全裸の交際相手の背中めがけて、右手に持ったナイフを振り下ろしたー。法廷に現れた被告は、22歳の女。一命を取り留めた交際相手は歌舞伎町のホストだった。

「お金を使った分だけ仲良くなれた」。“ケンカの仲直り”で90万円のブランデー、“誕生日イベント”で150万円のシャンパンタワー。貢いだ金は、実に500〜600万円にのぼった。バイト代では到底足りず、足を踏み入れたのは風俗の仕事。「地方に出稼ぎに行くこともあった」という。ホストにはまり、ナイフを手に取るまで、追い詰められていった女の心境が法廷で明らかになった。

出会いは歌舞伎町「別れたくない」と背中刺す

事件が起きたのは2022年6月。22歳の被告は、交際相手のホスト(当時29)から別れ話を切り出され、「別れたくない」と懇願した。しかし、願いは聞き入れられなかった。その後、同棲していたマンションで、シャワー中の交際相手の後ろからペティナイフで背中を何度も突き刺した、殺人未遂の罪に問われている。被害者は肺に達するほどの深い傷を負った。医師によると「搬送が1時間遅れたら亡くなっていたかもしれない」状態だった。
2023年3月、東京地裁で開かれた裁判員裁判の初公判。52ある傍聴席はすべて埋まり、20代くらいの若者の姿が目立った。

「まちがいありません」。上下リクルートスーツ姿の被告は起訴内容を認め、午後には交際相手の被害者が証言台に立った。

【被害者への証人尋問】
ーー(被告と)出会ったきっかけは?
営業後、彼女が店の外にいて、酔っていたので介抱した。

2020年12月、ホストを始めたばかりの被害者と、専門学校に通っていた被告が東京・新宿歌舞伎町で出会う。初めて会った日にホテルに行き、そのまま肉体関係を持った。当時20歳の被告にとって、これまで「体の関係がない交際はあったが、体の関係がある交際は初めてだった(本人の供述)」という。

150万円のシャンパンタワー「ナンバー2」ホストに

被害者から「指名客もいないので応援してほしい」と言われ、被告は週に2、3回のペースでホストクラブに通うようになった。その後、正式な交際を開始し、同棲を始めたものの「ホストと客」としての関係は続いた。

【被害者への証人尋問】
ーー(被告が注文したもので)高額なものは?
ブランデーですね。1つが30万(円)ちょいと1つが約90(万円)。
ーーなぜブランデーを注文した?
ケンカした流れで店に来て話し合いをして、仲直りの形で入れて頂いた。

新米ホストで、店での売り上げが「ランキング外」だった被害者。被告と付き合って以降「ナンバー2」までのぼりつめた。事件の2週間前には、ホストとして初めての誕生日イベントが開かれた。この日、被告はシャンパンタワーを入れた。

【被害者への証人尋問】
ーー(誕生日の)シャンパンタワーはいくら?
全部で150(万円)ですね。
ーー金を使わせるために、付き合った?
本人にも告げていたけど、当初は営業目的で付き合った
ーー誕生日イベントの直後に別れ話をしたのは「もういいや」となった?
そこまでは…「シャンパンタワーやらなくてもいい」と伝えたが、(被告)本人が「目標にしていたからやりたい」と。