法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

社会全体で性暴力の問題を共有しようという啓発ポスターについて、与党議員がとりさげさせようとする理由がよくわからなかったが、某大学教授の批判で少し見当がついた

 ポスター自体は少し古いものだが、発足したばかりのこども家庭庁のアカウントで告知されたことで注目を集めている。

twitter.com
4月は #若年層の性暴力被害予防月間 です。
性暴力は、重大な人権侵害であり、決して許されません。
若年層が性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう社会全体で性暴力の問題を共有し、性暴力をなくしましょう。
詳しくはこちら(内閣府男女共同参画局
https://gender.go.jp/policy/no_violence/jakunengekkan/index.html

 引用リツイートしている自民党山田太郎氏の発言はまったく具体性がない。山田氏によって啓発や表現が抑圧される懸念はあるが、反論や議論する材料がない。


4月13日、本件ポスターについて作成元の内閣府男女共同参画局、その他、法務省、こども家庭庁等からレク。私に寄せられた多数の問合せ等も踏まえ、様々な問題点や疑問点について質問するも何点かは宿題で後日回答に。本日説明を聞いた限りでは、一旦取下げた方がいい。

 他のリプライや引用リツイートにはさまざまなポスター批判があるが、性暴力という概念を否定せずにそれなりに合理的な意見は、男性が被害を受ける場合を描いていないといった意見くらいか。
 しかしそれは表現が不足しているという批判であって、新たな表現を追加する理由になっても、今ある表現を削除する理由としては弱い。
 そもそも「はなびら葵@hollyhockpetal」氏が紹介するように、女性側が上司として権力をつかえる場合の表現もつくられており、セクハラだけでなくパワハラにも視野をひろげた内容になっている。


周りもわかってなくて、本人はNOなんだけど口に出せない。これを被害だと公的機関が啓蒙してくれるのはとてもいいと思う。https://youtube.com/watch?v=t8EMMmnJjig

 こうした権力関係で抗議できない想像できない立場それぞれを啓発する表現として、冒頭のポスターはかぎられた情報量の制限があるなかでは完成されている。


 しかし京都女子大教授で倫理学者の江口聡氏の下記ツイートを見かけて、ひとつ現在の自民党政権ならではのポスター批判がありうることに気づいた。


性暴力なんとかキャンペーン(?)のポスターはたしかにあんまりよくないねえ。「ノーを言うのはあなたの権利」とか「ノーを言ってもぜんぜんかまいません、ぜひ言いましょう」とかそういう形のやつにしてほしい。
そうでなければ、逆の側から見て「イエスがないと犯罪です」でもよい。

 江口氏が「あんまりよくない」理由を明記していないので最初はよくわからず、山田氏がとりさげようとしている表現より江口氏が推奨する表現が特にすぐれているとも感じなかった。いいねやリツイートが複数ついているので、考えを共有している人には理解できるツイートなのだろうとは思うが*1
 しかしポスターの文章とてらしあわせて、なんとなく見当がついた。「ひとりで抱え込まないで。年齢・性別を問わず、相談できます」というコピーと、「ノーを言ってもぜんぜんかまいません、ぜひ言いましょう」というコピーは違うところがひとつある。
 おそらく江口氏や同調者は、権力や恐怖などを理由に抗議できない局面がありうることを否認して、性暴力への対策を自助努力にもとめているのだ*2。少なくとも、そう解釈できるコピーへ変えてほしいと江口氏は主張している。
 そうだとすればポスター批判に同意はできないが、そういう思想が存在することはわかるし、現在の自民党で少なからず共有されている考えでもあるだろう。

*1:はてなアカウントをもっているid:wideangle氏も同調していたので、意図を問うためにIDコールする。もちろん、いいねやリツイートが同調以外の理由でおこなわれている可能性はある。

*2:こちらのエントリで引用した江口氏の主張と一見すると正反対だが、被害者側に責任をおわせて選択肢を制限させる主張としては一貫性はある。 hokke-ookami.hatenablog.com

  • 与党議員がこれに拒否反応してる様子を見せられると、政権においても「国民がノーと言ってないからイエス」みたいな認識があってそこが刺激されてるように感じてるんじゃないかとか邪推しちゃうな

  • 555

    山田太郎参議院議員の場合、韓国のアチョンボブ法が何を成し得たかの実例を知っているので
     これに通じる法案への懸念は至極当然なのだと思う。とりあえず男女共同参画局のサイトを閲覧したら
      過去の「若年層の性暴力被害予防月刊」のがまだ3年目とはいえ、
       例年ごとに進化していて大いに関心出来た。
        「巧妙になっている10代・20代に対する性暴力の手口」の啓発も
         当然すぎる内容で良いと思った。

  • hokke-ookami

    瀞さんへ
    あああ、なるほど……自民党でも山田氏以外は明示的な反対にまわっているとは聞きませんが、たしかに岸信介が「声なき声」を根拠に声ある声としてのデモを無視した歴史とも重なりますね。
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/388104/


    555さんへ
    >これに通じる法案への懸念は至極当然なのだと思う。

    いや、山田氏の追加説明ツイートで性暴力と性犯罪を混ぜこんでいることもそうですが、そもそも法案とポスターに直接的な関係はないのではありませんか?
    https://twitter.com/yamadataro43/status/1646818737352503298
    ポスターにワンストップセンターのような相談先は明記されている一方、法改正への言及はいっさい存在しません。


    はてなブックマークにもいくつかレスポンスします。


    id:casmさんへ
    >こうやって取り巻きの忖度を議員本人と同一視する営みこそ、御本尊の逃げ道となる。これでは山田ではなく江口に対する議論にしかならぬ。全く具体性がないこと自体を「反論や議論」の対象とすべき。

    きちんと読んでほしいですが、江口氏と山田氏を同一視はしていません。意味不明なポスター批判にひとつの理路を見いだす補助線として利用はしましたが、それでもひとつの可能性にとどめています。。
    また江口氏は人文学者としてそれなりの地位で注目も集めており、まったく山田氏と異なる考えであったとしても議論の俎上にあげる意味はあると思います。


    id:opnihcさんへ
    >エコーチェンバー御用達のブログだけに視野が相変わらず固定してて分からないのも致し方ないかと。スパム広告以外でミュート推奨なのここくらいかな

    山田氏の最初のツイートに対する反応を見ると、わからないのは私だけではないようですが。理由が自明的だというなら、説明していただけないでしょうか。
    もっとも先にコメントされたcasmさんによると、貴方の忖度は無視すべきらしいですが。


    id:horaixさんへ
    >前半は納得したけど(山田のクソさに)、後半の江口氏への論調はマジで意味不明だった。「ノーと言ってもかまいません」が、なんで自助努力になるんだ。おそらくと留保はしているが

    「相談できます」というコピーがあるポスターを否定するかたちをとっているからです。
    厳密には、拒絶を口にするよう指摘するポスターにすべきという主張は江口氏以前にも見かけていましたし、山田氏の追加説明ツイート最下部にもそれがあります。
    しかし、それらもまた追加の理由になっても削除の理由にはならないし、そもそもポスターも拒絶を口にすることを否定している内容ではなく普通に拒絶をかたちにすることも啓発にふくめた内容なのに……と思っていました。
    そして江口氏が提案したコピーの内容と、それを コ ピ ー の 追 加 で は な く 既存のコピーを否定するかたちで提示したことで、拒絶を口にするようなポスターにするべきだという批判の意味がようやく私にもつかめた、ということです。


    id:steel_eelさんへ
    >ノーと言えない状況があるなら、必要なのは「こういう状況ではノーと言えない可能性が高いから気をつけましょう」の啓蒙では?もし、どんな状況でもそうなら「同意とか意思確認は無意味」の扱いしかないが。

    その啓蒙も重要ですが、すでに発生した被害への相談先を提示するポスターでもある以上、「気をつけましょう」という自助努力の予防策だけが必要とは思いません。
    拒絶できない状況が人それぞれで複数考えられる以上、一枚絵のポスターですべて列挙することは難しいと思います。典型例を提示することはできるでしょうし、それで良いポスターになることもあるでしょうが、表現として普遍性を欠くこととバーターになりがちです。
    そしてその状況を具体的に描いたポスターが良かったにしても新作を出す理由にはなっても、既存のポスターをとりさげるべき理由にはなりません。抽象的というだけの理由で啓発ポスターを政治家が説明なくとりさげさせようとすることに正当性があると思いますか?


    id:sirotarさんへ
    > 「同意という曖昧で簡単に覆せる基準のみで性犯罪を規定する事は乱暴」という話でしょ。

    ポスターで描かれているのは「性暴力」とその相談先であって、性犯罪の規定や通報先ではありません。

    >仮に契約書にサインしたとしてもAVのように後から覆せるケースを左派の皆さんが作っちゃったし。

    ……虚偽的な説明であったり触法的な内容の契約書であってもサインしたら覆してはいけないと主張されますか?
    貴方は契約書にサインしたら詐欺は成立しないと主張されるのですか?


    id:Kenjuさんへ
    >この理屈ならYESと言ったかどうかも関係ないよね。「怖くてYESと言わざるを得なかった」で通報だし。返事は関係なくて内心を確認しないといけないんだけど、方法がわからないな。確認は諦めざるを得ない?

    通報と相談の違いがわかりませんか?
    その上で、性犯罪でなくても「YES」が本心からなのか判断されるものではありませんか。逆に貴方の理屈では多くの詐欺が立件できなくなりますよ。


    id:nuaraさん、id:mezamashi0540さんへ
    >絵柄のせいで、女性を思いやる優しい男性と、その男性を愛している女性のように見える。嫌だったしもう2度と嫌、という関係性に見えない。
    >左人物の悪意ある表情は本来は好意の表情のはず。悪気のない人物へ否定を表明することの躊躇とその人への嫌悪感の葛藤が実相では。それを他者の悪意と本人の恐怖に置き換えている。つまり啓発内容と齟齬がある。

    上の絵は男性側の主観で、下の絵は女性側の主観という表現だと思いますよ。
    さらにいえば、見た目を優しくしていることは、外見への偏見を表現に利用しない良さや、第三者が加害を気づきにくい場合を表現にくみこめている良さがあると思います。


    id:Shiori115さんへ
    > "どうしてそんなに性同意を取りたくないんだろう。" 性的なことも含めて逐一同意を求めるような相手はそもそも選ばず「察して」とか「うまくエスコートしてほしい」とか求めるクセに何を言っているんだろ

    ???


    id:Outfielderさんへ
    >法華先生はここのところcolabo擁護のときと同じくらいの無理矢理な屁理屈と熱量で江口先生にかなり異様に粘着を続けるけど、水原さん相手だと勝ち目薄そうなのでもうちょっと集団で潰せそうな個人を選んだのかしら

    無理矢理な屁理屈と熱量でColaboににかなり異様に粘着している人々がいるのは知っていますし、江口氏もそのひとりだと知っていますが、少なくとも私はそれらの人物よりは粘着していないと思いますよ……単純にツイッターをやっていないし、ブログエントリも毎日書いているわけではない上に、一日ごとに話題がかなり変わっていますし。


    id:hom_functorさんへ
    >ポスターに難癖つける自称フェミニストのマネごとみたいな低レベルムーブに擁護の余地はないが、草津の件で発狂して冤罪ふっかけたレベルの人が多数いる国で"合意"とかいう曖昧なものを運用できる水準にないのも確か

    合意が運用できないなら、対人の性行為をいっさいしないほうがいいと思いますよ。かなり本気でそう思います。


    id:hanyan0401さんへ
    >警察の啓発動画に対する議員の抗議は、規制性を否定するに留めていた(https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20211022/1634828400)のに、抗議には至らない質問を「抑圧」と評し懸念するのは、アンバランスだと感じました。

    そのエントリでは藤栄氏が「規制」と表現していたので、それに対する反論を書きました。しかも藤栄氏は「性表現の規制が成功していない」とも書いています。くらべると私のほうがフェミ議連による抗議への懸念を表明しているとすらいえるでしょう。
    今回のエントリでも山田氏の行為を「規制」とは記述せず、「抑圧」の懸念と表現しています。また山田氏は「一旦取下げた方がいい」と表明しており、ただの質問にとどめていません。野党中心地方議連と与党国会議員とでは行使できる力も異なります。


    id:kaionjiさんへ
    >客観的な脅迫の事実や拒否できない状況を証明できないなら「怖くて拒否できなかった」は通らないと思うよ。このポスターではそれが分からないし。

    むしろ逆ですね。客観的な脅迫の事実や拒否できない状況を証明できなくても、傷ついたことを相談する意味はあります。
    そもそも性犯罪として立件できなければ性行為をしてもいいと考える人間だけではないでしょう。傷つけたと第三者から指弾されなくても、相手を傷つけたくないという思いをもって性行為をするべきとは考えられませんか?


    id:yujimi-daifuku-2222さんへ
    >江口氏の見解に賛同します。/脅迫や暴力などの超限定的なシチュエーションを理由に、誘われた側が明確に回答しない事を一般論として免責するのは誤り。

    政治家が啓発表現へ介入することを表現の自由の危機と考えないのでしょうか?
    それはともかく、貴方のように脅迫や暴力に限定するならば、むしろサービス残業なども明示的に拒否しなければ会社が免責されかねません。


    id:raebchenさんへ
    >え?え?😳 "逆の側から見て「イエスがないと犯罪です」でもよい"→「ノー」が言えなくても、これならいいんじゃないのか?😳 ここの部分へのコメントがないように思うんだが?😳

    そうですね、いくつかのコメントへレスポンスしたように、そのコピーはポスターテーマの性暴力と性犯罪を混同させるという意味で問題だと思います。


    id:big_song_birdさんへ
    >ブログ主は自分は美人局には引っ掛からないという確信があるのかな?それとも非モテの高齢童貞だから、恋愛には縁が無くて無問題?セックスの経験があれば、行為前に同意を得るなんて戯言だってすぐにわかるのに。

    美人局が怖いなら性行為をしなければいいだけではありませんかね……そもそも昔から犯罪類型のひとつである美人局の可能性がポスター取り下げの根拠になると思いますか?

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