立花孝志との約束
密着取材を続けてきた私から見ても出馬は想定外だった。
NHK党党首の立花孝志が東谷の人気ぶりに目をつけ、4月ごろからツイッターのダイレクトメールで出馬を説得しているのは東谷から聞かされていた。東谷自身の当初の口ぶりは笑い話のネタにする程度で、実際、立花には何度か、断りの返事をしていたという。まさか本気で出馬することになるとは本人も予想していなかっただろう。
何が東谷をその気にさせたのか。
5月30日にドバイからオンラインによる出馬会見に臨んだ東谷は、出馬した理由をわかりやすく三つに分けて説明している。
最初に言及したのは「カネ」だ。
「立花さんから話があって、僕が乗っかったのは、一つはおカネです。当選したらこれだけおカネが手に入りますよと。僕からしたら喉から手が出るほど欲しいおカネですよ。それで弁済がすべて終わるとしたら」(2022年5月30日のオンライン出馬会見)
NHK党が当て込むのは政党助成金だ。支給要件は①国会議員5人以上②国会議員1人以上、かつ直近の衆院選または過去2回の衆院選で2パーセント以上の得票――のいずれかを満たすと交付される。東谷が当選し、政党としての得票率も2パーセント以上となれば、同党としては6年で12億円以上の政党助成金を受け取れる。NHK党は今回の参院選で全選挙区に候補者を立てる作戦に出たが、それも「より多く立候補する政党が、もうかるシステムになっている」と主張する立花の戦略に基づいている。実際、立花は当選したら3億円を支払うと東谷に約束していた。こうした好条件を出せるのも、政党助成金の収入を前提にしているからだ。
そして、二つ目は不逮捕特権。
「国会が開かれている間であれば、逮捕されない。母親に対して謝罪をしたい、(BTS詐欺疑惑などで)迷惑をかけた被害者の方々に直接会って謝罪したいという気持ちがあったので、不逮捕特権があるのであれば、堂々と胸を張って日本に帰りたい」(同前)
議員は国会会期中であれば、所属する議院の許諾がない限り、逮捕されないという不逮捕特権。BTS詐欺疑惑については43人の被害者とすでに示談を済ませていたが、詐欺罪は被害者の告訴が必ずしも必要のない非親告罪のため、警察が立件しようと思えば可能な状況にあった。単純に言えば「泥棒が盗んだものを返したとしても泥棒として捕まる」という理屈だ。