文春オンライン

2023/04/16

genre : ライフ, 社会

 そう言われると、とも子はいつも「私の母が強かったから」と答えている。誹謗中傷で自殺してしまう人もいるが、死にたいと思ったことは一度もないと断言する。とも子が7歳の時に父は事故で他界した。母は3人の子どもを1人で育て、弱音や愚痴を言うことはなかった。成人式にとも子が育ててくれたお礼を言ったら、「私のおかげじゃなく、周りの人たちが助けてくれたおかげだよ。そして私もあなたたちのおかげで生きてこられた」と母は言った。

 とも子は考える。もしも母の背中を見ていなかったら、そういう姿を知らなかったら、「なんでうちの子だけ、なんで私だけ」と絶望の淵に突き落とされただろう。でも、人間は周りの人の助けの中で生きていることを母から学んだ。

「いなくなったのがうちの子で良かったとは決して思わないけれど、他の家の子じゃなくてよかったとは思います」

強くあろうと立ち上がる母の決意

 母譲りの強さは、美咲にもまた受け継がれているのだろうか。

本エピソードの後日談を綴った「何度でも新しい朝を」は『母は死ねない』(179~190P)で読むことができます ©筑摩書房

「美咲もとても似ています。だからどこかで朝の希望を持ち、強く生きていてくれていると信じています」

 美咲の1年生の通知表には「悪いことは許せない正義の味方で、ルールを守らない友達には注意することができました」と書かれていた。

 人は自分のことなら絶望もできるが、わが子のことは容易に諦められない。その母の思いが希望に繫がっているのだろう。20年前に取材で泣いた私は、とも子の話では涙が出なかった。受け渡されたのは悲しみだけではなく、強くあろうと立ち上がる母の決意だった。

取材後の2022年には捜索に大きな進展があり、事件の結末が報じられた。小倉とも子さんの、その後のエピソードは書籍『母は死ねない』(179~190P)に収録。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

母は死ねない (単行本)

母は死ねない (単行本)

河合 香織

筑摩書房

2023年3月13日 発売

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー