キャンプに参加する前、美咲は同級生にこう伝えていた。美咲がいなくなった後に、同級生の母からこの言葉をメールで伝えられた時、とも子は「娘は絶対に生きている」と感じた。怖い山に自分から入り込むことはないだろうし、もしも何かあっても朝が来たらあの子はがんばろうと思ってくれているはずだと祈っていた。
「だから朝になると私もがんばろうと思います。美咲が見つかる夢しか見ないから、夢の情報であったとしても手がかりにしたくて、いつも枕元にメモを置いています。つらいのは夜眠る時。今どこで寝てるのかな、私がいないと眠れない子だったのにどうしているんだろうと考えると苦しくなります」
そんな苦しみを吐き出すため、とも子は自宅にいる時も朝の5時に起きて、近所の神社をまわり、長女が起きる六時前には帰宅するようにしていた。まだ薄暗い中、御神木に泣きながら話しかけることもあった。
「私の本音はここでしか話せません。1000年生きてきたら、いろいろ見ていらっしゃいましたね」
樹齢千年を超えると言われる御神木は、戦争で子どもをなくした母親の姿も見てきただろうととも子は想像した。苦しんでいるのは自分だけではないと考え、木にお礼を言った。
「いろいろな人の話を聞いて大変でしょうが、聞いてくれてありがとうございます。またつらくなったら来ます」
人に弱みを見せるのが苦手で、人前で取り乱すこともあまりできない自分の本音を吐き出せるのはこの御神木にだけだった。
その家は時間が止まったかのようだった。壁に飾られた習字も誕生日に写真館で撮った写真も一年前からほとんど変わっていない。とも子の後悔は堂々巡りを繰り返し、最後はあの十分に立ち戻った。
「一生自分を責め続けるでしょう」
「美咲が私に何も声をかけずに勝手にどこかへ行ったなら、ここまで自分を責めなかったかもしれません。でも、その日わざわざ私のところに来て、『遊びに行ってもいい?』と聞いてくれたんです。それまでは勝手にどこにでも行ってしまう子だったのに、随分お姉さんになったなと頼もしく思いました」
「どうしてついて行かなかったのだろう」と激しく悔やみながら、その場面を幾度もとも子は頭の中で再現した。
「子どもたちにおやつを食べさせ、片付けが終わりやっと腰をおろしてお茶ができる時間だと思って、おしゃべりをしていました。なんてくだらない考えだったのだろうと自分に腹が立ちます」
状況が変わらない以上、後悔も変化しない。自分を責める苦しみは、出口がないのではないだろうか。
「美咲が戻ってくるまで一生自分を責め続けるでしょう。でもどれだけ悔やんでもその日に戻れないこともわかっています。その後悔は、私が前向きに美咲を探す原動力になっている。後悔してそこで落ち込むだけ落ち込んだら、やっぱり私のせいなんだから、私ががんばらないといけないと思い直すのです」