいと考えられています。
(2) 家庭裁判所は,事実の調査をした場合において,その結果が当事者による家事審判の手続の追行に重要な変更を生じ得るものと認めるときは,これを当事者及び利害関係参加人に通知しなければなりません(家事事件手続法63条)。
(3) 家庭裁判所が事実の調査をしたときは,特に必要がないと認める場合を除き,その旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければなりません(家事事件手続法70条)。
(4)ア 家庭裁判所は,別表第二に掲げる事項についての家事審判の手続においては,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,相当の猶予期間を置いて,審理を終結する日(=主張や資料の提出期限)を定めなければなりません(家事事件手続法71条本文)。
    ただし,当事者双方が立ち会うことができる家事審判の手続の期日においては,直ちに審理を終結する旨を宣言することができます(家事事件手続法71条ただし書)。
イ これらの場合,家庭裁判所は,審判をする日を定めなければなりません(家事事件手続法72条)。
(5) 「審判をする日」とは,当事者等に家庭裁判所が相当と認める方法で審判の告知をすることができるようになる日をいいます。


5 15歳以上の子の陳述を聴く必要がある場合
(1) 家庭裁判所は,以下の場合,15歳以上の子の陳述を聴かなければなりません。
① 子の監護に関する処分の審判(養育費関係は除く)(家事事件手続法152条2項)
② 養子縁組をするについての許可の審判(家事事件手続法161条3項1号)
③ 特別養子縁組の離縁の審判(家事事件手続法165条3項1号)
④ 親権喪失,親権停止又は管理権喪失の審判等(家事事件手続法169条1項)
⑤ 親権者の指定又は変更の審判(家事事件手続法169条2項)
⑥ 未成年後見人又は未成年後見監督人の選任の審判(家事事件手続法178条1項1号)
⑦ 氏の変更についての許可の審判(家事事件手続法229条1項)


6 家事審判の申立ての取下げ
(1) 家事審判の申立ては,審判があった後は,取り下げることができません(家事事件手続法82条1項)。
(2) ①後見開始等の申立て(家事事件手続法121条,133条,142条,180条,221条),並びに②遺言の確認の申立て及び遺言書の検認の申立て(家事事件手続法212条)については,家庭裁判所の許可を得なければ,取り下げることができません。
(3) ①財産の分与に関する処分の申立て及び②遺産の分割の申立てについては,相手方が本案について書面を出し,又は家事審判の手続の期日において陳述をした後は,相手方の同意を得なければ,取下げの効力を生じません(家事事件手続法153条・199条)。
    上記を除く別表第二事件については,審判が確定するまでは取り下げることができます(家事事件手続法82条2項本文)ものの,審判後に取り下げるためには相手方の同意が必要となります(家事事件手続法82条2項ただし書)。


7 家事審判事件の記録の閲覧等
(1) 当事者は,家庭裁判所の許可を得て,裁判所書記官に対し,①家事「審判」事件の記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は②家事「審判」事件に関する事項の証明書の交付(つまり,記録の閲覧等)を請求することができるのであって,以下のおそれがある場合を除き,家庭裁判所は,記録の閲覧等を許可しなければなりません(家事事件手続法47条1項ないし4項)。
① 事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ
② 当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ
③ 当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより,その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ,若しくはその者の名誉を著しく害するおそれ
(2) 当事者は,記録の閲覧・謄写の不許可の裁判に対しては即時抗告をすることができます(家事事件手続法47条8項)。


8 関連記事その他
(1) 家庭裁判所は,民法766条の類推適用に基づき,家事事件手続法別表第二の3項により,別居中の父母の離婚が成立する「前の」,子との面会交流に関する処分を命ずることができます(最高裁平成12年5月1日決定参照)。
(2) 家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付の最高裁判所家庭局長の事務連絡)を掲載しています。
(3) 裁判所HPの「即時抗告」には「即時抗告の抗告状(認容審判に対する不服)」及び「即時抗告の抗告状(却下審判に対する不服)」が載っています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限


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