渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

目利き

2023年04月18日 | open
 
 
東京の友人があるプールキュー
を手に入れた。無銘だ。
ビリヤード界でいうならば、
「ノーブランド」という作者
不明の作品。
だが、ただものではない事を
見抜いて友人は入手した。
安くはない。

日本刀の武家目利きと同じ
ようにキューの繊細なテイ
スティングができる友人は
早速試斬ともいえる試し撞き
をした。
日本刀ならば「様(ためし)」
という試刀にあたる刀剣吟味
と同じ手法。
撞き味からその個体の特徴を
把握し考察した。
それにより、造り込みの構造
と処理方法に加えて、性能を
吟味鑑定する事により、幾人
かの作者の候補の絞り込みが
ある程度できた。

友人はそのキューのスペア
シャフト製作をオリジナル
キュー製作をやっている腕利き
のキュービルダーに依頼した。
さすがその道のプロだ。
刀剣の目利きと同じように目が
利く。
たぶん、誰々の作ではないか、
との所見をビルダーは持ち主に
伝えた。
よく腕の良い日本刀研ぎ師は
刀剣の作者を見抜く。
3万人ほどいる歴史上の日本刀
の刀工の中から、どの時代で
どの地方でどの系統でどの作者
であるかをほぼ的中させるのが
日本刀の本物の研磨師たちだ。
そして、研磨次第で刀を化け
させる事も研ぎ師たちは可能
だ。魔術師のように日本刀の
個体を別な作風のようにさえ
研ぎ上げる事も可能であるし、
また、その人が研いだ刀剣に
は他の研ぎ師は手を出すな、
とさえ言われる名人もかつて
はいた。
私はその人が研いだ日本刀の
判別がつくある視点をある時
突然獲得した。これは既存の
刀剣書にも書かれていない。
だが、明瞭に刀身にはその人
の隠しメッセージのような仕事
が顕著に出ているのだ。
この特徴は、刀剣専門店でも
把握している店はほとんど知
らない。
高次元の技術を持つ研ぎ師たち
は知っているのだろう。だから
こそ研ぎ師を特定して、その
名人の研ぎ作を後年に研ぎ直そ
うとしたら何が出て来るか分か
らないので手を出すな、と斯界
で喧伝されて来たのだろう。
疵や欠点を超絶技法で伏せて
隠し、刀身を見事な物に仕立て
上げるのがその歴史的名人の
研ぎだからだ。名を平井千葉と
いう。
私は平井先生が研いだ日本刀
は実見すれば特定する事がで
きる。

さて、スペアシャフトを依頼
した友人にキュービルダーは
「たぶんあの人」と作者につい
ての所見を伝えたという。
私も候補に挙げていたキュー
製作者だった。

新規のスペアシャフトにより
その原作者のバットとの合体
となる。
つまり、コンバージョンモデル
が登場する。
これは、バットとの相性もある
が、キューの6割以上の性能は
シャフトによって方向づけられ
るので、かなり面白い作品と
なるのではなかろうか。
こういう事は日本刀ではできな
い。刀身は一作者によって製作
されるからだ。ただ、研ぎに
よって大きく切り味は異なって
くるが。

キュー遣いたちの楽しみには、
シャフト交換による性能の味
つけが変化する事を楽しめる
事が挙げられる。
これ、かなり面白いし楽しい。
二輪でタイヤを替えたら走りが
激変するのに似ている。

ただ、オリジナルキューのシャ
フトがソリッドシャフトで作ら
れているキューにハイテク物や
カーボンを装着して、というの
は私は個人的にはキューの設計
と製作者の意思を軽んじるのを
超えてないがしろにするものだ
と思っている。
最初からハイテクやカーボン用に
作られたキュー以外にそれらの
シャフトを着けて撞く事は私個人
はしたくはない。
東京の友人も私と同類同族のよう
で、徹底的にソリッドスタンダード
シャフトにこだわっている。
今回のスペアシャフトも、無論
ソリッド=ハードロックメープル
の無垢木シャフトだ。

シャフト製作には非常に時間が
かかる。
大手マスプロメーカーや中国
メーカーのように一気に削って
はい完成、ではない。
カスタムビルダーのシャフトは
相当な時間と手間と英知が詰ま
っている。
完成後のコンバージョンに、
今から期待ワクワクしている。

こういうキュー作りは、私は
嫌だなぁ(笑)。
(某アジアの量産キュー)

 


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