「まるで『集落総動員』選挙」どう思う? 自治会が地元候補「推薦」 無投票で終わった木島平村議選 〈声のチカラ〉
「まるで自治会が住民に、特定候補への投票を呼びかけているようで違和感がある」。18日に無投票で終わった下高井郡木島平村議選(定数10)について、同村の60代男性が本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に投稿を寄せた。今回の村議選では、自治会が地元候補の要請を受けて「推薦」を出し、候補の後援会組織が自治会内の全住民に決起集会などの案内を出したという。(牧野容光)
■「昔は集落全員でお祭り騒ぎ」
投稿を寄せた男性が暮らすのは、村北部の山裾に広がる30世帯ばかりの集落。村議選告示前に集落を歩くと、ほとんどの住民が畑に出かけていて静まり返っていた。
小さな集落では選挙は敏感な話題だろうと思い、恐る恐る軽トラックで通りかかった農業男性(65)に尋ねてみた。ところが男性はあっけらかんと言った。「俺は全然違和感ないよ。昔に比べれば全然楽だしね」
近くの農作業小屋では農業男性(69)が一服していた。この男性も「推薦ぐらい出したっていいんじゃないの。昔は集落全員でお祭り騒ぎだったんだから…」と事もなげだ。
どういうことか。
この自治会の元幹部らによると、8年前の前々回選までは、幹部が地元候補を擁立し、選挙戦の実動部隊となる後援会組織を立ち上げていたという。
自治会内の住民は手分けして親戚などに電話し、地元候補への投票を呼びかけた。集落外につながる農道に若者を「つじ立ち」させて、他地域の候補がやってこないか監視させたこともあったという。今回、自治会が推薦を出した地元候補の事務長を務めた男性(83)も「まさに集落総動員だった」と話す。
ところが4年前からは、自治会として候補を探す作業をやめた。高齢化が進み、候補を立てる作業が負担になったことなどが理由だ。代わりに、自治会が総会を開いて住民の承認を得た上で、推薦を出す方式に変えた。
■かつては自治会が候補を「擁立」
村内を歩くと、自治会をベースにした選挙活動は、この集落に限った話ではなさそうだ。
村内を南北に走る県道沿いに広がる約200世帯の自治会。ここで暮らし、4月で引退した70代の元村議は「私も自治会長から立候補を頼まれ、出馬した。自治会が候補を決めるのが当たり前だった」と振り返る。
自治会幹部らは今回も候補を探し回った。50代前後の3人に目星を付けたが、皆、家庭の事情などを理由に断られた。結果、自治会としての候補擁立を断念した。
村南部の約30世帯の自治会もこれまでは幹部が候補を擁立していたが、今回から擁立をやめ、推薦を出す方式に変えた。幹部の60代男性は「幹部同士で話し合い、手を挙げたい人が立候補すべきだという結論に至った」とする。
■住民意識、変化の中
候補擁立が難航したり住民意識が変化したりする中で、自治会の関与の度合いは薄まりつつあるようだ。村区長会長の内藤克彦さん(67)は「村議の役割を考え直すきっかけにしてほしい」と訴える。
内藤さんは村の元職員で副村長も経験。村内ではインフラ整備が進み、修繕も計画的に行われるようになっており、村議には地元要望を伝えるパイプ役としての仕事よりも、政策提言や村政のチェックといった役割が求められている―と考えている。
自治会の推薦を受け、今回の村議選で無投票当選した村議は「自治会の推薦がないと、出馬すること自体ためらった」としつつ、「選挙は本来、自らの意思でするもの。自治会から推薦を受ける方式自体が時代に合わなくなっている」と話した。
村議選は候補が9人にとどまり、無投票どころか定数割れだった。内藤さんは「自治会の強力な後押しによる候補擁立よりも、村の将来を懸念する若者や女性が、自ら立候補できるような仕組みづくりが大切だ」と話している。
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