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東京滞在中の この日万太郎は ついにこの旅最大の目的である博物館にやって来ました。
(万太郎)ついに来たがじゃ。
うう…。
(竹雄)ひっどい顔ですよ。はあ… 緊張して 一睡もできんかったき。
帰りたい…。何言いゆうがです?
本当は 心の友に会いとうて東京に来たかったがでしょう?
バレちゅうか。バレバレです。
本当に わしなんぞ来てよかったがじゃろうか…。
♪~
♪「言葉足らずの愛を 愛を貴方へ」
♪「私は決して今を」
♪「今を憎んではいない」
♪「命ある日々 静かに誰かを 愛した日々」
♪「空が晴れたら 愛を、愛を伝えて」
♪「涙は明日の為 新しい花の種」
♪「空が晴れたら」
♪「逢いに、逢いに来て欲しい」
♪「涙は枯れないわ 明日へと繋がる輪」
失礼します。
わあ…。
おっ…。 おお…。
(椅子から落ちる音)
あ~…!
あたたたた…。
あ~… 眠い!
はあ…。 誰か 面白い話 してくれ!
えっ? あ… え? え? あれ?
ときめきでもいい!
あ…。 あ… えいですか?どうぞ。すみません。
これ… ギンバイソウですろうか?ウメの花に よう似いちゅうき。
わし 山の中で この草を見かけたらいっつも ときめきますき!
君は 見かけん顔だな。あっ 失礼しました!
先生 先ほど申しましたでしょう?お客人だと。
あ~ すまん! 一睡も してなくてな。
ああ 仕事を片づけんことには…。あ…。
渋っ! さの君…。
ああ すまん。 えっと…。
あ… 土佐の佐川から参りました槙野万太郎と申します。
土佐にもギンバイソウは生えているのか?はい。 横倉山ゆう山に。
いや~ 「草木図説」と照らし合わせるのに何度も登りに行ったのにここではいつでも手に取って 見られるがですね。
それが標本の いいところだよ。
あ~。 あ… 「標本」ゆうがは…。
植物を乾燥させて 貼り付ける。
植物の名前を検定するにはいくつもの場所の いくつもの標本を参照せねばならんだろう?
しかし こうしておけばいつでも取り出せるし重ねて置いておけるから大量に保存できる。
はあ~…。
これは 何ですろう?
何だと思う?う~ん アジサイの仲間ですろうか?
違うな。 アジサイの仲間は…。
ほら これだ。
タマアジサイ。はあ…。
ん? 何が違うがですろう?
よ~く 花を見てみようか。あ…。
すまんな。
おわっ!
うわ… 顕微鏡!?
はあ~!
うわあ~! おっ おおお…! おお!
こっちが タマアジサイ。
花弁の5つが バラバラに落ちてるだろ?
次は これ。君がアジサイの仲間だと言った花だ。
花弁が筒状に ついていて…まるで違うだろ?
本当に まるで違うちょります!
分かったら 名札をつけてやらんとな。
こっちは ブーちゃんこと ヤブデマリ。
はあ…。そして こっちが タマちゃんこと…。
タマちゃん…。タマアジサイ。
あ…。
えっ タマアジサイの名札が これですか?
タマアジサイは 和名。この日本国内だけしか通用しない名前だ。
だが 植物の名は万国共通のものにしなければならない。
でないと 同じ植物が どこに生えてるか分からないだろ?
あ…。 ラテン語ですか?そのとおりだ!
へえ~。あっ この最後の… これ…。
シ… シ… シー…。シーボルト。
この植物を見つけて 学名を付けた人だ。
えっ 名付け親ですか!?そう!
この植物を名付けて発表した人が永久に残される。
永久に!? はあ…。
え…。
あっ…。 ああ こ…。
あ… えっ?
あ… あっ これも! あっ すみません。
えっ え… これも これも これも「シーボルト」と ありますけんど…。
えっ え… 寝てる?
日本の植物はな まだ鎖国中にシーボルトが来て 調査して回ったからな。
日本人は 何ちゃあ しちゃあせんかった?
何かしてたと思うか?
攘夷だ何だと 騒いでいる時に…。
ありがとう。 誰が植物に目を向ける?
最近も最近 この国じゃ まさに今 始まったばかりなんだ。
日本は島国で 自然が豊かだ。
シーボルトが調査できたのも ごく一部。
世界から見れば この国の植物はまだ学名も付けられていなければ発見されてもいないものがたっくさん あるんだよ!
長く かかりそうですよ。そうですか…。
お退屈でしょう?よかったら 中庭へどうぞ。
あ…。
研究室が見えますから様子も分かりますよ。
ありがとうございます。
どちらから いらしたんです?
土佐の佐川村ゆうところです。
佐川…? あ… 存じ上げず… すみません。
東京からは 遠い…小さい村ですき。
先生は その… そりゃあ たくさんの植物をご覧になっておられますきあの… これをお教えいただけませんでしょうか?
ほう… うまいな。
君が描いたのか?はい。
これはさっきの横倉山で見かけたもんです。
崖に生えちょったがです。
見たことないな…。 新種かもしれん。
えっ!し… 新種やったら どうなるがですか!?
誰かが名付け親になって 世界に発表する。
そ… それは… 誰が?普通は 最初に見つけたやつだな。
ああ…。
だが 名付け親になるのは容易ではないぞ。
何せ 万国共通の名前を付けるんだからな。
発表は英語で論文を書いて 雑誌に載せる。
ああ… 英語で 論文書いたらえい…。ん?
ほう…。ただ 実際 今の日本では名付け親になれる人間は いない。
えっ!? どういうことですか?
日本では 植物を検定しようにも比較するための標本の数が圧倒的に足らない。
今 東京大学の植物学教室に3,000種類ぐらいあるがまあ まるで足らんよ…。それは…。
つまり 今のところ 日本人研究者で植物の名付け親になった人間は一人もいない。
そんな… そんなの…。
お… ほんなら まずは 日本に標本が ようけあったら えいがですね?
そのとおりだ! だから 今 大急ぎで植物分類学を打ち立てるべく標本を集めている。植物分類学ゆうがは…?
植物を見つける。 識別し 分類する。
新種なら それに名前を付ける。
あ… わしが これまでやってきたことやりたかったことは植物分類学ゆう学問やったがですね!うん!
それで 何の用で来たんだった?ああ… すみませんわし ここでお勤めの先生にお会いしとうて。
里中芳生先生と野田基善先生に。
野田基善は 僕だが。えっ!?
えっ! あ… ど…の の… 野田先生ですか?
へっ? あ… ええっ!?
いや… わし 小学校からずっと ずっと これを見て先生にお会いしとうて!
この博物図は 私が博物局に来て最初に手がけた仕事だ。
ああ…。
君 小学生の時 これを写したのか?
はい!
それで ここまで来たのか?
うん… はい!
こんなに…こんなに うれしいことは ない。
はい!
先生…。ありがとう。
先生!
友よ!友じゃ!
私の思いは 土佐まで届いておったか!はい! 届いとりました!
・(野田)こんなに うれしいことは ない!
(綾)竹雄 万太郎を お願いね。
(里中)へい 野田君 ついに来たぞ!里中先生! ああ 来ましたか!
里中先生!?ヘヘヘ… パリから届いたんだ!
えっ… え~! こりゃ 何じゃ!?
うわ トゲじゃ!いい反応だね。
これは サボテンという植物だ。
サボテンは 世界中に何十 何百と種類があるんだよ。
何十 何百も!?
さ~て このかわい子ちゃんの和名どうするかね?
う~ん…。 あっ 槙野君 何がいい?えっ? いやいや…。
何か ニョロっとしてるからニョロサボテン…。
いや ひもばっかりのヒモサボテンかね。
いいんじゃないんですか?じゃあ ヒモサボテンで。
ええっ そんな簡単に!?まあ 和名は国内だけの あだ名みたいなものだからね。
はあ~… 異国にはこんな珍しい植物があるがですね。
東京に来るがもまるで異国に来たようじゃと思うちょりましたけんど…植物を通したらわしと異国も つながっちゅう。
うん。 西洋に比べたら 我々はやっとハイハイを始めた赤子だが成長を続けることが肝心だからね。
西洋のマネをした博覧会でも「まずは やることだ!」…と ヒモサボテンが申しておる。
(笑い声)
いや~ アハハ。
東京にはあんな大人らあが おるがじゃのう。
フッ。今 初めて 生まれたような気分じゃ。
どういた?
あ… 待たせて 悪かった。
違いますき。
あ… 悪かった。おわびに 竹雄が好きなもん食おう。
違います そんながじゃ…!
若 いかんですき。えっ 何が?
こんなのは 遊びですき。
草のことは 遊びです。
違う…。言うてください!酒造り以外 遊びじゃと!
言えるわけないろうが!
♪~
何を怒っちゅうがじゃ?
はあ…。
竹雄!