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「じゃーん」
「なにこれ、アンケート?」
リョウから渡された紙の束を見て、あたしが聞いた。
「そう、結束バンドに足りない物は何かアンケート」
「そんな物いつの間に……」
「こないだPVをあげたときについでに載せといた」
アンケート内容は、そのものズバリ『あなたが結束バンドに足りないと思うものは何ですか?』だった。
回答も結構返ってきてて、内容も演奏に関することからあたしたちの服装などにまで多岐にわたっていた。
しかし文字小さいなこれ。
「プリント代をケチった」
「あ、そう……。で、どうしたのこれ?」
「2枚目見て」
そう言われて2枚目をめくると、要約された回答ごとに何件来ていたかまとめられていた。
そこで一番多かったのが。
「ん? 一位が『ガールズバンド感が足りない』!? いやいやそんな馬鹿な!」
「私も目を疑った」
女の子ばっか4人で組んでいるバンドなのに、ガールズバンド感が足りないってのは何なんだろうか。
曲調か? 歌詞のせいか? ぼっちちゃんの心の闇を解放しすぎて曲が重いって言ってんのか?
「まあそこで3枚目、もう1回別のアンケート取ってみた」
「結構手間かけてるね。え~っと3枚目は、んん??」
3枚目には新たなアンケート内容と選択肢が書かれていた。
「ちょっとリョウ、これ、『あなたが一番好きなカップリングは誰と誰ですか?』って何!」
「虹夏、私たちはガールズバンドである事をファンから否定されたんだよ」
リョウはどこか遠くを見ながら急に語り始めた。
「そこで私は考えた。私たちに足りないガールズバンド味とは何か。曲か、歌か、衣装か、いや違う!」
バン!
とテーブルを勢いよく叩く音が響いた。
あたしは一瞬ビクッとなった。
「それは、『百合』だよ!」
「はい?」
「私たちには百合味が足りなかったんだ」
「ちょっと待ってよリョウ。リョウはそういうバンド内いざこざランキングトップに来そうなめんどくさいやつ嫌いだったじゃん」
「私が嫌いなのは人間関係のめんどくささと、流行を追いかけて自分がないバンドだよ」
「いや一緒だよ!」
「違う、虹夏、これは……『百合営業』だ!」
そういうとリョウはあたしに回答結果の載っている紙を突きつけてきた。
「と言うわけで虹夏には百合営業担当としてしばらく活動してもらう」
そこには、先ほどのカップリングの回答件数一位として、あたしとぼっちちゃんの組み合わせが書かれていた。
「ちょっと待ってくださいリョウ先輩! なんで私じゃ駄目なんですか!」
話が一通り終わった頃、遅れてきた喜多ちゃんは同じくリョウのから話を聞いて、憤慨しだした。
「郁代、回答欄まとめを見て欲しい」
さきほどの紙のさらに後ろには、各選択肢に投票した人の意見がまとめられていた。
その中のぼっちちゃん×喜多ちゃんの組み合わせについて。
『喜多ちゃんはぼっちちゃんを見るときの目がマジ』
『ひとりちゃんは総受けっぽいけど喜多ちゃんはどう見てもガチ勢』
『喜多ちゃんのは百合なんて生やさしいもんじゃ無いと思う』
『喜多ちゃんは絶対ヤバい』
「うわあ……喜多ちゃん」
「ち、違いますよ! これ投票した人たちの主観じゃないですか!」
「いや、郁代にやらせると百合営業じゃなくて犯罪になる気がする。さすがに私も犯罪者を出したくない」
「リョ、リョウ先輩まで!」
「まあとりあえずぼ喜多は危険なので止めるとして」
「なんか変な略し方し出したな」
結局アンケートで一番得票のあった、あたし×ぼっちちゃん、リョウ曰く『ぼ虹』で行こう、ということになった。
喜多ちゃんはかなりご立腹だったが、『伊地知先輩が相手ならひとりちゃんに襲いかかったりはしないですよね?』という謎の圧をかけてきたので、思わず首肯したら納得してくれた。
「んで具体的にはどうすればいいわけ?」
「そもそもこの話、ひとりちゃんにはどうやって説明するんですか?」
「百合営業の話は、ぼっちには……しない!」
『ええっ!?』
リョウの宣言に思わず声を上げるあたしと喜多ちゃん。
「そ、それじゃひとりちゃんは、急に伊地知先輩からスキンシップ過多になることで、『ああ、もしかして虹夏ちゃんは私のこと好きなのかな?』とか勘違いしちゃうんじゃないですか!?」
「それが狙い。ぼっちに百合営業は無理。だったら営業じゃなくてギリギリのラインで行こう」
「え~、それはちょっとひとりちゃん可哀想な気が……。それにもし本気になっちゃったらどうするんですか!?」
「いや喜多ちゃん、そもそもあたしがぼっちちゃんを構いだしたからって、別にぼっちちゃんがあたしのこと、その、恋愛的な? 好きになったりするかってのは別では?」
どうも喜多ちゃんはすぐそっちの方に思考が行く。
陽キャはこういう話好きそうだからなあ。
と思っていると、喜多ちゃんはあたしの方にテーブルを乗り出してきた。
「何言ってるんですか伊地知先輩! ひとりちゃんは今までずっとお友達もいない中、一人で過ごしてきたんですよ! そこに手を差し伸べてくれた伊地知先輩……。ひとりちゃんにとってはすでに絶対特別な存在なんです!」
「そ、そうかなあ?」
「そうに決まってます! だって伊地知先輩だけじゃないですか、『虹夏ちゃん』って名前で呼ばれてるの!」
「いやリョウも『リョウ先輩』って呼ばれてるよ?」
「最初『リョウさん』だったんだけどね。郁代に引っ張られたかな」
「あたしなんか名字呼びなのにいいい!」
『それは自分で言ったんでしょ』
あたしとリョウの言葉がハモった。
「と、とにかく考えたら危険な気がしてきました。私のひとりちゃんが伊地知先輩に寝取られる可能性が……」
「ないよ!」
「まあでも確かに、引くに引けなくなるとちょっとまずいか。今日はぼっち来ないし、ひとまず明日の練習で様子見てみない?」
状況によってはそのまま続行で、と言うことになって、この日はひとまず解散となった。
そして翌日。
いつものスタジオで4人で音を合わせていた。
あたしはというと。
(ん~、そうは言っても百合営業って何すればいいんだ?)
そんなことを考えながらずっとぼっちちゃんの背中を見ていた。
すると、振り向いたぼっちちゃんと不意に目があった。
あたしは思わず目線を外してしまった。
(いや、よく考えたら外す必要は無いな……)
そう思ってもう1回顔を上げると、ぼっちちゃんはまたこっちに背を向けていた。
そんなことを何回か繰り返しているうちに、ぼっちちゃんもあたしがチラチラ見ていることに気づいたらしい。
通しが終わった後、ドラムの方にトコトコ向かってきた。
「あ、に、虹夏ちゃん……」
「ん、ん~? どしたの、ぼっちちゃん?」
「あ、あの。勘違いだったらは、恥ずかしいんですけど。きょ、今日私のこと、チラチラ見てます?」
「あ、え? う、うん」
そう聞いてくるに決まってるのになんとなく応答を考えていなかったため、普通に認めてしまった。
まずいな。ここからどう返したもんか……。
ちらっとリョウを見ると、こくっと小さく首を縦に振っていた。いやどういう意味だよ。
喜多ちゃんの方はなぜか真顔であたしの方を見ている。いや怖いよ。
「あ、わ、私に何か至らないところが……。も、もしかして私よりまともなギタリストが見つかったんで、く、首にするのでタイミングを計ってたとかですか?」
「いやいやいや! ぼっちちゃん以上のギタリストなんかそうそういないでしょ! 他の子なんか連れてきてないし、首どころか逆に辞めないでよって言うとこだよ!」
「あ、え、えへへっ」
ちょっと持ち上げるとすぐ調子に乗っちゃう感じのいつものぼっちちゃん。
だけど百合営業をするにはおそらくこれでは足りない気がする。
あたしはドラムスローンから立ち上がると、ぼっちちゃんの方に近寄った。
そしてぼっちちゃんの前まで来ると、その頭をなでた。
「ごめんね、ぼっちちゃん。不安にさせちゃって。大丈夫だからねえ~」
言っといてなんだが何が大丈夫なのか全然わからない。
しかしぼっちちゃんは、一瞬ビクッとしたものの、そのまま撫でられ続けた。
その表情はなんだかとても嬉しそうで、少しピンク色に紅潮していた。
「あ、に、虹夏ちゃんの手。気持ちいいです……」
なんかこのぼっちちゃんはめちゃくちゃ可愛いな。
そんな姿見てたらなんだかあたしもムラっとしてしまった。
そしてその勢いでぼっちちゃんを抱きしめて、さらに頭をなでてヨシヨシし続けた。
「に、にひはひゃん……」
もうろれつが回っていない感じになるぼっちちゃん。
もうこれいけないことしてるような感じしかしないな。
ここがスタジオじゃなかったらどうなってたかわかんないかも。
そんなことを考えていると、不意に視界の片隅で鬼の形相の喜多ちゃんが見えた。
やばい、やられる!
「あ、ご、ごめんね、ぼっちちゃん! 急に」
「あ、え? や、辞めちゃうんですか?」
ぼっちちゃんは名残惜しそうな声を出して私を見つめてきた。
そんな目で見られたらもう1回したくなっちゃう!
でも、喜多ちゃんがマジで怖い……ちょっと近づいてきてるし。
「ぼ、ぼっちちゃん! 練習、練習しないと! ね?」
「あ、は、はい……」
あたしはドラムに戻ると急いで準備をした。
喜多ちゃんはなんかぼっちちゃんとニコニコ話してるけど、オーラが本気で怖い。
リョウの方はというと、こっちに入ってくるでもなく草を食んでいた。なんでだよ! 助けに入れよ山田!
「よ、よし。じゃあ頭からもう1回通してみようか!」
気は取り直せてないけど、なんとかそう言うと、あたしはスティックを頭上で鳴らしてカウントを出した。
「んじゃ今日は終わり~! お疲れ様!」
なんとか練習が終わった……。
今日は始まりが遅かったので、帰る時間も考えて練習後のミーティングはなしにした。
ちなみに練習の方は――。
「いや今日メチャクチャよかったね、ぼっち」
「あ、ほ、ほんとですか?」
「うん。普段より全然良かった。この調子でライブもやってくれれば完璧!」
「あ、が、頑張ります!」
そう、今日はぼっちちゃんの調子がメチャクチャ良かったのだ。
動画のギターヒーロー並とは言わないけど、それに近づいてると思う。
走ってるわけでもなく、かといってガチガチになってるわけでもなく、ちゃんとリズム隊に乗って、かつ演奏自体はいつも以上に上手いし、喜多ちゃんのフォローもできていた。
確かにこのままやれたらぼっちちゃんのギターは最高かもしれない。
「虹夏、今日のぼっちの調子がよかったの、多分虹夏のせいだよ」
「え、あたし?」
「うん。ほら見てみな」
リョウが近づいてきてそっとあたしにそう告げたので、あたしは言われるがままぼっちちゃんの方を見た。
ぼっちちゃんは喜多ちゃんと話している、というか喜多ちゃんが一方的に話しかけてる感じだけど、チラチラとこっちのことを見ているようだった。
あれ、もしかして。
「ぼっち、さっきの一発で虹夏のこと気になっちゃうようになったかあ。ほんとに人慣れしてないね、あれだけ郁代に絡まれてるのに」
「え、ど、どうすんの?」
「いやどうするって言われても……。バンド的にはぼっちにはあれくらいの演奏をコンスタントにしてもらえるとすごい良い」
「そりゃそうだけどさ……。でも本来の趣旨は百合営業でガールズバンドとして人気出すじゃなかったっけ?」
「う~ん、なんかもう演奏が良かったらそれで良くない?」
「おい山田!」
うそうそ、というリョウの目自体がすでに嘘をついている目だった。
こいつ、マジだ……。もう百合営業どうでも良くなったな?
「まあ虹夏はなるべくぼっちを甘やかしてみてよ。ちょうど週末ライブあるしさ。とりあえずそこまで」
「え、で、でも……」
あの喜多ちゃんを週末までやり過ごせるのかどうか心配なんですが……。
あたしの心配をくみ取ったのか、リョウはちょっと考えてから言った。
「まあ、郁代の方は私に任せといてよ。なるべく虹夏が刺されないようにするわ」
「なるべくじゃなくて確実に刺されないようにしてよ!」
「努力する」
さ、いくよ郁代! といいリョウは部屋から出て行った。
喜多ちゃんはまた名前呼びの文句を言っていたような感じだけど、リョウに呼ばれたので慌てて後をついて行く。
あたしは最後忘れ物とか無いかを確認してから部屋を出た。
「あ、に、虹夏ちゃん……」
「うおっ! ぼ、ぼっちちゃん? リョウ達と先に行ったとばっかり」
スタジオの廊下に出ると、ぼっちちゃんがあたしのことを待っていた。
な、なんだろ。やっぱりさっきの態度が怪しいっていう話かな?
ドキドキしながらぼっちちゃんの言葉を待っていると、あたしが思っていたのとはちょっと違う内容を話し出した。
「あ、あの。よ、よかったら、また、撫でて欲しいなあって思って」
「えっ?」
「あ、い、いえ。あの、虹夏ちゃんに撫でられたら、なんだかぽかぽかしてきて。すごくやる気が出たので。もっと撫でてもらったらもっと頑張れるかなと思って」
「な、なるほど……」
どうやらぼっちちゃん的には、百合っぽい感じというか、恋愛的な話じゃないっぽく、単純にあたしに撫でられたりするのが嬉しい感じなのかな?
う~んまあ、どうせ当初の予定からは大分狂ってきたし、撫でるのは良いんだけど。
ぼっちちゃんをヨシヨシするとなんかいけない気分がこみ上げてきちゃったんだよな。
でもぼっちちゃんモジモジしながら顔赤らめてお願いしてきてるし。
その仕草あたし以外の前ではしないでね!
「もうしょうがないなあぼっちちゃんは。今日はこれでおしまいだよ?」
「あ、へへっ」
そうしてあたしはぼっちちゃんの頭をひとしきり撫でた。
そしてあたしは、結局の所ライブまでの間毎日ぼっちちゃんをなで続けた。
正確には、喜多ちゃんが見てないところで、ぼっちちゃんが何かしら頑張ったら褒める代わりに撫でる、みたいなことを続けていた。
ぼっちちゃんは自分で言うとおり、あたしに撫でられると調子が良くなるらしく、調子が良いということはバイトも練習もなんとか頑張ってくれるということで。
なんかいい循環になりつつあった。
あたしの方はと言うと。
「いや~、撫でて欲しそうに近づいてくるぼっちちゃんすごい可愛くてさあ」
「虹夏、その話3日連続だよ」
「あ、そだっけ? もうあんな目で見られちゃったら撫で繰り回しちゃうのもしょうがないよね~。ほんと庇護欲をそそられるって言うか」
「うん。まあそれは二人が良いなら良いんだけどさ」
実際今日のライブもぼっちちゃんは絶好調だった。
しかし。
「まあ郁代があの調子だとなあ」
「そうだよねえ……。いくらぼっちちゃんが調子よくてもボーカルがあれだとねえ」
喜多ちゃんは日々のあたしとぼっちちゃんの絡みを見てモヤモヤをため込んでしまったらしく。
ライブの日までなんとかリョウが発散させようとあれこれやったみたいだけど、結局そのままライブに突入。
普段はかっこいい歌い方と可愛い歌い方を使い分けるギターボーカルなのに、今日は全ての歌で心の叫びを発するかのごとくの絶唱。
ギターの方はバッキングがメインのはずなのになぜかリードを食うかのごとくの演奏をしていた。
結果的にはぼっちちゃんがそれに釣られて見事なアドリブを被せてきたので事なきを得たが。
「会場の反応も結構良かったは良かったみたいなんだけど、さすがに郁代が不憫だわ」
そう言ってリョウが見せてきたSNSの反応は。
『結束バンドのボーカル今日すごかった、色んな意味で』
『喜多ちゃん、ぼっちちゃんと何かあったのかな?』
『新境地なのかマジギレなのかわからないけどとにかくすごかった』
『なんか、喜多のやつ、後藤とバンドやるようになって変わっちまったな……』
「う、うわあ……」
一方ぼっちちゃんの方は、演奏がすごい、と言う声が多かったが――。
『今日のリードギターはドラムのことチラチラ見てたな』
『ソロがいつもと違ってアドリブかましてたのがかっこよかったけど、そのあとすぐドラムを見てたのがなんか可愛かった』
『いつもは猫背で顔が見えないんだけど、ぼっちちゃんがドラムを見るので顔を上げるからよく見てみたらすげえ可愛かったし、演奏中は超かっこいい表情してた』
『ひとりちゃん、もしかしてジカちゃんと出来てるの……?』
「お、おおう。でもまあ、この反応がリョウが欲しかったもんじゃないの?」
「まあそうなんだけど」
リョウが言いよどむ理由はわかる。
このまま喜多ちゃんの脳(と多分喉)を破壊してまでぼっちちゃんの神演奏を取るのか、喜多ちゃんの精神安定を取ってぼっちちゃんには今までのような演奏からちょっとずつ頑張ってもらうのか。
答えは――。
「後者だよねえ」
「まあ前者でも良いかな」
「おい、山田!」
「うそうそ。冗談だよ」
とにかく百合営業はもうやめよう。これ以上喜多ちゃんの負担を増やせないし。
ぼっちちゃんには申し訳ないけど、百合営業してたって言ってたわけじゃないし。このまますーっと何事もなかったように振る舞えばなんとかなる、か?
「ひとまず百合営業は中止! ごめんね喜多ちゃん!」
ということで、あたしとぼっちちゃんの百合営業(だとあたしだけ思ってた)のは終わった。
それから数日経って。
喜多ちゃんは以前よりもぼっちちゃんにべったりな気もするけど、とりあえず元の感じに戻ってくれた。
ぼっちちゃんの方はと言うと、こちらは喜多ちゃんが四六時中くっついていることによる陽キャオーラを食らいすぎてしまったのか、合わせの演奏は元に戻ってしまった。それでもまあ前よりは全然良くなってるけど。
そういえば最後にぼっちちゃんを撫でたのは、ライブ終了後のバックステージでこっそりとだったな。
あのときの表情は最高に嬉しそうだったけど、そういえばあれ以来撫でて欲しいってこないな。
いや正確に言えば、撫でて欲しそうな視線は感じるんだけど、とにかく喜多ちゃんがずっとくっついてるので言い出せない感じだった。
あたしの方からも撫でようか? とか、ヨシヨシ! とか褒めてあげていなかった。
途中でちょっとやりたくなったんだけど、なんせ今やったら本気で怖いからな……。
そんなことを考えながら日々過ぎていき、今日の全体練習も終わったところ。
「みんなお疲れ様! 軽くミーティングして帰ろうか」
STARRYの一角でテーブルに着いて、あたしはそう切り出した。
リョウからは今日の演奏に関してそれぞれどうだったこうだったみたいな話が出て、喜多ちゃんからは相変わらず『ひとりちゃんはすごい!』って話が出ながらも、自分のパートで弾きづらいところとかの質問が出ていた。
あたしもリズムが取りづらい箇所があるとか、ここがちょっとずれるみたいな話をしてたんだけど。
さっきからぼっちちゃんが一言も発さない。
いやまあぼっちちゃんはいつでも自分から切り出さないけど。
さっきから椅子に座ったまま下を向いてずっと押し黙っている。
さすがに心配になってあたしはぼっちちゃんに話を向けた。
「えっと、ぼっちちゃんは何かある?」
それは、今話してた演奏に関しての意見を聞いたつもりだった。
しかしぼっちちゃんは予想外のことを突然叫びだした。
「に、虹夏ちゃんは、私とのことは遊びだったんですか!」
「はっ?」
「え?」
「ひ、ひとりちゃん?」
ぼっちちゃん以外の顔にハテナが浮かぶ。
そのぼっちちゃんは顔を上げると、キっとこちらを見てきた。
「に、虹夏ちゃんに撫でて欲しくてずっと頑張ってたのに、ライブが終わったら撫でてくれなくなっちゃって……」
「あ、そ、それはねぼっちちゃん?」
「態度はあんまり変わらないけど、全然私の方に近寄ってこなくなっちゃったし。わ、私のこと嫌いになっちゃったのかなって思って。そ、そしたらさっき練習前に聞いちゃったんです。虹夏ちゃんとリョウ先輩の話を!」
どうやらぼっちちゃんは、あたしとリョウが百合営業を辞めた、という話をしてたところを偶然聞いてしまっていたようだ。
しかもライブ終了後の、喜多ちゃんのためにも今日で辞めよう、と言う話をしてたところではなく、よりによってさっき集まる前に話してた、『喜多ちゃん調子が良くなってきて良かったねえ。やっぱ営業でぼっちちゃんを構うのは良くないよ』という話の、後ろのところだけ。
う、うかつだった。まだあたしとリョウしかいないと思ってた……。まさかぼっちちゃんに聞かれてしまうとは。
「に、虹夏ちゃん、私との事は仕事で付き合ってただけだったんですね……」
「そ、そんなことないよぼっちちゃん!」
「うう、わ、私は虹夏ちゃんから捨てられるんだ……。そうですよね、私みたいな陰キャなんて……」
肩をふるわせて泣き出すぼっちちゃんを見て、あたしは席を立つとぼっちちゃんの方まで駆けていき、そのままの勢いで抱きついた。
そして頭を思いっきりなで回した。
「ごめんねぼっちちゃん。そんな思い詰めさせちゃうなんて思わなくて。でも違うんだよ……」
「な、何が違うんですか?」
「えっとね……」
「それは私が説明しよう」
そこからはリョウが代わりに経緯を説明した。
あたしとリョウ、あと一応事情を知っていた喜多ちゃんは3人でぼっちちゃんに謝った。
そして喜多ちゃんもぼっちちゃんに抱きついてきて、リョウも仲間はずれになりたくなかったのかやっぱり抱きついて、3人でぼっちちゃんをとにかくなで回した。
ひとしきり撫でた後、みんながぼっちちゃんから離れると、ぼっちちゃんは見たことがないような表情で昇天しかけていた。
結局ぼっちちゃんは、百合営業とぼっちちゃんを好きか嫌いかは関係ない、と言う話で納得してくれた。
ギターヒーローのファンのあたしがぼっちちゃんのこと嫌いなわけないじゃん、と言ったら、とても嬉しそうに笑っていた。
あと全員から撫で繰り回されたのも結構嬉しかったみたいで。
結局しばらくの間はぼっちちゃんが何かやるたびにみんなでかわりばんこに撫でることにした。
でも、ぼっちちゃん曰く。
「あ、み、皆から撫でられるのすごい嬉しいんですけど。やっぱり虹夏ちゃんになでなでされるのが一番、う、嬉しい、かも」
だそうで。
今ならもうみんなでなで回してるから、あたしもいつでも撫でてあげるよ!
ちなみにリョウは、こないだのミーティングを何故かこっそり撮影してたらしく、それを動画配信で上げたところ、
『ガールズバンドで見たかったのはこういうのだよ……』
『ぼ虹からの総受け、良い物見せてもらいました』
『ひ、ひとりちゃん? わ、私もいつだって頑張れって励ませるよ?』
という欲しかったコメントをもらってご満悦だった。
その後あたしと喜多ちゃんにすぐ見つかって動画削除の上お仕置きされたのは言うまでも無い。