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この作品「茅ヶ崎至の片思い事情」は「至千」「A腐リー」等のタグがつけられた作品です。
茅ヶ崎至の片思い事情/おもちの小説

茅ヶ崎至の片思い事情

7,503文字15分

至さんの片思い気味です。
頭が悪いので何も考えずに読んでください。

2023年4月9日 10:20
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俺、茅ヶ崎至は、卯木千景のことが好きだ。
端的に言うなら、一目惚れ。
会社ですれ違った時、こんなに綺麗な人見た事ないと思った。好きだと言っても、俺にはゲームという一生を捧げると決めた相棒があるし、そもそも男同士だし。恋に盲目になるなんて歳でもない。(まぁまともに恋愛したことなんてないのだけれど。)だから言うなれば推し?みたいな。別に千景さんと恋愛関係になりたいなんて思っちゃいないが、仕事で関わることが出来たらその日はラッキー。そんな気持ちだった。だから初めて千景さんから俺にプライベートで舞台のチケットが欲しいと話しかけてきた時は会社で貼り付けている王子様スマイルが剥がれかけた。

「じゃあ、連絡先交換しませんか」
「そうだね。」

いとも簡単に差し出されたプライベート用のスマホは白いカバーの飾り気のないシンプルなデザインで、なんだか彼らしいと思った。
QRコードを読み込んで、友達登録する。彼の性格をよく知っている訳では無いが、何となく初期アイコンっぽいなと思っていたので可愛らしいうさぎが現れた時、少し面食らった。ステメには予想どうりというかなんというか、何も書いてなかったけれど。

そのあとも普通に仕事をこなして、ヘロヘロになって寮に帰って臣お手製の晩御飯を食べる。少々行儀が悪いが、食べながらソシャゲのデイリーを消化していく。ひと段落ついたところで、LIMEのホーム画面を見ると、自分のプライベート用スマホの決して多くは無い友達の欄に彼の名前が踊っているのが少し不思議な気分だった。

数日たって、無事にチケットを取れた。普段会社の人に宣伝はすれど直接知人に渡すためにチケットを私的にとったことなんてなかったから、監督さんが張り切っていい席を取ってくれた。監督さんから受けとったあと、小走りになって部屋に駆け込む。ゲーミングチェアに腰掛けて、両手でスマホを持ち恐る恐る卯木千景のアイコンをタップする。【チケット、取れました。いつ渡せますか?】という字を打って、おかしくないか、押し付けがましくないかを何度も何度も目で読んで確認する。時間も迷惑にならない時間を見計らい、何度か送信ボタンの上で指をさまよわせ散々悩んだあとえいっと送信をタップする。深く息を吐いてスマホを机の端に置き、ゲームでもするか。とゲーミングパソコンに向き直るが、なんとなくスマホに意識が向いてしまって、無理やりヘッドフォンをつけて最近お熱なサバイバルゲームに熱中する。
3回ほど試合が終わったあと、ヴッとスマホが短く震えるのを目が捉えて、通知で千景さんからの返信だと確認する。こういうのって直ぐに確認した方がいいのかな。でも即既読つけると待ってた感あるかな。でも先輩だし相手よりは早めに既読つけた方がいいはず……。学生時代まともに恋愛をしてこなかったツケが今頃回ってきて、しばらく逡巡したあと結局五分くらい間を開けて既読をつけることにした。意味もなく椅子の上で正座に座り直して、両手でスマホを持って恐る恐るトークを開く。
【ありがとう。明日の朝取りに行っていいかな?】
特になんの期待をしていた訳でもないけれど、何となく全身の力が抜けて脱力して、自分がよっぽど緊張していたことに気がついた。そのあと返信しなければならないという緊急ミッションに立ち向かうべくスマホをまた睨みつける。ここはわかりやすくて親しみやすいスタンプ……?いや普通に先輩には失礼になるし。じゃあ了解ですとか?なんか冷たいかな……いやでもプライベートで喋ったことまともにないし。これくらいが普通?どれくらいなら許される?クルクル椅子を回して逡巡するが、しばらく回しているうちに三半規管に深刻なダメージを受けてやめた。え、何周かしただけなのにこんなダメージ受けるの?やば……。
それはそうともうここは無難に【了解です。】でいこう。そうしよう。りょうかいです、と打ち込んだ瞬間に予測変換にでてきた漢字変換を押そうとして、そのひとつ上にある了解の一成特製亀吉スタンプに一瞬意識を持っていかれる。
「あ゛っ」
まずい。間違えて亀吉を送信してしまった。焦ってスマホを取り落として慌てて拾い上げる。とりあえず送信取り消ししないと……!
「……え?」
既読が、ついてる。え?あの人こんなに早く既読つけるの?え?待って待って見られてる見られた。どうしよう失礼じゃない?!会社では王子様で通してるのに……!終わった〜〜〜……
天井を見上げフリーズする。これで会話終わりか?あーていうか明日先輩取りに来るんだよな……謝った方がいいかな?でもスタンプで謝るってなんなんだ。うーーんわからん。

そのとき、手の中のスマホが小さく振動した。
うわ、返信…?片手で顔を覆ってゆっくりとスマホを見ると、【よろしく。】の文字が並んでいた。

次の日、いつもより少しだけ早めに会社に着いてデスクにいると、五分くらいした後に先輩がやってきた。

「あ、先輩。どうぞ。これがチケットです。」
「ありがとう。今度なにか奢る。」
「期待してます。」

ほんとに奢る気あるんだか分からない微笑みに微笑みで返して、それじゃ。と立ち去っていく。

接点なんて本当にこれくらい。この後から公演がある度にチケットを取って欲しいとお願いされて、3回目以降は言われる前にチケットを取るようになっていた。

それから季節は巡って、春組第四回公演の順番が回ってきた。6人目は必然的に俺と同室になるし、どうにかして俺の城を守ろうと考えていた時。先輩が入団したいと言ってきた。俺は快く、とまでは言わないけどとりあえず監督さんに話を通して2週間が経つ頃には先輩は春組に名を連ねていた。

最初の頃は分厚い殻の中にいて、誰にも触れられなかった先輩が、誘拐騒ぎを起こしたあとはボロボロになって帰ってきた。先輩はそこにいるのに、中身が伴っていない、というか。今にもいなくなってしまいそうで、必死に手を伸ばしたけれど俺じゃ届かないと思った。

その後、昨夜に引き止められた先輩は劇場で咲也と一緒に寝ていた。俺やシトロンや真澄や綴が入ってきても一向に気づく気配がなく、安心して眠っている姿はメガネを外していることもあっていつもより幼く見えて、どうしようもなく愛おしさを感じて、胸がきゅぅと閉まる感覚があった。
うわぁ、まじか。どうしよう。俺、自分で思ってたよりも先輩のこと好きかも。
真澄が咲也の布団に入り込んだことをいいことになら自分も、と先輩の布団に潜り込む。首筋に顔を寄せて、すん、と息を吸えばほんのりいい香りがして、これは眠れないかも…と思ったけれど、先輩の体温と自分の体温ががぬるく心地よく混ざりあって、自分でも意外な程に簡単に意識を手放した。

その後先輩の演技がすごく良くなって、稽古に追われてみんなでただ必死に千秋楽まで駆け抜けた。千秋楽のオズがエメラルドの都から立ち去るシーンを舞台袖から見ていると、ふと先輩の動きが止まって、セリフを忘れたのかと思うほどの静寂のあと、憑き物が落ちたような、自然体の笑顔を浮かべた先輩を見て、かわいい。と思った。グッと胸が詰まって、顔に血液が集まる感覚がする。心臓の音がいつもより早まって、千景さんから目が離せない。ハッ、と息を吐いて息を吸うので必死で、心臓のあたりをぎゅうと掴んだ。

空気を大きく揺らす拍手の音で意識が浮上して、「なにしてるんですか至さん!カーテンコールですよ!」という綴の声で覚醒した。舞台に走って、心からの笑顔を浮かべて深く頭を下げた。

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