テスト:ゴヲパレ

雅彩ラヰカ

序幕 天城友季という女

 刀を振るって付着した血糊を払うと、びちゃっと壁に向かって赤黒い飛沫が飛んだ。

 黒い髪を後頭部で結った、体格からして女であろう人影がこちらを見据える。月明かりさえ届かぬ裏路地の影になっていて、顔立ちははっきりとわからない。


「これは魍魎もうりょうだ。ヒトの負の感情から生まれ落ちる異形の生命体だよ」


 落ち着いた声音で女は言い、刀を鞘に納める。

 ビス底のショートブーツで路面を踏み締め、路地の戦いを締め括った女が歩み寄ってきた。

 闇の中からフェードインしてきた彼女は驚くほどの美女で、けれど顔には、その右半分にひどい火傷痕が刻まれている。


「安心しなさい。家まで送っていくから。……私は天城友季あまぎゆき。君は?」

伊織頼人いおりらいと……」


 女に見下ろされていた小学校低学年くらいの、黒髪の少年が応じた。女は少年の頭を撫で、


「さあ、大丈夫。困ったことがあったら私を頼りなさい」


 女に手を引かれ、頼人は路地を後にした。

 その後警察や退魔局で取り調べを受けて、天城友季という女が退魔師でもなんでもない流浪人であったことを知った。


 あの日以来、天城友季という流浪の退魔師を見かけたことは一度としてない。

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