pixivは2022年7月28日付けでプライバシーポリシーを改定しました詳しいお知らせを見る
・1.伊地知虹夏
「虹夏ちゃーん、お風呂お先にいただきました」
「りょうかーい。着替えはそこにあるから適当に使ってー」
洗濯カゴに置いといたジャージがない。変わりにと着てみたTシャツはわたしにぴったりだ。
「ごめんねぼっちちゃーん、ジャージ洗濯かけちゃった。他にぼっちちゃんのサイズに合う服もないし……。今日はさ、泊まってかない?」
あっこれ故意だ。部屋着だけ用意して、わたしを泊める気まんまんだったやつ。
「こんなこともあろうかと。ご飯はばっちり準備してたからね。きょうはね、さば味噌とかぼちゃのお味噌汁。あぁあとぼっちちゃんの大好きな唐揚げも用意してるから。昨日の夜から下味漬け込んでおいたんだよー。美味しいよー」
料理の方も手が込んでる。どこまでも用意周到。わたしが断ってたら夜枕を涙で濡らしてたかもしれないくらいに。
「どう? どう? おいしい? おいしい?」
「あっ、美味しいです……とっても」
「よかったあ! たくさんあるから、いっぱい食べてね」
お母さんが作ってくれる唐揚げよりも。なんて言うより早く満面の笑み。観ているこっちも嬉しくなる。なるのだけど、とても気まずい。あぁ、『こういう』感情を虹夏ちゃんだけに向けられていたならば。
(ごめんなさい虹夏ちゃん。その気持はのとっても嬉しい。嬉しいんだけど)
リョウさんとも、喜多さんとも『そういう』関係なんです、なんて言ったらどうなるだろう。虹夏ちゃんの可愛いお顔が涙に濡れちゃう。いや、濡れるだけならまだマシだ。この関係が他の二人に知れたなら、結束バンドは間違いなくねじ切れる!
(言え、言うんだ……後藤ひとり……)
虹夏ちゃん、その気持ちはとっても嬉しいです。嬉しいけど、その気持ちを向けてくれているのは虹夏ちゃんだけじゃないんです、って。あぁ、駄目だ。想像しただけで虹夏ちゃんの涙目が見えてくる。ごめんなさい虹夏ちゃん。悲しませたくて言ってるんじゃないんです。
あぁあ、やっぱ無理。こんなこと口に出して言えるはずない! けどこのままなあなあにしておくのも……。
「う"」
あれ。おかしいな。目の前が霞む。くらくらする。アタマの中じゃ日常茶飯事だけど、現実世界じゃこんなことないはずなのに。
「あっ。ようやく効いてきた・・・・・みたいだね、ぼっちちゃん」
「フェッ?!」
ま、まさか。盛ったんですか虹夏ちゃん。なんかそういうクスリを! リョウさん経由でそういう草を!
「ぼっちちゃんさ、最近目で追ってるよね。リョウとか喜多ちゃんとかお姉ちゃんとか。勝手だとは思うんだけどさ、そういうの見てると胸がずきずきしてたんだ。きゅうって苦しかったんだ」
「あ……ア……」反論するにしろ何にしろ、言葉が出ない。手足が痺れて……。身動きが……。
「だからさ、考えたんだ。どうしたらぼっちちゃんがあたしの方を向いてくれるのかって」
動けないわたしを床に寝かせて、虹夏ちゃんが私の上に馬乗りになって。
「そぉだよ。最初から、こうすれば良かったんだ」
え、あ、え。それって、つまり、つまり……?
「ぼっちちゃん。今夜ね、お姉ちゃん、帰ってこないんだよ」
いや、だから、それって、ぇええええええええええええええええッ!?!?!!?
「ぼっちちゃん。いーっぱい、気持ちよいことしようね」
5ページへ