第84話
「お、なになに?」
「誰や今喋ったのー?」
浜本と松田二人の視界が、声の主を探す。
「私だ」
鬼頭玄武さんが、二人を睨みつけるようにしながら再び声を上げた。
その場の全員の視線が鬼頭玄武に集まる。
「えーっと、あなたは…」
「玄武さん!鬼頭玄武さんやろ!!わししっとるで」
手元の台本を見て鬼頭玄武の名前を確認しようとする浜本に対して、松田が鬼頭玄武の名前を呼んだ。
「一昔前、よくダンジョン関連のニュースに出てた人や!確か一度だけ番組で一緒になったことあったんちゃうかな?」
「そんなこともあったかもしれない」
玄武さんが松田に頷きを返す。
「えーっと、じゃあそうやな。ちょっと予定通りちゃうけど、ダンジョン配信者さんたちじゃなくて、先に探索者さんの方から話聞いていこうか」
リハーサルでは、配信者の出演者を先に紹介する予定だったのだが、鬼頭玄武さんが口を挟んできたことで、二人は予定を変えることにしたようだ。
先に探索者のゲストである玄武さんと雅之さんに話を聞くことにしたらしい。
「玄武さん、神木くんの実力を保証するいうたな?神木くんの実力は、本業の玄武さんから見てもやっぱりすごいの?」
「すごいなどというものではない。その男の実力は、前代未聞だ。ソロで深層を攻略するなど尋常じゃない」
俺のことをベタ褒めしてくる鬼頭玄武さん。
かつて深層探索を本業にしていた有名な探索者に褒められて俺も悪い気はしない。
ちょっとストレートすぎて体がむず痒いような気がするけど。
「よかったね、神木くん」
「お、おう…」
桐谷がそんなふうに耳打ちしてくる。
浜本と松田は、鬼頭玄武に、深層探索がいかに危険なのかを問いただす。
「へえええ、本業の人が言うと説得力あるなぁ」
「尋常じゃないって…やっぱり神木くんのいう通り、深層っていうのはやばいところなん?どのぐらいやばいん?」
「ダンジョンの深層に潜れるのは、一握りの深層探索者と呼ばれる実力者たちだけだ。もちろんそのほとんどが成人でベテランだ。未成年はほとんど存在しないと言っていい」
「へえええええ、そうなんか。勉強になるなぁ」
「じゃあ、やっぱり高校生の神木くんが深層に潜ったっちゅーのはすごいことなんやな」
「深層探索者は、普通深層に潜る際に、装備品や情報量などで数億円の金を使うのが相場だ。それだけの金をかけて、数ヶ月準備し、探索に挑む。それでも死者が出る可能性は拭いされない。それほどまでに危険な場所なんだ。深層は」
「ちょっと待って!?」
「待て待て待て!今数億円いうた!?」
深層クランが一度の深層探索に大金を使うというのは、俺は話で聞いて知っていた。
そのあまりの数字の大きさに、浜本さんと松田さんが大いに驚く。
「準備に数億円使うんか!?」
「なんやそれ!?この番組の予算よりも全然多いやんけ!!!」
「おい、それはいうたらあかんやろ!!」
浜本が松田に突っ込んだ。
「「「「ははははは」」」」
笑いが起こる。
だが当人の松田は、あまり笑っておらずいま
だに驚いたように玄武を見ている。
数億円という数字が、本当に驚愕だったようだ。
「そ、そんなお金をかけて探索潜って、利益とか出るんですか?」
「出る。そうでなければ探索者という職業が成立するはずない」
「えーっと…具体的にどのぐらい…?」
「売り上げか?そうだな……今どうなっているかはわからんが、私の時は一回の深層探索で得られる総収入が十億円ほどだったな」
「じゅ、十億…」
「とんでもないスケールや…」
ポカーンとなる二人。
大御所の芸能人である二人は、もちろん年収ベースではそのぐらいもらっているのだろうが、しかし一回の探索でそれぐらいの大金を稼いでしまう深層探索者たちは、やはり二人にとっても驚きだったようだ。
「ダンジョンから持ち帰るドロップ品や、情報、全てを合計した収入だ。そこから経費を差し引いて、大体利益は五億円から六億円と言ったところか」
「探索者が儲かるいう話は聞いてたけど…」
「とんでもない稼ぎやでこれ…」
「「「「すごーーーーーい」」」」
観覧の女性たちも、深層探索者たちの稼ぎに驚いている。
「もちろんそのお金はクランの人数で分配される。運営費のこともある。だから、そのまま我々探索者の懐に入るわけではない」
「いや、それだとしてもすごいで」
「探索者、夢あるなぁ…まぁ、命かかってるんやからやっぱそれ相応の金は手に入るもんなのか…」
「ふん…もちろん全員がそれぐらいの収入を得ているわけではないぞ?あくまで一部の深層クランの話をしたまでだ」
玄武さんは司会二人に関心され、少し得意そうである。
二人はひとしきり「すごいなぁ」「探索者儲かるんやなぁ」と玄武さんに感心した後、今度は現役の深層探索者である日下部雅之に水を向けた。
「えーっと、じゃあこの流れで日下部雅之さんに行ってみようか」
「日下部さんは今現在、探索をされてる方やんな?どうなん?玄武さんのいうようにやっぱりダンジョン探索って稼げる者なん?」
「まぁ、そうですね…」
日下部雅之さんは、チラリと玄武さんを見て気遣うような素振りを見せてから、頷いた。
「玄武さんたち白銀の騎士団は、探索者界隈では知らない人のない伝説のクランですから、ちょっと他のクランもそれと同じと考えてもらうと困るんですが……しかし実際に深層を主戦場にしている我々黒の鉤爪クランも、一度の探索で五億円以上の成果は出していますよ」
「はえー」
「すげぇえええ」
「「「「「すごーーーーーーい」」」」」
「いやぁ…ありがとうございます。まぁ、玄武さんたちには遠く及びませんが…」
「ふん」
終始玄武に気を使うような喋り方をする雅之さん。
やっぱり鬼頭玄武は、探索者界隈では相当有名人らしく、多くの探索者から尊敬を集める人物のようだ。
「じゃあ、玄武さん。神木くんは将来、成人したら、玄武さんのようなすごい探索者になる可能性があるってことですか?」
「こんだけの大金を稼いでる人が言うんやから、神木くん、普通の高校生に見えてもほんまにすごいんやろな?」
そう問われた玄武さんが、一瞬チラリと俺の方を見た後に言った。
「神木拓也に関しては、すでに実力では現役時代の私を大きく上回っている……彼が成人した時に一体どうなるかなど想像もできない。今すぐに探索者になったとしても、私が長い探索者人生で成し遂げてきたことを一年以内に全て達成できるだろう」
「えええ!?そんなに!?」
「ベタ褒めやん!!」
信ぴょう性のある玄武さんの言葉に、二人がさっきとは違った目で俺を見てくる。
先ほどは所詮高校生だろう、という色がありありと感じられた視線だったが、今は若干尊敬のような雰囲気も感じられる。
「はは…ありがとうございます…」
俺は照れ臭さを誤魔化すように頭をかいた。
なんで玄武さんはここまで俺を担いでくれるのだろうか。
別に配信に一度来てくれただけで、お会いしたこともないのに…
「雅之さん的にはどうなん?」
「やっぱり現役の深層探索者?の日下部さんから見ても神木くんはすごいん?」
「そうですね…玄武さんのいうように彼の実力は本物だと思います…実は彼とは一度ダンジョンでたまたま出会したことがありまして…」
日下部雅之さんが、ちょっと気まずそうに以前に俺と黒の鉤爪クランの間で起こった出来事を話す。
「……と、大体そんなことがありまして、私の仲間が一人、自分から喧嘩を打ったのに彼に手も足も出なかったんです」
「へえええええええ」
「すごいなそんなことがあったんか!」
日下部さんが黒の鉤爪と俺の間に起こったいざこざを噛み砕いて説明し、司会の二人が驚く。
「あの時はすまなかった、神木拓也。もう二度とあのようなことは起こさないように、竜司はしっかりと教育しておいた。許してくれ」
「あ、いえ…別にもう気にしてないです」
雅之さんが再度あの時の無礼を詫びてくる。
俺はもう記憶すら薄れかけているような出来事だったので、気にしないでくれと、首を振った。
「第一線で活躍する探索者に絡まれて跳ね除けたわけかー」
「それすごいエピソードやなぁ。ちょっとスカッとするというか……明日のスカッと日本にこの話出したらええんやないの?多分採用されるで」
「おい!!他の番組の話すな」
「あの番組の司会、事務所の後輩やし俺が言えば話通るで」
「おまえはいい加減にしろ!!」
「あだっ!?」
浜本に頭を叩かれる松田。
「「「「あはははははは」」」」
大御所が何か言うと笑わないといけないこの空気は、正直俺はあんまり好きではないのだが、しかし空気を乱すわけにはいかず、無理やり笑みを作る。
他の出演者たちも、二人のちょっと寒いやりとりに苦笑いを浮かべていた。
仕方がない。
これはテレビ。
ネットとはまた違う世界なのだ。
「なるほどなぁ…とにかく神木くんがすごい男や言うことや。二人の話でそれがようわかった」
「こんな高校生がいるんやから日本の探索者界隈もこれから盛り上がるんちゃう?俺たちもこの先飯食っていくために探索者についてもっと勉強しておいた方がええで?」
「おまえは本当、金の匂いを嗅ぎつけるのがうまいからなぁ。きっと数年後にはちゃっかり、探索者の番組とかのレギュラーになっとんのやろな」
「ハハハ。そう言うのもええなぁ」
二人はひとしきりそんなやりとりをして観覧の女性たちを沸かせた後、次に配信者の出演者たちにターゲットを移す。
「ほな、次は配信者の方々に話聞いていきましょか」
「まずはカロ藤さんいこう。えーっと、カロ藤さんは日本で一番人気の配信者って書いてあるけど本当なん?」
まず最初に二人が水を向けたのが、日本のインターネットの帝王、カロ藤糸屯一さんだ。
配信を見たことがあるものならば…いや、少しでもインターネットに触れたことがあるものなら誰もが知っているような超有名人。
メインコンテンツは雑談やゲーム実況だが、最近はダンジョン配信にも手を出していることを俺も知っていた。
カロ藤さんのようなトップの人気配信者には、カロ藤さんがどんな配信をしても見ると言った固定視聴者がおり、カロ藤さんはどんな配信をしようが必ず同接は数十万人規模なのだ。
配信者の究極系とも言える人物である。
「あははー。まぁ、どうなんでしょうね?日本で一番かはわからないですけど、結構たくさんの人に見ていただいてますね」
「雑談配信するだけで40万人って台本に書いてあるけどこれ本当なん?」
「おい、おまえは台本を丸々読むな。何年この仕事やってんねん。工夫せい工夫」
「くかか。いや、まぁ…そうですね。大体それぐらいの人は見てくれてますねいつも」
「えぇ、すっご!ただのおっさんが雑談するだけで40万人人がくんの?」
「おい失礼やろ」
「クカカカカ。そうですね、ただのおっさんの話を40万人が聞きにくるんですよね。クカカ」
「40万人が聞く雑談って……どんな感じの話題なん?」
「それは俺も気になるわ。どうやったらそんなにひと集められるの?参考にしたいわ」
「そうっすねー…話題は特に決めてないですね。時事ネタを話す時もあるし、コメントを拾ったりしながら、昔の話とかをしたりもしますね」
「台本に、女の悪口が大好きって書かれてるけど、本当なん?」
「クカカカカ。まあ、そうっすね……ちょっと若い頃は女に対して色々思うところがあって、そう言うのをインターネットで発散してましたね」
「具体的にはどんな感じの悪口なん?このブス!とか、そんな感じ?」
「クカカ。まぁ、大体そんな感じっすね」
「へえええ。そんなんで40万人も人が来るんかぁ。すごいなぁ」
「クカカ」
感心する二人。
カロ藤さんは、まるで自身のチャンネルのサムネイルのようにニコニコとした笑みを浮かべている。
「おい、嘘つくなよ糸屯一」
だがそんな司会二人とカロ藤さんのやりとりに水を差す人物がいた。
「ブスとかそんな程度じゃねーだろおまえの女の悪口は……ちょっと前に妊婦の腹をパンチして○産させるとか言ってたじゃねーか!!」
「ちょっとまっちゃん!!!勘弁してくれよ!!!」
カロ藤さんの隣に座っていたこたつちゃんさんの突然の暴露に、カロ藤さんが悲鳴のような声を上げるのだった。
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