(6)体重が増えない赤ちゃんの発育、どう評価する?
赤ちゃんの発育には個人差があります。
出生体重や栄養法、
赤ちゃんの状態や周囲の環境によって
みんな千差万別です。
一方、身体発育は
数字というはっきりしたもので表されるため、
標準値やほかの赤ちゃんとの比較、
増加程度をどうしても意識してしまいがちです。
ママは、わが子の体重増加にはとくに敏感です。
おっぱい、ミルクは足りているのか?
このやり方で問題ないのか?
自信が持てない人も多いです。
だからこそ、保健指導者は
赤ちゃんの正常な発育経過や
身体発育の適切な評価方法の知識を持つことにより、
一人一人の状況に応じた細やかな保健指導・栄養指導で
ママを勇気づけ安心させてあげられる能力が
問われます。
今、赤ちゃんがどのようであるのか、
筋道立てて、
根拠のある説明ができ、
その内容をしっかりとママに理解してもらうことで
安心が生まれます。
それを軸に、具体的な対処法をアドバイス。
常に「そうすべき理由」を明確に
答えられるように準備する姿勢。
すべての保健指導は、
ママを納得させてこそ、
育児不安の軽減に貢献できるのです。
体重の値だけを用いて
発育の評価を行うことはできません。
いえ、してはならないと思います。
WHOの『子どもの成長の評価ガイドライン』では
1つだけの計測項目(体重)によらず、
少なくとも身長・体重・頭位、
生後6ヶ月以降ならば二の腕の中央の周囲の計測が
紹介されています。
二の腕中央周囲径が115mm未満の場合は
深刻な栄養失調からくる体重増加不良と判断します。
それぞれの値の評価と相互関係の評価、
出生体重、出生週数、栄養法、活発でよく動くな子なのか
おっとりした子なのか、
よく泣くのかあまり泣かないのか、
・・・など赤ちゃんの状態(個性)、
赤ちゃんの発育は、
総合的にたくさんの情報から
評価されるべきなのです。
発育を評価する上で体重は重要な指標のひとつです。
でも、体重は『数値』として表されるゆえに
かえって必要以上に重視されやすいという側面があります。
比較的短期間で
パーセンタイル曲線の右上がりカーブと反対に
右下がりカーブになることが2回以上続くようなときは
小児科受診をするべきです。
なんらかの対処をしなければならない体重増加不良は
100人中3~4人の赤ちゃんに認められます。
問題とされる体重増加不良(fall-ure to thrive)は
低出生体重児、なんらかの基礎疾患、不適切な授乳、
ネグレクトなどが考えられます。
適切な栄養摂取によって
体重は急激に増加に転じることも多く、
授乳方法や離乳食の状況の確認は
当然、大切だと思います。
そして、ママの心のサポートは必須ですね。
一方で、
問題視されない体重増加不良もあります。
明らかな異常がないにもかかわらず、
ゆっくりと体重が増える赤ちゃん(slow weight gain)は
ばぶばぶでは決して珍しいことではありません。
健康なんだけど、ゆっくり大きくなる赤ちゃんと、
早急な医学的対処が必要な赤ちゃんを見分けるには
どこに着目すればいいのでしょう。
赤ちゃんの活気、肌のハリの低下、おしっこうんちの状態、
授乳状況と、ママのおっぱいの状態を診て
総合的に判断することが望ましいと思います。
具体的には、
定期的な体重測定を軸として、
以下の項目に着目し、総合的に評価します。
(日本小児科学会雑誌115 健診における栄養評価・母乳育児支援より)
=================================
==医療介入が必要な体重増加不良(病的)==
・反応が乏しい
・ずっと泣いている
・筋緊張不良
・肌のハリの低下
・おむつがあまり濡れない
・濃いおしっこ
・うんちの回数、量が極端に少ない
・8回以下の授乳回数
・授乳時間が短い
・射乳反射がうまく出現しない
・体重は安定して増加せず減ることもある
・月齢相当の発達から遅れている
==単にゆっくり大きくなる子(健康)==
・覚醒して活気がある
・筋緊張良好
・肌にハリがある
・少なくとも1日に6回以上のおしっこ
・薄くサラサラしたおしっこ
・うんちは苦痛なく出て機嫌がよい
・授乳時間は15~20分
・射乳反射が良好に出現
・体重増加は着実にあるがゆっくり
・月齢相当の発達が認められる
================================
赤ちゃんの体重増加には
家族性や遺伝性の因子の関与も指摘されているので
両親、兄姉が赤ちゃん時代にどのような
体重の増え方をしていたか、パパママの体型などを
確認することも大切な情報です。
でも・・・
家族性や遺伝性、
どんなにママがそれを主張しても
保健センターでは見向きもしてくれなかった・・・
という話が多いこと!
体重増加不良の評価にあたり、
これってめっちゃ大事な情報だと思うんやけどな〜。
右下がりにはならないけど、ほとんど増えずに
平行に推移する場合
とくに母乳で育っている子の場合、
健康でゆっくり体重が増えていても
集団検診では画一的に
「標準値に比べて○g軽い!」
「1日に○gしか増えていない!」
→ミルクを足してください!
などと指導されることも少なくありません。
生後4ヶ月頃までの発育が急で、
その後ゆるやかになっていく『平凡型』
マラソンで初めの発育は平凡型よりさらに急で
途中からパタリと止まり、横ばいになるタイプ『立ち上がり型』
このタイプは、母乳やミルクの飲みがよく、
離乳食が始まる頃に成長が落ち着きます。
初めは緩やか、
途中から追い込みをかける『追いつき型』
このパターンが「健康なのに体重が増えない赤ちゃん」に
相当するのかなと思います。
彼らは生まれてしばらくはあまり飲む量が少なく
ちょっと不安になりますが、
離乳食を食べ始めてしばらくすると
びっくりするほどたくさん食べるようになります。
それで体重が一気に伸びる子もいれば、
食べるのに相変わらず増えない子も。
もう、まさしく個性ですよね。
このような赤ちゃんの発育の特徴を
指導者が知らないと
その月齢の標準体重に当てはめて
たったそれだけでとんでもない保健指導を行い
ママを不安のどん底に陥れることに
なってしまいますね・・・。
それからもうひとつ。
保健センターでの集団健診では
どうも体重ばかり見られて
身長や頭位の評価が抜け落ちてしまっているように
思います。
もちろん、すべてをふまえて適切に評価できる
保健師さんもたくさんいらっしゃるとは思うのですが、
身長と頭位も、赤ちゃんの発育の評価では
とても重要です。
低栄養の影響は、
体重→身長→頭位
の順で現れます。
元気にしていて、身長、頭位も問題なくて
ただ体重だけ伸びが悪い場合は、
しばらく様子をみていいと思います。
体重だけではなく、身長の伸びが悪くなってきたら
対処を検討する必要があります。
頭囲の発育は中枢神経系の発育を反映します。
月齢相当の発達(首のすわり、寝返り、目の輝き、喃語の出現など)
があるかどうかにも着目する必要があります。
「その子なりの発育」とは
発育曲線では
あるひとりの赤ちゃんがどのように大きくなっていくかは
わかりません。
ただし、たくさんの赤ちゃんのデータの平均を
グラフに示しているので
発育曲線のカーブ(角度)そのものは
それなりに発育の目安として
信頼できるものだと考えます。
ですから、「○ヶ月」というある1点で
帯のどのあたりにいるかは
気にしなくていいのです。
数ヶ月単位で赤ちゃんの発育を記入していったときに
発育曲線のラインよりも大きくはずれて、
まったく横ばいのままとか体重が減ってくる曲線に
なったときには注意深く観察する必要が
あるかもしれません。
帯からははずれているけれど、
発育曲線のカーブにそって
身長も体重も頭位も増えているのなら
それが「その子なりの発育」なのです!
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