東京都教育委員会は4月21日、都立高校などにおける教育データの利活用方法および教育データの適切な取り扱いについて検討する「教育データ利活用検討委員会」の第3回を、オンラインで開催した。臨時委員としてイェール大学の成田悠輔助教授が教育データの利活用に係る事例と将来的な展望について話し、米国における「エリート高校の教育効果はない」といったデータ分析結果や、埼玉県戸田市のデータを活用した不登校の予測についての実証実験を報告した。
この日の会合では、「TOKYOデジタルリーディングハイスクール事業」の取り組みについて都教委から報告があった。同事業は、学習履歴や校務系データなどの蓄積・分析・指導への活用における実証研究が目的で、都立高校の19校が推進校に指定されている。報告では、「定期考査採点分析システム」の機能を生かし、定期考査をS-P表を用いて分析して生徒の学力の実態をつかみ、次の定期考査の作問を改善した事例が紹介された。また、同様のシステムで、クラス一斉の復習が効果的な問題と、個々の復習が効果的な問題を分析し、復習指導の工夫を実施した事例も紹介された。
こうした事例報告に対し、高柳昌樹委員(都公立高等学校PTA連合会副会長)からは「データの活用についてよく分からないという保護者も多かったが、かなり視覚的に分かるようになってきている。保護者の理解も進んでいくのではないか」と評価の声が上がった。また、瀧本秀人委員(都立光丘高校校長)からは「近年、学校現場にはさまざまな教育DXが入ってきていて、現場は疲弊している。だからこそ、取り組みやすいように、分かりやすく事例を提示していくことが大事だ。そこから新しいことも生まれていくのではないか」と話した。
都教委の担当者は今年度の取り組みについて、「校内研修などにより、教員のデータ活用に関する意識やスキルを向上させ、エビデンスベースの指導の実践を組織的な取り組みにつなげていきたい」とした。
続いて、成田助教授が教育データを活用した米国での興味深い研究結果を紹介。シカゴ市のあるエリート公立高校の入試において「合格最低点でエリート公立高校に入学した生徒群」と、「合格最低点をわずかに下回り、他の高校に進学した生徒群」を追跡調査し、その後の大学入試の点数を比較。すると、どちらの群もほぼ同じ点数か、エリート公立高校の生徒群の方が低い点数だったことが分かった。
成田助教授は「エリート校に入るから学力が上がるわけではなく、単にもともと学力が高い生徒たちを引きつけているだけの可能性が高い。これは米国の他の都市における研究分析でも、米国のエリート大学における研究分析でも、同様の結果となっている。つまり、エリートだと言われている学校が、本当に効果のある教育をしているのかは分からないということだ」と述べた。

また、戸田市における行政データを用いて不登校生徒の予測が実現可能なのかを検証した結果について、成田助教授は「行政データを網羅的に用いて、各月の欠席数と長欠認定の発生を予測するモデルを約1000通り構築して比較した。その中の最適な不登校予測モデルに基づき、長欠リスクが一番高いと予測された生徒5人(学校あたり)にアプローチすると、新規長欠生徒の50%をカバーできた」と報告。
この結果から「今あるデータだけを使っても、長期欠席の予測はある程度できそうだということが分かった」としながらも、「ただし、こうした予測はプライバシーの問題や、場合によってはスティグマのようなものとして機能してしまう危険性もある。今後、長欠リスクを学校現場にどのように伝えて活用すべきか、検討していかなければならない」と強調した。
今後のデータ活用については、「こうした予測を行うためには、日本でもこれまでより幅広く使えるデータを記録していく必要がある。自治体が抱えている課題について、データで何ができるのか、できないのかを気軽に相談できる『データ分析診断士』のような人が必要ではないか」と提案した。