第2話 月見里輝夜という転校生

「これらの捕食事件は二週間前の福々ふくふく公園の一件以降音沙汰がありません。警察も手をこまねいている状況であり、事件進展はみられないとのことです。

 続いてのニュースは『最新VRルームの施工費事情! コアゲーマーのお宅!』」


 テレビから流れてくるニュースを見ながら、頼人は白飯を機械的に頬張る。


「浮かない顔してどうしたんだ」


 自宅で叔父の伊織暁人あきとにそう言われて、頼人は「えっと、その……」と言い淀んだ。


「びっくりしたぞ。家の前で寝てんだから。狐にでも化かされたか?」

「……かもね」


 昨日見たあれはなんだったんだろう。

 あれから頼人は意識を失っていたのか、気づくと部屋で寝かされていた。叔父が言うには家の前で眠っていたらしく、仕事から帰ってきたところを発見して部屋まで運んだという。

 申し訳ないと言う気持ちが勝り、これ以上変なことを言うのも気が引けて黙り込んでいた。


「頼人君、具合悪い? ご飯食べな?」


 叔父の妻・伊織美紀みきがそう言って、頼人は「ああ、うん。美味しいよ」と曖昧に返事を返す。

 ——さっきから朝食の味がしない。

 いつもなら美味しい味噌汁も、卵焼きも、塩鮭も白米も、無味乾燥なのだ。麦茶もただの水のようにしか感じられない。

 風邪でも引いたのだろうか。


「大丈夫か、無理するなよ頼人」

「平気だよ。なんでもない」


 そう言って頼人は味のしない朝食をかき込んで、その場を適当に誤魔化すのだった。


×


 一年二組の教室は騒がしかった。

 頼人は自分の席に着くまでの間に何度か転校生というワードを耳に挟んでおり、こんな時期に転校生なんて珍しいなと他人事のように感じていた。


「頼人、聞いたか!?」

「おはよ悠人。転校生だろ? 噂になってんじゃん」

「おっ、耳が早いな。しかもただの転校生じゃないんだぜ。そこそこの企業のご令嬢らしくて、絶世の美女なんだと」

「お前は神谷先生一択じゃないのか」


 親友の柏崎悠人はどこからそんな情報を仕入れてくるのか、まるで自分で直接見聞きしてきたかのようにそう言った。


「神谷先生もいいけどさ、同輩にも目を向けてこその紳士だろ? て言うかお前大丈夫か? なんか顔青いぞ」

「寝不足」

「ははーん、さては退魔伝のやりすぎだな?」


 退魔伝とは和風ハンティングアクションゲームの人気タイトルのことだ。頼人もこのゲームのユーザーだが、時間を忘れるほどやることはない。

 ただ昨日のことをうまく説明できる自信がないので、「まあな」と返しておいた。

 悠人はどこか怪訝な顔をしていたが、「そっか」と応じて頼人の後ろの席に着く。


 程なくしてチャイムが鳴って、担任の神谷真央が入ってきた。相変わらずの美貌をパンツスタイルの黒スーツに包み込み、理知的な眼鏡をかけている。しかし中身は男勝りなのだから色々とすごい女性だ。


「あー、聞いている子も多いと思うけどうちのクラスに転入生が来ることになった」


 ざわつく教室を一瞥し、


「ご両親のご都合でね。仲良くしてあげてほしい。じゃあ入って」


 クラスのドアが開いた。

 時あたかも二十一世紀年。最新の機械技術で設備されたドアとはいえ、些細なところから自主性を育てると言う目的で手動で動かすことになっている。

 ドアをスライドさせて入ってきたのは一人の少女だった。


 黒い髪を靡かせ、一歩一歩が演劇の舞台役者であるかのような完成された足取りで進んでくる。

 染めているのか髪の一房は金色で、髪の裏側も煌びやかな金に染まっている。瞳も金色であり、まるで月の化身であるかのような印象だった。


 その少女はゾッとするほどに美しく、完成された魅力を持っていた。

 出るところが出た体に、神秘的な佇まい。柔和な笑みを浮かべる口元とミステリアスな瞳。


月見里輝夜やまなしかぐやです。よろしくお願いします」


 高すぎず低すぎない声でそう言って、輝夜は一礼した。

 クラスメイトは手を叩いて歓迎の意を示し、頼人も周りに合わせて拍手する。


 不思議な印象な子だ。

 頼人はなんとなくそう思うと同時に、なぜか空腹感が押し寄せてくるのを感じた。

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餓神妾譚 — 餓えた神に魅入られて — 雅彩ラヰカ @RaikaRRRR89

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