「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」映画化が実現するまで パリロケで思わぬハプニングも

ティザービジュアル
ティザービジュアル - (C) 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの荒木飛呂彦初となるフルカラーの読切で描かれた「岸辺露伴は動かない」の人気エピソードを、高橋一生主演のドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズの制作陣が再結集して実写映画化する『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(5月26日公開)。映画化までの道のり、ルーヴル美術館での撮影が実現するまでを、ドラマの立ち上げから携わってきた土橋圭介(NHKエンタープライズ)と、映画から参加する井手陽子(アスミック・エース)の二人のプロデューサーが語った。

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 「ジョジョの奇妙な冒険」とスピンオフ「岸辺露伴は動かない」に登場する人気キャラクターの漫画家・岸辺露伴を主人公にした本作。原作は、国内外の漫画家が参加するルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトの描き下ろし作品として2009年に発表された。相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた露伴が、担当編集者・泉京香(飯豊まりえ)と共に「この世で最も黒く、邪悪な絵」の謎を追ってルーヴル美術館に赴く。

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映画化の構想はドラマ放送前から

プロデューサーの土橋圭介と井手陽子

 映画化の発表は、2022年末に放送されたドラマ3期の直後、年明けに行われたが、企画はいつ頃から立ち上げられたのか。土橋は、「妄想レベルではドラマ1期の企画段階からあった」という。

 「岸辺露伴の実写化は、監督の渡辺一貴の原作に対する熱い思いから始まったものです。2018年の夏の終わりに渡辺から露伴を実写化したいと相談を受けたのですが、その時に彼が作った企画メモには、既にドラマの骨格が出来上がっていて渡辺の原作に対する造詣の深さと明確な映像化のビジョンがとても印象的でした。実はその頃から渡辺とは“このドラマがうまくいってシリーズ化、最後は長編映画で、長編やるならやっぱり『ルーヴルへ行く』だよね~”と駄話で盛り上がっていました。その後、衣裳合わせ、撮影と進む中で、渡辺は一生さんや飯豊さん、そしてスタッフの皆さんにも度々ルーヴルについて話すんです。いつかみんなで実現したいねと。これが“言霊”なのでしょうか。ある日、映画を一緒にやりませんかという人が本当に現れたので驚きです。ただ、やるなら『ルーヴルへ行く』だよね~ということで、渡辺と書いていた企画書を井手さんたちアスミック・エースのみなさんに提出させていただきました。その時は、こうやって実現するとは想像できませんでしたが」

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 井手いわく、相談しに行ったのはドラマ1期の放送前、キービジュアルが発表された直後。しかしその時に考えていたのは、新作映画としてではなく、ドラマシリーズの再編集版を劇場で上映するといったイベント的な企画だったという。

 「『岸辺露伴は動かない』ドラマ化の発表のあと、高橋一生さん演じる岸辺露伴のビジュアルを目にしたとき、たった一点のビジュアルからこれはきっといいものができあがるに違いないと、土橋さん、監督のところにお話しに行きました。最初はODS(※映画以外のコンテンツを劇場で上映すること)というか、ドラマを再編集して応援上映のような企画ができたら面白いんじゃないかっていうところからお話させていただきました。そのあと、実際にドラマを拝見したところ、非常にクオリティーが高く、再度お話しに行ったのですが、ODS的な企画がなかなか成立しづらい状況もあり、土橋さんたちのご希望もあって『ルーヴルへ行く』を映画化する方向で考えられないか、話し始めたという感じです」(井手)

なぜ「ルーヴルへ行く」だったのか

ルーヴル美術館を背景に立つ岸辺露伴

 ドラマ「岸辺露伴は動かない」は3期にわたって放送されたが、「密漁海岸」「懺悔室」など、まだ映像化されていない複数のエピソードがあった。なぜ、「ルーヴルへ行く」だったのか? 井手はこう語る。

 「テレビと違って映画はお金を払って観るメディアですよね。例えば『岸辺露伴は動かない』がドラマ化されていなくて、映画がスタートラインだったら別のエピソードになる可能性もあったかもしれませんが、ドラマで1話完結もの・3夜連続という、いい意味でのフォーマットが決まっていた。そうすると、ドラマとは違う面白さを感じるものでなければならない。そう考えた時に、『ルーヴルへ行く』は、露伴が海外に赴く話なのでスケールも大きく、なおかつ露伴の過去や、露伴のルーツに迫っていくという、ドラマの中では描かれていない切り口があったので」

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 そうして版元の集英社、原作者の許諾を得て映画化の話が進み出すが、そこからの道のりは必ずしも容易ではなかったと土橋は振り返る。ルーヴル美術館での撮影だ。露伴は、青年期にある女性に教えられた「黒い絵」を思い出し、絵が収蔵されているというルーヴル美術館に赴く。ルーヴルで日本映画が撮影されるのは、『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』(2014)以来2作目となる。

 「具体的にルーヴル美術館との交渉を始めたのは製作の概要が見えてきた2021年10月ごろから。同僚には美術番組や旅番組でルーヴルで撮影しているディレクターやプロデューサーがいますが、自分でやるのは初めて。あまりルーヴルの事情を知らずに、パリにある弊社の現地法人で美術館との交渉窓口をしているプロデューサーの井上いづみに“翌年(2022年)の初秋くらいに撮影したい”と話をしたら、“え、本当に映画撮るつもり? 間に合うかな……かなり大変だよ……”と」

 井上が間に入って交渉を進めるも、撮影許可が降りるまで1年がかりだったという。「コロナの影響もあって、オフィスに電話しても誰も電話に出なかったり、そもそも連絡が簡単に取れない状態も続いたりして。ルーヴルのバンド・デシネの企画から生まれた作品ですから、オンラインで会議をするとルーヴルの皆さんも映画を好意的に受け止めてくれて素晴らしいと言ってくれるのですが、具体的な撮影日程となると、途端に話が見えなくなって(笑)。ルーヴルと話を始めた頃には脚本の骨格が既に出来上がっていました。ただシナハンなしで脚本家の小林靖子さんに書いていただいたので、ルーヴル以外のパリの撮影場所も含めて実際に現場をみて肉付けしないと決定稿になりません。ルーヴルとの話は煮詰まらないままでしたが、昨年の6月には監督と撮影監督の山本周平さんにロケハンに行ってもらいました。そこで撮影ポイントも絞れ、いろんな課題も見えたので、改めて撮影日程と共にルーヴルに打診すると、学芸の許可、警備の許可など大きな組織ならではの複雑な手続きに時間がかかり、ある期間はファッションウィーク、ある期間は工事、と相変わらず具体的に決まらない状態が続きました。最終的にルーヴルの撮影日程が見えてきたのは、国内ロケが始まってからでしたね……」(土橋)

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パリロケで思わぬハプニング

アレクサンドル三世橋で佇む露伴と相棒の担当編集者・泉京香(飯豊まりえ)

 パリでの撮影は、昨年11月と今年3月の2回にわたって行われた。11月の段階ではパリのスタッフを交えて市内の撮影と、ルーヴル美術館内の下見を実施。そこから必要機材や人数などを計算し、3月にルーヴル美術館での撮影が行われた。パリのスタッフが優秀だったこともあり、館内の撮影は驚くほどスムーズだったというが、こんなハプニングも。

 「大変だったのは、劇中で露伴と京香が2階建てのビッグバスに乗って、乗客のおばあちゃんと話をするシーン。エトワール凱旋門からシャンゼリゼ通りの方に車が抜ける流れなんですけど、凱旋門の周りがものすごい交通量でなかなかうまく抜けられないんですよ。うまく抜けたと思ったら、今度はシャンゼリゼ通りの信号で止まっちゃって……といった具合で、何十周も、30分ぐらい延々と。スタッフ、キャスト全員“一生分凱旋門を見た”というぐらいずっと回って。俳優やスタッフの皆さんはパリの凍てつく風に当たりながらでしたので、大変でした」(土橋)

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 映画の完成に向け、井手は「配信サービスもすごく増えましたし、YouTubeを含めネットでさまざまな映像が観られる中で、どうすれば映画館に足を運んで観たいと思っていただけるのか。作品の熱量と共に、いかに伝えていくのかが課題でしたが、ドラマのスタッフ、キャストの方々には信頼しかなかった。間違いなく『ジョジョ』ファンやドラマのファン、初めて観る方も楽しめる作品になっている」と自信をみせる。

 土橋も「特に後半パート。原作ではコマでしか描かれていない部分をどう膨らませるのかが大きなところでした。いろいろな見方ができる作品なので、今まで通りの露伴&京香の事件解決の物語でもあり、青年期の露伴の青春物語でもあり、ルーヴル美術館を舞台にしたスペクタクルもある。最後にもグッと来る盛り上がりがあります」と映画ならではの広がりを強調していた。(取材・文 編集部・石井百合子)

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