「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」インパクトあるタイトルのドラマが、今じわじわと口コミで話題を広げている。
「タイトルからコメディタッチだと思ったら予想外にシリアス」「何気なく見始めたのに、いつのまにか毎週真剣に見ている」……SNS上でも回を追う度に熱のある感想が増えている。
原作は『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(著:浅原ナオト)という、これもまた刺激的なタイトルの小説。Web小説サイト「カクヨム」に投稿され人気を呼び、KADOKAWAから書籍化された。
主人公・安藤純(金子大地)はゲイであることを隠している男子高校生。あるきっかけで同級生の三浦紗枝(藤野涼子)がBLを愛する“腐女子”であることを知り、2人は急接近する。
純がゲイであることを知らぬまま、少しずつ惹かれていく紗枝。人目を忍んで、既婚者の男性パートナーと逢瀬を重ねる純。
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同性愛者でも、子どもがほしい。家庭を築きたい。そのためには女性を愛することが「必要」だ。
「普通の幸せ」を手に入れたいと苦悩する純に紗枝が告白したことで、人間関係が一気に動いていく……。
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公式サイトの感想掲示板には、性的マイノリティー当事者も含めた多くの人からさまざまな感想が寄せられている。
自分はゲイです。思春期の頃、同じように悩みました。隠して生きてきました。この辛さがすごく身にしみて、泣いてしまいました。心がえぐられるような思いでした。辛かった思春期。でもみんな同じように生きているのかと思うと、少し安心しました。(30代男性)
私は今年、大学生の息子に、ゲイをカミングアウトされました。現在東南アジアに留学しています。 先日外国人男性との赤裸々なツイートを目にしてしまい、大変ショックを受けています。
産んだ私の責任を感じない日はありません。このドラマを見て、LBGTに悩む本人の気持ちに少しでも寄り添えたら…と思いながら視聴しています。(40代女性)
60代の私が今1番真剣に見ているドラマです。それは、内容がゲイの少年のことであるが、自分の内面と戦い、苦しみ、世間の無理解にも傷ついていく人間そのもののストーリーだからです。それは、私自身や皆ともつながっている。(60代女性)
今、「ゲイの男子高校生」の物語をNHKドラマとして届ける意義とは。制作統括の清水拓哉さん、演出の上田明子さんに、この作品に懸ける思いを聞いた。
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――企画を出されたのは上田さんとお聞きしました。
清水:最初は、BLやりたいって言ってたんだよね。
上田:そうなんです、男性同士の恋愛をやりたくて。
――ということは、上田さんも腐女子……ですか?
上田:BLは大好きです! 紗枝ちゃん(注:主人公・純に思いを寄せる三浦紗枝)みたいに、自信をもって腐女子と名乗れるほどではないですが!
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――公式サイトにある「原作小説に出会ったとき、私は猛烈に腹を立てていました」という上田さんの言葉が強烈でした。それは世の中に対する「怒り」でしょうか。
上田:2018年の春頃、若者向けの新しいドラマ枠「よるドラ」でどんな作品をやるか部内で議論している時に、自分の妊娠がわかったんです。
「妊娠しまして、秋に生まれます」と上司に報告したら「おめでとう」という言葉の次に、「じゃあ、よるドラの準備はもう大丈夫だよ」と気遣ってくれるわけですよ。
――ああ、その言葉、悪意はないだろうけれど……。
上田:そう、悪意はないんですよね、むしろ気を遣ってくれているんです。気持ちはわかるんですけど、すごくモヤモヤしてしまって。
今まで「上田」という総体として捉えてくれていたのに、突然他の要素がなくなって「母親」という属性にくくられたことに。せっかく面白い仕事ができそうなのに、頑張ってみたいと思っているのに、「子どもが一番でしょう」となってしまう。
人生で大事にしたいものっていろいろあって当たり前なのに、なんでわざわざ「仕事も大事です」と言わなきゃいけないんだろう? なんで女性が「仕事も家庭も」と言うとワガママだと思われるんだろう?
男性は「普通」に手に入れてるじゃん! 私もあなたの「普通」がほしい! とムシャクシャしてたんです。
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――「普通」はこの作品の中でも大きなテーマになっていますね。
上田:そんなモヤモヤを抱えている時に出会ったのが、原作小説でした。それこそ紗枝ちゃんのように、本屋さんでBLコミックや小説を抱えてレジに向かう途中で目があって。
読みはじめてすぐ、純くんの叫びに「私も同じだ」と心を掴まれたんです。
世間体じゃない。世俗を気にしているわけじゃない。少なくとも僕は、僕と奥さんと子どもで築く平凡な家庭も、郊外の庭付き一戸建ても、孫たちに囲まれた幸せな老後も、全部欲しい。たくさんの家族に看取られて、「いい人生だった」なんて呟いて、眠るように息を引き取りたい。
ゲイに生まれたけれど家庭がほしい、世間体として一応じゃなくて、本当に心からほしい。ただ、生まれついた性質では“普通の幸福”を手に入れられない。
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“アイ・ウォント・イット・オール”、「全部ほしい」という純くんの願いが自分の心境と強くリンクしたんです。
「異性愛者の女性」という真反対の立場の私が共感できたんだから、きっと多くの人の心に刺さるはず。性的マイノリティーの当事者じゃなくても「これは自分の物語だ」と、私のように思ってくれる人は絶対いると思いました。
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――原作小説の『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』というタイトルが、ドラマでは「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」になっています。
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清水:ドラマのタイトルはね……不評ですよね(笑)。
上田:はっきり言いますね!(笑)
――(笑)。原作にある「ホモ」という単語はNGワードだったんでしょうか。
清水:NHKとしてNGというか、世間的にネガティブなイメージがあるので避けた、が正しいですね。
ドラマの中では、侮蔑したり自虐したりする台詞で何度か出てきますが、ネガティブな受け取られ方をする言葉だと分かる文脈で使っています。しかし、タイトルになるとそういう文脈もなしに多くの方の目に触れますから。
変えると決めたものの「じゃあどうしよう?」はすごく迷いました。
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上田:「腐女子」「告る」というスラングを注釈なしで使ったのは、結構冒険でしたよね。でも、このドラマを見てほしい若い皆さんに振り向いてもらうためには、これくらいキャッチーで強い言葉を使いたいと思いました。まずは面白半分でも見てもらって、「あれ、思ったよりちゃんとしてるぞ」と思ってもらえれば。
清水:朝ドラや大河ドラマじゃないですから「1話とりあえず見とくか」ってならないですからね。NHKっぽくなさ、“悪目立ち”しなくちゃダメだ、という思いはありました。まぁ、あと、不評なのは「うっかり」ですかね……。
――今一気に声のトーンが落ちました(笑)。
上田:「いいドラマなんだからふざけたタイトルにしなければいいのに」なんて声がね。
清水:僕はこの原作のよさって、深いテーマが芯にありつつ、シリアス一辺倒じゃなく、ユーモアもあるところだと思っているんです。
愛すべきキャラクターたちの軽妙な会話に、思わず笑っちゃう。まずは青春エンタメとして素晴らしい。その軽やかさをどこかに残したかったんです。
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上田:ゲイの男の子に告白したことそれ自体をおかしなことだと言っているわけじゃなく、「知らないまま告っちゃった」状況に対する「うっかり」なんですよね。
――そのあたりは正直、放送が始まってから印象が変わった気がします。確かに最初にタイトルだけ見た時は「こんな繊細なテーマなのに、お気楽なラブコメ?」って若干不安になった覚えが……。
清水:すみません、それは本当に!「このタイトルのせいで見てない人もいると思うけど見てみて!」なんてツイートを見ると、「申し訳ない!!!」という気持ちに……。
――でも、口コミでそう伝えたいほど、内容が深く刺さってるってことですよね。「まずは見てもらいたい」という意図には沿っているような気もします。
清水:いやあ、そうだといいんですが。賭けでしたね。うまくいったかはわからないです。
上田:「このタイトルだから見ない」って人もいるでしょうしね。プラマイ、どっちなんだろう?(笑)
清水:とはいえ、このタイトルで許されたのも、ホームランか三振を狙う枠だったからですよね。
番組表の中で埋もれてしまうより、少しでも「なんだこりゃ」と思ってほしかった。「よるドラ」という立ち位置の、決意表明でもあったと思います。
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【放送情報】よるドラ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」
NHK総合 毎週土曜 夜11時30分から11時59分まで。
第7回は6月1日夜放送。物語はいよいよクライマックスを迎えます。
よるドラ 【#腐女子うっかりゲイに告る】 今夜11:30、第7回放送です! クライマックスへ向けて エンジン全開✿ 1秒たりとも見逃せない展開に…! https://t.co/l6BM23CtZ9 #金子大地 #藤野涼子
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