完全からの完封! 阪神村上頌樹投手(24)が史上初の快挙でプロ初勝利を挙げ、チームの連敗を2で止めた。
9回10奪三振2安打無四球で中日打線を完封。前回12日巨人戦で7回を完全投球した勢いそのまま、5回1死まで1人も走者を許さなかった。無四死球&2桁奪三振での完封初勝利はプロ野球史上初の快挙。岡田阪神にまた1人、頼もしい若虎が現れた。
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村上は岡田監督の隣で、少しまぶしそうに笑顔をつくった。大量のフラッシュがヒーローの証しだ。「最高です! 去年は悔しかったので、ここで、こういう勝利ができて良かったと思います!」。昨年1軍登板ゼロの男が勝利球を手に、ヒーローインタビューで喜びをかみしめた。
12日巨人戦で7回を完全投球した勢いは止まらなかった。この日も5回1死、福永に中前打を浴びるまでパーフェクト。「必死なので1人1人。その結果、ただただアウトになって良かったという感じです」と記録を意識する暇はなかった。時に吹き上がるように「真っスラ」する直球を武器に、試合をまたいで11イニング連続の完全投球を継続させた。
岡田監督は試合後、「1本打たれた時にちょっとホッとしたわ。これで、いつでも代えられると思ったら…。これ、もう行ってしまうと思うたけどな」と苦笑いした。百戦錬磨の指揮官さえも「完全試合」を予感した快投。8回無死一塁も3者連続三振で切り抜け、二塁すら踏ませなかった。
智弁学園ではエースとしてセンバツを制し、東洋大では1年からリーグ戦で投げ続けた。栄光を知る男にも陰はある。昨年末、兵庫・淡路島で同郷の先輩近本とスポーツ教室を開催して、現実を知った。虎のスター選手と比べて、もらえる拍手が圧倒的に少ない。「村上選手、知ってる人ー?」。100人超はいるはずなのに、目にした挙手は数えられるほどだった。決して悪意のない子どもたちの視線が痛かった。
「そりゃあ、今の成績なら誰も僕のこと知らないと思うので…。でも、絶対に近本さんにも負けたくないんです」
この日は6回、プロ通算2安打目となる左前打で出塁。「あれが一番うれしい」と照れ笑いした一打で、1番近本の適時三塁打を呼び込み、先制のホームまで踏んだ。反骨心を原動力に投打で輝いての1勝だ。
「慢心せず、またバッターに向かっていく気持ちでやっていきたいと思います」
勝利球は淡路島に住む両親へ渡す予定。「村上頌樹」を故郷に、いや、日本の野球ファンに知らしめる105球だった。【中野椋】
◆村上頌樹(むらかみ・しょうき)1998年(平10)6月25日生まれ、兵庫県出身。智弁学園では岡本和(現巨人)の2学年下。3年春の甲子園では高松商との決勝で延長11回、自らサヨナラ打を放って優勝。東洋大を経て、20年ドラフト5位で阪神入団。21年5月30日西武戦で1軍デビュー。昨季は1軍登板がなかった。2軍では21年に最多勝、最優秀防御率、勝率1位の3冠。昨季も最優秀防御率、勝率1位。175センチ、80キロ。右投げ左打ち。今季推定年俸750万円。
○…村上は試合後、勝利球は両親に渡すのか? と問われるとジョークを投げ込んだ。「それがベターだと思うんですけど、ブルペンキャッチャーの片山さんに渡したいと思います。そういう話をしてたので…」。裏方思いの村上らしい、いい話だと報道陣がうなずいていると「冗談ですよ」と球団広報のスタッフ。本当は両親に? と再度問われると「そうです」とニッコリ。マウンドでの真剣な表情とはまた違った、ユーモアあふれる24歳の素顔が垣間見えた。
▼プロ3年目の阪神村上が、通算5試合目の登板でプロ初勝利を挙げた。完封で初勝利を挙げたのは19年の楽天弓削(新人)以来だが、阪神では85年の仲田幸司以来38年ぶり。仲田は当時、高卒2年目で、2度の中継ぎ登板を経て、5月5日の中日戦(甲子園)で初先発。5回4失点で負け投手になったが、同12日のヤクルト戦(神宮)で再び先発。3安打8奪三振の快投で2点のリードを守り切り、プロ4戦目にして初勝利初完封。同年の仲田は25試合に登板し3勝4敗、防御率4・38の成績を残した。
▼村上が10三振を奪って完封勝ち。プロ初勝利を完封で記録したのは19年7月30日弓削(楽天)以来となり、阪神では85年5月12日仲田幸以来、38年ぶり。2桁奪三振の完封でプロ初勝利となると、14年5月7日浜田(中日)以来で、阪神では36年4月29日金鯱戦でプロ初登板の藤村富が11三振を奪って1安打完封して以来2人目だ。この日の村上は与四死球が0。「無四死球&2桁奪三振の完封」でプロ初勝利はプロ野球史上初の快挙だった。
▼阪神は、この日の中日戦で1人も交代なしの“9人野球”だった。6日の広島戦でも交代がなかったが、これは6回途中降雨コールドによるもの。9イニング戦での9人野球は、18年9月29日中日戦(ナゴヤドーム)以来5年ぶり。このときは藤浪(現アスレチックス)が5安打完封。4-0で快勝している。