(2ページ目)小泉 悠 × 東野篤子 スペシャリスト2人が大議論「プーチン大統領が″チェゲト″を開くとき」 | FRIDAYデジタル

小泉 悠 × 東野篤子 スペシャリスト2人が大議論「プーチン大統領が″チェゲト″を開くとき」

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ロシアが絶対に守りたい拠点

小泉「プーチンが死亡すればこの戦争が終わる、という人もいます。しかし、本当にそうなるでしょうか」

東野「私もその点には疑問を感じます」

小泉「例えば病死の場合、ミシュスチン首相(57)が大統領を代行します。けれどおそらく、元連邦税務庁長官である彼の名前を誰も知らない。プーチン並みの権力を行使できるとは思えません。結局は、元KGBの人間が権力を握り、″プーチンシステム″が続くでしょう」

東野「暗殺された場合、状況は変わると見ていますか?」

小泉「その後を軍が継ぐのか、FSB(ロシア連邦保安庁)が継ぐかで違いがありますが、いずれにせよ強硬姿勢は継続するでしょう。ロシアが一番恐れているのは内乱です。17世紀にスムータ(大動乱)が起きた際に、都市部の人口が3分の1になり、ポーランドにも侵攻を許し、国内がめちゃくちゃになった。こういう経緯があるので、ロシア人は不安な時、抑圧的でもいいから強い指導部を求めるのだと思います」

東野「中国の介入はあるかという議論がありますが、このまま美味しいポジションを保ち続けると思います。放っておけば、ロシアの地位が落ちるだけですから」

小泉「中国が首を突っ込んでもメリットがない。今年2月に習近平国家主席(69)が出した『12項目の立場』は、ある意味で『現状維持』で静観する、という趣旨でした。習近平もプーチンと同じで、ゼレンスキーと会う気はないでしょう」

東野「一方、ウクライナの南西に位置するモルドバ共和国にロシアが侵攻するリスクが指摘されていますが、こちらもその可能性は低いと思います。ウクライナに対してフルスケールで戦っている今、モルドバに関わっている余力はない。もし侵攻した場合、この戦争の根拠だった″スラブ民族の一体化″が何だったのかと大義を失ってしまいます」

小泉「私もモルドバ侵攻はないと思います。ただし『沿ドニエストル共和国』と称する、親露派が占拠している地域がモルドバにはある。これを使ってウクライナに脅しをかける程度のことはできるでしょう。ただ、ここにもロシア軍が2個大隊いるだけなので侵攻は無理です。ちなみに東野さんは、ロシアによる核の使用についてはどうお考えでしょうか?」

東野「核の使用に至るまでの道のりは長いと思います。ウクライナ東部の戦況を変えるための核使用は、明確なプランが立てられないはず。もし使うことがあるとすれば、クリミアが奪還されたときでしょう。というのも、クリミアはロシアにとって″本土″という認識だからです」

小泉「確かに、クリミアの動向でプーチンが核のボタンを押す可能性はありますね。クリミアが奪われたらプーチンは国民に顔向けできなくなる可能性がある」

東野「ウクライナ人に聞くと『核が使用されるリスクは高くない』と考えているけど、やはりクリミア奪還を匂わせたらわからないよね、という認識でした」

小泉「プーチンはすぐ核使用できるように、『チェゲト』というカバン型の指令システムをいつも持ち歩いている。『戦略核』(首都や主要拠点を破壊するための長距離核戦力)を1〜2発発射して、アメリカを牽制する先制核使用戦略は’90年代半ばからあった。また、ベラルーシに配備予定の『戦術核』を使用する可能性も否定できません。ただし戦術核をベラルーシに置いておく必要はないので、脅しという側面が強いと思います」

東野「この戦争でロシアが目指しているのは、ウクライナ全土の弱体化、そして属国化。最悪のシナリオは、世界が『ウクライナは救えない』と諦めることです」

小泉「そうですね。ウクライナ問題がみんなからうんざりされるような存在になってしまい、それでも暴力が続く……。最終的にあそこはロシアにゆだねるしかない、と国際社会が切り捨ててしまう。そうならないよう、声を上げ続けなければならないと思います」

士官が持ち歩くチェゲト。黒いブリーフケースの中に核ミサイル発射の指令を送るシステムが組み込まれている
’22年10月の爆発で一時不通になったクリミア大橋。両国とも関与を否定しているが、クリミア半島に軍事物資を送る露の重要な補給路のひとつだ
英国がウクライナに供与する戦車「チャレンジャー2」は、弾薬に劣化ウラン弾が含まれるとして議論の対象となった

こいずみ・ゆう/’82年千葉県生まれ。’19年、『「帝国」ロシアの地政学』でサントリー学芸賞を受賞。’22年より現職
ひがしの・あつこ/’71年生まれ。EUやロシアの外交政策が専門で、ウクライナ研究会副会長などを歴任。’22年より現職

『FRIDAY』2023年4月14日号より

  • PHOTO:アフロ構成:菊池雅之

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