文春オンライン

2023/04/16

genre : ライフ, 社会

「本当に美咲ちゃんがかわいそう」

「ママだって苦しいけど、なんとかやってるよ」

 とも子は自分の思いを伝えた。そこから長女が変わったという。「今日のこのご飯、美咲が好きだよね」「このテレビ、美咲が大好きだよね」と自分から美咲のことを話題に出すようになった。

 そして2020年2月末にコロナで休校が決まった時長女は言った。

「なんで学校を休まなくちゃいけないの」

 行けなくなった時に日常の大切さがわかったんだなと、とも子は感じた。そして今なら受け入れてもらえるかもしれないと提案してみた。

「学校に行けるようになるまで美咲のためにがんばらない? 一緒に山梨へ行かない?」

「行く。一緒に探す」

 旅行ではないから贅沢はせず、キッチン付きのホテルで自炊することにした。5日間の日程のうち1日だけ長女が遊べる時間を作り、それ以外は道の駅やホームセンター、コンビニにチラシを貼らせてくださいと2人で頼み込んだ。

画像:小倉美咲 家族開設ホームページより。捜索当時に使用したもの

「あなたお母さん? 自分が目を離さなければこんなチラシ配りしなくて良かったのに。本当に美咲ちゃんがかわいそう」

 チラシを渡した人からこのように非難されることは一日に何度かあった。それでもとも子は引かなかった。

「そうですよね。私も本当に後悔しています。でもあの日に戻ることはできないんです。もしかしたらお母さんの家の近くに美咲がいるかもしれないので、絶対うちの娘の顔を覚えていて下さい」

 そう言ってチラシを手渡し、何万回と頭をさげてきた。

 誹謗中傷されても、SNSで発信し続けるのも同じ思いからであった。