ロイター

米機密文書流出経路を追う

 

2023年4月20日 15:02 (2023年4月20日 17:43更新)

米国と同盟国を揺るがしている米国防総省の機密文書流出。これまでの米メディアの報道によると、ゲーム愛好家向けSNS(交流サイト)に流れたことが発端となり、いまもネットの世界で情報は拡散を続けている。米当局は問題に関与したとして、東部マサチューセッツ州の空軍州兵に所属する男を逮捕・起訴した。

 

漏洩者は銃マニア

米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています
米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています
米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています
米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています
米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています
米CNNなどが流出文書として報じている画像。「最高機密」「外国との共有不可」などの文言が確認できる=画像を一部加工しています

米国のガーランド司法長官は男の容疑について「国防機密の不正な持ち出し、保持、送信」に関わっていたと説明した。

漏洩の現場とされるのが「Discord(ディスコード)」というゲーム利用者向けのSNSだ。最近はゲーム好き以外のユーザーも増え、世界で月間2億人が使う。アニメや音楽、投資情報、仕事の相談まで、幅広い話題が活発に議論されている。

流出したとみられる文書はディスコード上のチャットグループの1つで見つかった。ここではこれまでも「OG」と名乗る人物が、米軍に関係する資料や文書をたびたび投稿していた。

米ワシントン・ポスト紙によると、このグループは2020年に招待制で立ち上がり、積極的に銃器や軍用品について意見を交わしていた。リーダー的存在として議論をリードしていたのがOGだ。人種差別的な発言が目立ち、銃を扱う攻撃的な動画も頻繁にアップしていた。

日本経済新聞は米CNNなどが流出情報として報じている内容と同じ文書画像を入手した。「最高機密」や「外国との共有不可」とはっきり書き込んである。

マサチューセッツ州空軍州兵に所属する男は、一連の情報流出に関与している疑いがある。男はIT(情報技術)担当で、軍の機密情報を共有する内部ネットワークにアクセスできたという。

 

 

拡散の発端はゲーム用SNS

機密文書は当初、このディスコード上のグループ内だけでやりとりしていた。しかしメンバーだった別の人物が他のチャットグループに文書画像を転載し、雪だるま式に情報が広がっていく。

米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が欧米メディアで最初に機密流出を報じたのは4月6日だ。ネット上で文書画像が話題になり始めた時期と重なる。

米国のネット掲示板「4chan」にも機密文書が流れたとされる。日経新聞が調べたところ、報道の直前の5日には、ディスコード上と同じ文書画像が掲載してあった。

この投稿は現在(米国時間4月20日時点)も閲覧できる状況になっている。画像は複数に分け、いずれも米国の星条旗アイコンを掲げた同一IDのユーザーがアップした。

画像とともに「ロシアはウクライナに圧倒されている」との発言を書き込んでいる。ロシアの侵攻に対し、ウクライナが優勢に立ち回っている。そうした持論を補強するために文書を添付したとみられる。

  

  

ネット掲示板などに拡大

  

「流出文書」をやりとりしているように見えるテレグラムのログ(Wayback Machineサイト)=画像を一部加工しています
「流出文書」をやりとりしているように見えるテレグラムのログ(Wayback Machineサイト)=画像を一部加工しています
「流出文書」をやりとりしているように見えるテレグラムのログ(Wayback Machineサイト)=画像を一部加工しています
「流出文書」をやりとりしているように見えるテレグラムのログ(Wayback Machineサイト)=画像を一部加工しています

さらにその後、ロシアなどで普及する通信アプリのテレグラム上でも、流出文書とみられる画像が広がった。

調査報道機関ベリングキャットによると、親ロシア情報を発信していた「Donbass Devushka」というチャンネルが起点となった。すでにチャンネルは削除されたが、過去のネットデータを保存するサービス「Wayback Machine」で調べると、複数枚の類似画像が載っているのを確認できた。

文書画像は北大西洋条約機構(NATO)加盟国の訓練の進捗や、ウクライナでの戦闘状況を説明しているように読める。投稿者は「非常に興味深い情報漏洩の可能性がある」とコメントしている。

これらは短期間でネット利用者の関心を集め、NYTの初報につながっていく。



止まらぬ拡散

漏洩の疑いを把握すると、米司法省は即座に調査に乗り出した。

ネット上での情報拡散は非常に速く、すでに他のSNSでも次々と広まっていた。米政府はツイッターなど主要各社に削除要請を出したとみられる。ディスコードも調査に協力しているようだ。

しかし日経が確認したところ、リーク情報を専門に載せるサイトには依然、同様の文書画像が残っている。中国のQ&Aサイト「知乎」では、中国のユーザーがそうした画像をもとにウクライナでの戦況について活発に議論を交わしている。

ネットの世界で情報が一度拡散してしまえば、それを一掃するのは容易ではない。

投稿内容が事実であれば、米国や米同盟国への影響も大きい。米国がイスラエルや韓国に情報活動をしかけていた実態も指摘されている。

日経新聞は米国現代政治が専門の上智大学の前嶋和弘教授にこれらの画像の確認を依頼した。

4chanとテレグラムに掲載されている画像については、双方に同一とみられる画像が掲載されていること、画像の内容がウクライナの戦況について詳しく報じている米戦争研究所(ISW)の情報より詳しいことなどから、「おそらく本物と思われる」との見解を得た。

CNNが報じた流出画像と思われるものについては、前嶋教授は「真偽を見定めることはできないものの、書類の折り目を修正していない稚拙さや、見る人が見れば重要だと分かる情報が掲載されていることを考えると、機密文書である可能性は十分ある」との見方を示している。

一方、米英の軍事シンクタンクの専門家らにも分析を依頼した。しかし、いずれも直接的な回答は控えた。

「どの文書が正確で、正確でないかを特定するのは非常に困難で、今回の流出の重要性を判断するのはほぼ不可能だ」(英国際戦略研究所)

「流出したものであっても、米国の機密情報についてコメントは控えたい」(米ランド研究所)

ネットに流れ続ける文書は本当に国防総省から流出したものなのか。どこまでが本物で、フェイクは混ざっていないのか。なお謎が残っている。

(ニューヨーク=朝田賢治、ワシントン=赤木俊介、東京=淡嶋健人)