セックスの悩みはなかなか人には相談しづらいもの。男性がセックスで問題となる性機能障害には、ペニスが勃起しづらい「勃起障害」と、射精に問題がある「射精障害」があります。
勃起障害に関しては、1998年にバイアグラが発売された際に「ED(Erectile Dysfunction: 勃起障害)」という言葉が市民権を得ました。現在、日本国内では3種類のED治療薬を使用することができ、それぞれとても効果があることがわかっています。
その陰に隠れて、「射精障害」が増加していることはご存知でしょうか? 実は、これはかなり深刻な問題なのです。
「早い」か「遅い」か、それが問題!
射精障害は、大きく分けて2つあります。それは、早く射精しすぎて問題となる「早漏」か、射精するまでに時間がかかりすぎてしまう「遅漏」です(その他に、逆行性射精や神経性射精障害がありますが、ここでは分かりやすくするために早漏と遅漏についてのみ概説します)。
非常に興味深いことに、世界の医学界で問題となる射精障害はほとんど「早漏」なのです。海外の学会では、早漏の研究ばかりされています。早漏の定義は、膣に挿入後1分以内に射精してしまうこととされています。過去の報告では、30%の男性が早漏であることがわかっています。
早漏に対しては、薬物による治療が適応となります。海外では新しい薬が出てきていますが、日本国内では使用することができません。理由は、「日本では売れないから」からです。
日本人でも早漏で悩んでいる人はいると思いますが、性に淡白な日本人の国民性が影響して、病院にまでかかって治療しようとする人は少ないのでしょう。製薬会社としてもあまり魅力的なマーケットではないために、日本では早漏の薬は売られていないのが現状です。
ただし、日本の医療の現場で大きな問題となっているのは、早漏よりも遅漏の方です。早漏はまだ射精ができるからいいのですが、遅漏は射精ができないので赤ちゃんを作りたいカップルにとっては大問題なのです。
射精の危機は夫婦の危機
実は、不妊治療の現場では、重度の遅漏(腟内射精障害)患者さんがたくさん受診されます。腟内射精障害の男性は、一人でマスターベーションするときには射精することができるのですが、セックスでは射精することができません。
彼らは、結婚するまでは腟内で射精できなくても困ることはなかったのですが、いざ赤ちゃんを作ろうという段階になって、腟内で射精できないことがわかり、切羽詰まって病院を受診するのです。
射精障害で悩まされるのは男性だけでなく、パートナーとなる女性も同様です。「なんで私に射精してくれないのだろう? 私に魅力がないからかしら?」と考えてしまい、女性側にも大きなストレスがかかります。女性のプライドを大きく傷つけてしまうのです。そのため、セックスレスや夫婦仲が悪くなる原因となってしまい、最終的に離婚に至ってしまったカップルを何度も見てきました。
どれだけの人が射精障害で悩んでいるのだろう?
先日、20代〜70代の日本人男性合計約500名にインターネットで調査を行なったところ、42.5%が自分を「早漏」もしくは「早漏気味」であると回答し、16.1%が「遅漏」もしくは「遅漏気味」であると回答しました。かなり多くの男性が射精の悩みを抱えているようです。
子供を作る中心世代である20代から40代の男性のみのデータを解析すると、セックスをするときに、「半分以上射精できない」または「ほとんど毎回射精できない」と回答した男性はなんと4.9%もいました。現在の人口で計算してみると、130万人以上の若い男性は女性の腟内で射精できないということになります。病院に受診する男性は、本当に氷山の一角であることがわかります。
床オナ禁止!
「床オナ」って知っていますか? 実は、これが膣内射精障害の大きな原因なのです。
過去の報告を見ると、腟内射精障害(重度の遅漏)の原因の半分以上は不適切なマスターベーションによるものということがわかっています。その代表例が「床オナ」、つまり手を使わないで床にペニスを押し付けるマスターベーションです。
いろいろなやり方があるのですが、ペニスを畳や布団にギュギュッと押し付けるようにして、射精に至るケースが多いです。他にも、足に挟むとか、雑誌に押し付けるとか、様々なパターンがあります。聞いたことがない人はびっくりするかもしれませんが、とても多くの「床オナー(床オナをする人)」がいらっしゃって、腟内で射精できずに困って病院に来られます。
一度、床オナにはまってしまうと、なかなか抜け出すことができません。普通の人はペニスを上下に刺激すること(スラスト運動)で射精するのですが、ギューッと押し付けることで射精することに慣れてしまった床オナーは膣の中でのペニスの刺激では射精することができないのです。
長年、ペニスを押し付けて射精していた男性が、いきなり違う刺激で射精しろと言われてもなかなかできないものです。今まで右手で箸を持ってご飯を食べていたのを、左足で箸を持って食べろと言っているのと同じようなものですから。
早漏は脳の病気、遅漏は「性」活習慣病
私は、早漏は脳の病気であり、遅漏は生活習慣病ならぬ「性」活習慣病であると考えています(全てがそうではないのですが、そのようなケースが多いです)。
先ほども述べたのですが、早漏には薬物が有効です。実は、射精は脳でコントロールされています。早漏の薬はどんな薬かというと、抗うつ剤のように脳内物質のセロトニンに関わる薬です。早漏の薬はペニスに効く薬ではなくて、脳に効く薬というのが、面白いと思いませんか?
そして、遅漏の原因の多くは、思春期から続けてきた、床オナを代表とする不適切なマスターベーションです。他にも、過激すぎるアダルトビデオを見過ぎたために性的興奮する対象が特殊であったり、夫婦仲が悪かったりということも原因になります。
逆に、夫婦仲が良過ぎて、パートナーを異性というよりも家族としか見られなくなってしまったために、セックスができなくなってしまうというケースもあります。
高血圧や糖尿病のような生活習慣病は、日々の生活習慣が原因となります。例えば、高血圧を予防するためには、食事の減塩が必要となりますし、糖尿病を予防するためには、カロリー制限や運動が勧められます。生活習慣病は、原因(危険因子)を取り除くことが一番の予防法であり、治療にもなりうるのです。これは、実は遅漏でも同じことなのです。
射精には訓練が必要
正しい射精には、正しい射精の習慣が必要となります。不適切なマスターベーションを繰り返していると、いざという時に射精ができなくなってしまうのです。勃起は生理現象であり、誰に教わらなくてもできるものです。しかし、射精は勃起と異なり、それに至るための行為が必要となります。正しい射精の方法を学習し、自分自身で訓練して習得する必要があります。
射精は1日にしてならず
実際、われわれ医師が見ている射精障害の患者さんは「不妊」で困って来院される人だけです。潜在的にはさらに数多くの膣内射精障害患者ないし、不適切なマスターベーション予備軍がいるはずです。
不適切なマスターベーションの習慣は射精障害の原因となります。それは、将来の夫婦生活の問題や、不妊症の原因となってしまうのです。勃起障害と異なり、射精障害は薬で簡単には治りません。
「床オナ危険!」と思春期の若者たちにわかっていただきたいと強く考えています。
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