ガーシーはそもそもなぜNHK党から出馬したのか…「3億円」「不逮捕特権」…そして、決め手となった「最後の理由」
先月15日、除名処分を受け、議員資格を失ったガーシー。国会議員の除名は72年ぶりのことで、国会欠席を理由とする除名は憲政史上初めての事例となった。当選から約8ヶ月で政治の世界から退場することになったガーシーだが、彼はそもそもなぜ出馬したのか。元朝日新聞ドバイ支局長・伊藤喜之氏の話題沸騰の新刊『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』から抜粋してお届けする。
連載『悪党』第3回前編
前代未聞の海外からの国政選挙への出馬
ドバイの富裕層がこぞってヨットを停泊するマリーナ地区は焦熱の日ざしに照らされていた。気温41度。運河沿いに立つ東谷はあまりの暑さに顔をゆがめている。白色の野球帽をかぶり、白Tシャツにハーフパンツ。いつもの東谷らしいラフなファッションだが、手に持つ黄色いものだけが場違いのように浮いて見えた。
「恥ずかしいから、肩にはこれ(タスキ)はかけたくないわ。手に持つだけでええでしょ」
黄色地に青色のNHK党カラーのタスキを手に持ち、取材撮影に応じている。この日は2022年6月22日、日本では参議院選挙の公示日。東谷は「ガーシー」としてNHK党から比例代表選挙で出馬したのだった。BTS詐欺疑惑の件で被害者全員に弁済を完了したことも後押しし、そのタイミングで、ドバイにいることも初めて公言していた。
NHK党は候補者に事務的な選挙支援は特にしないということで、選挙用のタスキなどは候補者の陣営が自ら準備する必要があった。このときも東谷のスタッフが日本の業者に発注し、公示日直前に航空便で何とかドバイまで届いていた。タスキの片面には「ガーシー」、もう片面には「東谷義和」。これは「ガーシー」という通称での出馬が選挙管理委員会に認められるのか、公示日までわからなかったからだが、蓋を開けてみれば、問題なく「ガーシー」で認められた。
前代未聞の海外からの国政選挙への出馬。東谷は取材を受けた現代ビジネスの配信記事で、こんな感想を語っている。
「少なくとも日本にいなくても、立候補して選挙活動できることが実証できる。もし当選できたら、あまり世界的にも例がないと思う。普通、海外にいながら議員になろうなんて人はいないでしょう」