『ONE PIECE』グランドラインの天気は現実でも起きる?気象解説者・森田正光さんに聞いてみる

『ONE PIECE』グランドラインの天気は現実でも起きる? 気象解説者・森田正光さんに聞いてみる

尾田栄一郎氏による大人気漫画『ONE PIECE』。TVアニメでは『ワノ国編』が佳境をむかえ、今年公開された映画『ONE PIECE FILM RED』も記録的なヒットとなっている。

様々な海を乗り越えて冒険を続けてきた『ONE PIECE』。今回は、彼らが乗り越えてきた海の「気候」について、気象解説者の森田正光氏にお聞きした。
<聞き手、執筆:まいしろ>

※本記事には一部『ONE PIECE』のネタバレを含みます

森田正光(気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長)
1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』出版。

意外と近いグランドラインと現実の気候

ーー『ONE PIECE』のメインの舞台となっているグランドラインでは、島ごとに気候がかなり異なっています。

グランドライン「偉大なる航路」の島々

これは現実でもありますね。気温は、だいたい100kmで1度変わるんです。

さらに、島のように海が近い場所だと、もっと大きく変わることもあります。暖かい海流の近くの島なら(寒い地域でも)温暖になるし、逆も起きるんですよ。

ーー現実の島々とグランドラインの気候は意外と似ているんですね!

あとは、気候が同じでも人が騙されてしまうことがあります。

日本でも、0度の日の後に急に10度の日があると「すごく暖かい日だ!」と思ってしまいますよね。

そうやって人の感覚は簡単にごまかされてしまうので、「グランドラインは島ごとに季節がかなり違う」と言われても違和感はないですよ。

ーーなるほど!グランドラインのそれぞれの島についてもお聞きしたいです。
まずはグランドラインの砂漠の国・アラバスタ。ここでは「ダンスパウダー」という、雨を降らせる粉をめぐった争いが起きていました。https://www.youtube.com/watch?v=jXlZoPoLtKE(外部サイト)

ダンスパウダーのお話は、テーマとしてすごくおもしろいと思います。ただ、現実にいまの技術で雨が降らせられるかというと難しいですね。

いまの人工降雨は、もともと降りそうな雲にヨウ化銀やドライアイスをまいて凝結核をつくります。

なので、そもそも発達した雲がないとできないですし、できたとしても普通の雨のような大量の雨は降らないんです。

ーーたまに人工降雨のニュースを見かけることがありますが......?

ニュースでやっている人工降雨は、「人工降雨を使うぐらい水不足になっているので、節水してくださいね」というPR目的でやっていることが多いんです。

実用的な使い方でいうと「飛行場の薄い霧を晴らす」といった、狭い範囲のことに使うことはありますね。

ーー街全体に人工の雨を降らせるのはまだまだ難しいということですね。現実世界でアラバスタのような雨の奪い合いが起きないと知って安心しました。

ただ、川などの水の取り合いは始まっています。

これまでは石油を奪い合っていましたが、21世紀は水をめぐって戦争が起きると言われていますよ。

ーー少し事情は異なりますが、後編で登場するグランドラインの「ワノ国」では飲み水をめぐる悲劇もあります。

『ONE PIECE』のエピソードは全体的に少し現実を先取りしているというか、実際の社会問題を反映して描かれているというのは感じますね。

ーーおもしろいですね。続いては「空島」という、空に浮かび続ける島についてです。https://www.youtube.com/watch?v=ovjnB6UHAfA(外部サイト)

雲というのは、絶えず生まれたり消えたりしているんですよ。

同じものがずっとそこにあるわけではないので、積帝雲(空島の土台とされている雲の化石)がどうなっているのかは、僕も気になるところです。

ーー作中では、海楼石(海のエネルギーを持つ石とされる)に含まれる特殊な物質が凝結核になり、生まれた雲だと説明されています。

現実世界だと、雲の凝結核は海の塩なんですよ。波のしぶきが蒸発するとき、小さな塩が残るんです。

それが上空に持ち上げられて、雲になっていくんですよ。

ーー海楼石ではないですが、それはそれで壮大で夢のあるお話ですね。

そうなんですよ。おもしろいぐらい(地球の天気は)よく出来ているんですね。

ーー作中では、空島がやってくると、海が夜のように暗くなるという話もあります。

雲は、厚さが10km以上になると光を通さなくなります。

現実でも、夏の夕立のときはあたりが真っ暗になりますよね。あれは、夕立を降らせる積乱雲の厚さが15kmほどあるからなんですよ。

グランドラインでも、10km以上の厚さのある雲が連なれば真っ暗になると思いますよ。

ーーなるほど。現実の気候と近い部分が多くて、大変おもしろいです!

ナミの攻撃は理論上は可能だがエネルギーが相当いる

ーーグランドラインの異常な気候についてお聞きしたいのですが、まずは「飴玉が空から降ってくる」というシーンがあります。

「怪雨」と呼ばれる現象

これは「怪雨」と呼ばれる現象ですね。

飴玉はないと思いますが、魚や幼虫が空からたくさん降ってくることはたまにあります。

ーーどういう仕組みなのでしょうか?

解明されていないんですよ。嵐で上に持ち上げられたとか、鳥がくわえていたのを落としただけとか、様々な説があります。

いろんなところで記録が残っているのですが、理由ははっきりしていません。

ーーちょっとロマンを感じますね!「丸虹」という現象についてもお聞きしたいです。

虹というのは、そもそもすべて丸いんです。

上から見ると全部丸いんですが、地上から見ているので半円に見えるだけなんですよ。

ーーそうなんですね!ルフィ達のように、船に乗っている人から丸い虹が見えることはあるのでしょうか?

角度によっては見えるかもしれないですね。

完全な丸ではないかもしれませんが、上から見たら丸っぽい虹が見えると思います。

ーーおもしろいですね!『ONE PIECE』では、航海士であるナミが天気を読み取るシーンも多いです。

「観天望気」という言葉があります。ささいなことから「何となくいつもと違う」というのを読み取って、天気を予測する方法ですね。

ーーナミの天気の読み方は実在しているんですね。

昔の船乗りは、観天望気がすごく得意だったんですよ。風の向き、においなどから天気を予測したそうです。

日本でも、海の近くには「日和山」という山がたくさん残っています。これは、船乗りたちが海に出る前に、天気を予測しに行っていた山のことなんですね。

ーーナミのような「観天望気」は、才能がないとできないのでしょうか?

素人でも熟練すればできるようになりますよ。僕も50年間、天気の仕事をやっていますが少しは天気がわかります。

ただ「おかしいな」と思ったら、天気予報を見て答えを確認しています(笑)

ーー答え合わせをするんですね。
ナミは天気を武器にもしていて、特にグランドライン前半の頃は、暖かい空気と冷たい空気を自力で生み出し、人工の雲を作っていました。

理論的には、(ナミの攻撃は)可能です。

ただ、敵を倒せるほどの大きな天気を作り出すには、相当のエネルギーが必要です。

一瞬だったらできるかもしれないですけど、ずっとエネルギーを出し続けるのは現実と難しいですね。

ーーナミ自身は自分のことをたまに「弱い」と言っていますが、実はかなりパワーのいる戦闘をしていたんですね...!

現実のカームベルトは「死の海」

ーーグランドライン全体の気候についてもお聞きしたいです。『ONE PIECE』は海がかなり多い場所のお話ですが、地球にこれくらいの海があった場合、どういう気候になるのでしょうか?

グランドライン「偉大なる航路」とレッドライン「赤い土の大陸」

大きな海って気候が安定しているんですよ。「太平洋」という言葉も「大きくて平和な海」という意味です。

なので、海の面積だけ見れば、グランドラインの方が現実より気候が安定していそうです(笑)

ーー意外な結果ですね!

ただ、「海は緯度が高い方が荒れる」と言われています。北極や南極の方にいくと、自転と風の影響で荒れるんですよ。

船乗りたちはこれを「吠える40度、荒れる50度、悲鳴の60度」と呼んでいました。

だから、『ONE PIECE』の海が荒れているのは、北極や南極の場所のせいかもしれません。『ONE PIECE』の「極」がどこにあるかわかれば、もう少し細かいことがわかるかもしれないですね。

ーーグランドラインの側には「カームベルト」と呼ばれる無風地帯もあります。

「カームベルト」

こういう場所は現実にもありますね。地球の場合は、赤道の近くが多いです。

ーーカームベルトは、作中だと大きな生物がたくさんいて航行不能とされています。

現実でもここは難しいですよ。船乗りたちにとっては、こういう無風のカームベルトが一番怖かったんです。

昔の船はエンジンがないので、大海原で風がなくなると、そこから動けなくなってしまうんですよ。

なので、無風は本当に危ないですし、実際にあったら「死の海」になると思います。

ーー現実でもカームベルトは航行不能の場所なんですね。
最後に、グランドラインに行く前に覚えておくべき天気の知識があればお聞きしたいです!

「ボイス・バロットの法則」を覚えていくといいと思います。

昔の航海士が見つけた法則なんですが、風が吹いている方向から低気圧(雨が降りやすい場所)を見つけられるんですよ。これがわかれば、天気が悪いところを避けて進むことができます。

それから、陸地を見失ったときは、雲があるところを目指してください。たとえその方向に何もなくても、雲があったらその下には陸がある確率が高いんです。

そういう航海術を覚えてから、グランドラインに行くのがいいと思いますね。

ーーいつか冒険に出るときのために覚えておきます。本日はありがとうございました!

聞き手、執筆:まいしろ
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エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。よく書いているのはエキサイトニュース、デイリーポータルZなど。アート作品のマッスルを延々と解説する初書籍『アート筋トレでスリム美体に!』が発売中。漫画・アニメ・ゲームなどについても書きますが、音楽と映画が特に好き!
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