しかし店舗は無事でも商品がない。日々呼吸するように、絶え間なく新鮮な食品が供給されてこそコンビニは生きていられる。1日数便の配送が途絶えれば機能を停止せざるを得ない。

 どうするか。関東以西から商品を運ぶ手もなくはない。しかし交通事情が悪く、配送に時間がかかるため、おにぎりなどの食品は消費期限を越えてしまう。臨時に支援物資などは空路で被災地に運んだが、本業で日々使うことはできない。現地での生産を復活させるしか手がなかった。

 調べてみると、幸い設備は生きていた。東北地方でおにぎりや弁当などを製造する5つの協力工場のうち、仙台の工場を除く4工場は設備の損傷が軽微で、稼働できる状態にあった。

 しかし問題もあった。1つは「油」だ。工場を稼働させる重油がない。できた製品を運搬するための配送車に使う軽油もない。工場で働く従業員たちが通勤で使う自動車に入れるガソリンもない。もう1つが「食材」。コメなどの食材の備蓄も乏しかった。

 食材は、おにぎりなどの食品とは異なり燃油さえあれば関東以西から現地に運ぶことができる。だから当面の課題は「燃油不足」。これを解決することで、商品不足で眠っている無数の店舗に血流を流し込むことができる。

 14日には一部工場が備蓄していた原料と燃料でおにぎりの出荷を再開。被災者たちに喜ばれたが、備蓄分では数日間で「弾切れ」になってしまう。

 「何としても燃油をかき集めて現地に入れろ」。新浪剛史社長は同時に全国の支店長にも檄を飛ばした。

 1つの僥倖があった。

 「ウチにタンクローリーがある。使ってほしい」。支店を通じた呼びかけに、タンクローリーを所有する京都府内の加盟店オーナーが名乗り出てくれたのだ。「神戸の震災の時には全国のオーナーが助けてくれた。恩返しがしたい」。ガソリンスタンド併設店を営むその40代のオーナーがハンドルを握って、京都から東京を経由して軽油を被災地にまで届けた。

 そのほか、まさに「かき集める」という表現がぴったりとくるような努力を続けて、ドラム缶やタンクローリーで燃油を現地に送り続け、食材を運び入れた。「弾切れ」の日を1日1日と延ばす薄氷を踏むような神経戦。途切れれば、被災地の顧客が心待ちにするおにぎりが届かなくなる。

 週の後半、懸命の努力が実って燃油は充足した。最後まで残ったのが、最も被害の大きかった宮城地区だ。同地区に本来商品を供給する仙台工場は損傷が大きく、稼働できない。修繕を待っていては時間がかかる。

 そこで決めたのが「横持ち」の決行。福島県郡山市で製造した商品を仙台地区に運び入れる作戦だった。18日、郡山で製造されたおにぎりは仙台の物流センターに運び込まれ、各店に配送されていった。

 震災発生から1週間。ローソンの社員たちが懸命につないだ供給の鎖から、ようやく1店舗当たり100個のおにぎりが店舗の棚まで届けられた――。

資源の配分が経営者の仕事

 コンビニが災害時に取り組むべき課題は大きく2つある。1つは自社事業の復旧。加えて、「食」のインフラを担う業者として、被災地への救援物資の提供も求められる。

 新浪社長は、震災発生直後に社員に向けてこう号令した。「いくらコストをかけても構わない。被災地への支援と事業の復旧、両方ともやる。災害の規模が大きいから、近隣地域だけの力では足りない。全国全員で取り組もう」。

「コストはいくらかかってもいい。最善の策を考えろ」と檄を飛ばした新浪剛史社長(写真:都築 雅人)
「コストはいくらかかってもいい。最善の策を考えろ」と檄を飛ばした新浪剛史社長(写真:都築 雅人)

 ただ、時期により、2つの取り組みの比重は変わる。災害発生からしばらくは、救援物資を運ぶことに注力する。しかし、全社を挙げて非常時の態勢で突っ走り続ければ、事業の復興に手が回らない。おにぎりは届けられない。

 「今、すべきこと」は何か。危機だからこそ冷静に見極めて、経営資源を配分する。ローソンの事業復旧を根底で支えたのは、新浪社長のそうした危機マネジメントだった。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

春割実施中

この記事はシリーズ「もう一度読みたい」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。