石野純也の「スマホとお金」

日本通信の料金プラン「合理的みんなのプラン」がお値段そのままで増量、その特徴をさぐる

 日本通信が、日本通信SIMで提供している「合理的みんなのプラン」を4月28日に改定します。と言っても、料金は据え置きの1390円。新規ユーザーだけでなく、既存ユーザーも含めてデータ容量を6GBから10GBに拡大するのが、その中身です。また、この改定に伴い、音声通話についても「1カ月70分」と「1回5分」の2つから選択できるようになります。合わせて、データ容量を追加する場合の料金も1GBあたり220円に値下げします。

日本通信は、4月28日に合理的みんなのプランを改定する

 日本通信は、合理的みんなのプランをボリュームゾーン向けの料金と位置づけており、プレスリリース等でも「8000万人に最適」とうたっています。よりデータ容量の多い「合理的20GBプラン」や、維持費の安い「合理的シンプル290プラン」を用意する日本通信ですが、このプランこそが主力と言えます。ここでは、その特徴を改めて解説するとともに、料金改定の理由や、音声通話オプションのメリット・デメリットを探っていきます。

トラフィック増加に合わせてデータ容量アップ、料金は据え置きに

 合理的みんなのプランは、21年6月に提供を開始した日本通信SIMの料金プランです。“みんなの”とうたっているように、データ容量や音声通話定額のオプションは、ボリュームゾーンを意識した建てつけになっていました。データ容量の6GBは、当時の総務省の調査に基づいて設定されたもので、全体の66%をカバーできるといいます。同様に、音声通話も平均通話時間の130分を意識しています。発着信が半々だとすると、無料通話は65分ぶんあれば足りるというわけです。

21年6月に提供を開始した合理的みんなのプラン。日本のスマホユーザーの66%をカバーできることを売りにしている

 これを一言でまとめるなら、“1390円ポッキリのプラン”と言えるでしょう。平均的なユーザーであれば、データ容量の追加も不要で、通話料が追加でかかることもなく利用できます。1カ月が終わるまで、いくらになるか分からないのではなく、毎月1390円だけを支払っていれば済むため安心感があります。1カ月70分という無料通話の設定が珍しいため、横並びの比較は難しいところですが、データ容量だけを見ても、MVNOの中では廉価な水準と言えそうです。

4月27日までの料金体系。1390円で、6GBのデータ通信ができ、70分の無料通話もつく

 そんな合理的みんなのプランが、4月28日に改定され、データ容量が10GBに増量されます。日本通信の広報部によると、背景にはデータトラフィックの伸びがあったようです。総務省の資料によると、モバイル通信の総トラフィックは1年で1.2倍から1.3倍程度のペースで拡大しています。合理的みんなのプランは、登場から間もなく丸2年。トラフィックの伸びが均等だとすると、その間、ユーザーのデータ使用量は1.44倍から1.69倍になっているはずです。

総務省の調査では、年1.2倍から1.3倍程度、トラフィックが伸びているという

 2年前に契約したユーザーが毎月6GBで足りていたとしても、今のユーザーはそれだと容量が不足してしまう格好です。たとえば、2年前にちょうど月末に6GBを使い切っていたと想定してみましょう。データ使用量が1年で1.3倍になったとすると、22年は7.8GB、23年は10.14GBになる計算が成り立ちます。23年時点で“みんなのプラン”と銘打つためには、やはり10GBは必要になると言えるでしょう。ボリュームゾーンを狙っているだけに、この改定は合理的です。

21年を6GBとして、年1.3倍ペースでデータ使用量が増加した場合をグラフ化。23年は、10.14GB必要になることが分かる

接続料の値下がりが原資に、データ追加料は値下げに

 無論、原資なくしてデータ容量の拡大はありえません。データ容量を増やせば増やすほどトラフィックが増えれば、そのぶんだけ大手キャリアとの接続点を強化しなければならないからです。先週、本連載で解説したように、MVNOが大手キャリアから回線を借りる際には、接続点の帯域の太さに応じた料金が発生します。

 実際に使われたデータ量に対する課金ではないため、トラフィックが増えた際にそのまま放置することもできないわけではありませんが、それをやってしまうと、混雑時の速度が低下し、評判が落ちるおそれがあります。ひいては解約率も上がってしまい、競争力の低下を招きます。

 一方で、大手キャリアの設定する接続料は、その大小はあれど、年々低下しています。日本通信が日本通信SIMで回線を借りるドコモも、例外ではありません。同社が合理的みんなのプランの提供を開始した21年度は、10Mbpsあたりの接続料が28万3859円でした。10Mbpsを超えたぶんは、1Mbpsごとにこの1/10の価格で借りることができます。この接続料が22年度には20万3270円、23年度には15万6446円まで下がっています。

接続料は年々値下がりしている

 21年度との比較だと、約0.55倍にまで接続料は低廉化したと言えるでしょう。料金が据え置きで、かつ帯域を借りるためにかけられるコストの割合も変わっていないとすると、1.8倍程度、ネットワークを増強できるというわけです。これを単純にデータ容量に当てはめることはできませんが、6GBの1.8倍は10.8GB。増量したデータ容量と、ほぼ一致しています。コストが浮いたぶん、データ容量を増やすことでユーザーに還元していると言えるでしょう。

 同様に、10GBを使い切ったあとのデータ追加料も、1GBあたり275円から220円に値下げをしています。こちらは、元々1GB単位で購入する仕組みだったため、接続料の値下げを料金に反映させた格好です。ちなみに、月額290円の合理的シンプル290プランは、1GBあたりのデータ追加料が220円で、合理的みんなのプランよりも割安でした。合理的シンプル290プランが登場したのは22年1月。21年6月に導入された合理的みんなのプランよりも遅かったぶん、当時の原価を反映しやすかったと言えるでしょう。今回の改定は、これに合わせた形になります。

1GBあたりのデータ追加料も275円から220円に下がる

音声通話オプションは選択制に、5分通話定額のメリットは?

 ここまではデータ通信のお話でしたが、合理的みんなのプランは、音声通話にも手を入れています。4月27日までは無料通話が70分ついていました。先に挙げたとおり、70分の根拠は、平均通話時間の半分です。これに対し、4月28日からは、70分の無料通話か、5分間の音声通話定額を選択できるようになります。5分間の音声通話定額には、回数の制限がなく、合計時間が2時間になろうが、3時間になろうが料金は変わりません。

 このように書くとお得に見える5分間の音声通話定額ですが、70分の無料通話と比べると、デメリットもあります。長電話ができないというというのは、その1つです。5分を超えたぶんの通話は従量になり、30秒あたり11円の料金がかかります。

4月28日からは、5分間の音声通話定額を選択できるようになる

 たとえばコールセンターに電話し、順番がなかなか回ってこなかったような場合には、料金が追加でかかってしまうおそれがあります。仮に10分通話したとすると、料金は110円です。家族や友達との短い通話には向いている5分の音声通話定額ですが、長電話が割高になる点は理解しておいた方がいいでしょう。

 逆に、70分の無料通話であれば、1カ月の通話時間が70分を超えない限り、追加の料金はかかりません。上に挙げたケースでも、残りの無料通話が60分になるだけ。追加の料金はかかりません。逆に、5分ピッタリに収まる通話は14回しかできない計算になります。毎日短い通話を小まめにする場合には、5分通話定額の方がお得になると言えるでしょう。

70分の無料通話も選択肢として残る。1回の通話時間が長く、回数はそれほど多くない場合はこちらのままでもよさそうだ

 端的に言えば、長い通話をたまにするか、短い通話を小まめにするかの違いで、どちらを選べばいいのかが変わってきます。これまでの合理的みんなのプランでは、前者のケースしかカバーできていませんでした。4月28日の料金改定によって、後者のように、短い通話の回数が多いユーザーも1390円に収まるようになります。オプションを増やしたことで、より“みんなの”料金プランになったというわけです。

 音声通話の料金プランを柔軟に設定できる背景には、日本通信が卸料金の値下げを勝ち取ったことがあります。日本通信は、ドコモとの値下げ交渉が不調に終わり、19年に総務大臣裁定を申請。20年には同社の主張が認められ、21年には原価をベースにした音声卸料金の設定に合意しています。MVNOの多くは交換機側でプレフィックス番号を付与する音声接続を利用していますが、この方式だと、中継電話事業者を介する必要があります。価格設定もその事業者次第になってしまうと言えるでしょう。これに対し、日本通信は音声通話そのものをドコモから安く仕入れられています。柔軟に料金設定をしやすいのは、そのためと言えるでしょう。

日本通信は紆余曲折を経て、ドコモから原価ベースで音声通話を調達できるようになった。柔軟な料金設定ができる背景には、こうした仕組みがある
石野純也

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