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『あっち行ってよ!』
あの日、ひと時の感情に任せて彼女を突き放した。脳裏にチラつくのは彼女のつくり笑顔。冷静になって後を追い始めた頃にはもう遅かった。駅のホームからふらりと落ちたそうだ。
ぼっちちゃんの葬式は家族と親しい友人を呼んで執り行われた。そう、私は葬式には呼ばれなかった。当たり前だ。私は思わず乾いた笑いが溢れる。いくら泣いたろうか?真っ赤に充血した目からはもう一滴も涙は流れなかった。
虹夏「ぼっちちゃんは死んでない…誰も…」
虚ろに天井を彷徨っていた視線を手に移す。あの日彼女が落としていった髪飾り、手の中から私を恨めしそうに見つめるそれを私は強く握った。
朝早く起きると、久々に朝食を作る事にした。昨日まで鉛のように重かった体は不自然に軽く、自分でも驚くほどだった。
虹夏「おねぇーちゃーん!ご飯だよー!」
ご飯の支度を済ませ、まだ部屋にいる姉を呼ぶ。しかし返事はこない。あるわけがない。
虹夏「もう!仕方ないなぁ…先に食べちゃお!」
朝食に作ったのはトーストにサラダ、目玉焼き。二人分の食事を並べると手を合わせ「いただきます」とトーストを口に運ぶ。突然、虚しく思う。目の前には完食された二人分の朝食。おねぇちゃんは…
虹夏「う゛…あぁ」
頭が痛い。上手く息が吸えない…。私はどうしてしまったのか。目眩は次第に吐き気を催し、その場で蹲る。暫くの間そうしていると私を呼ぶ声が聞こえた。
星歌「虹夏…大丈夫か?虹夏」
虹夏「あ、おねぇちゃん…いつの間に来てたんだ」
どれだけの間こうしていたのか、いつの間にか姉は朝ご飯も完食していた。
虹夏「もう、苦しんでたんだから声かけてくれないの?」
聖歌「すまん、ちょっとな…」
やけに歯切れの悪い返答だった。
午後、いつも通りスターリーで仕事をしながら一時的に休暇となっているリョウ達の帰りを待っていた。
虹夏「ぼっちちゃんぼっちちゃん。リョウ達が帰ってきたらどう謝ればいいかな?」
ぼっち「え…えっと、二人は優しいので素直に言えば…」
ぼっちちゃんは良くこうやって的確なアドバイスをくれたりする。
虹夏「謝る…かぁ、私許されるかな?」
ぼっち「にっ虹夏ちゃんはもう充分苦しみました。二人なら分かってくれる筈です」
客のいない店内で一人、カウンター席に腰掛けた。
そんなことをしてしばらく経った頃。入り口の扉が勢いよく開く。リョウと喜多ちゃんだ。二人は私を見るやいなや真っ先に向かってくる。私は一歩二歩と後退りし二人から逃げようとする。
ぼっち「虹夏ちゃん。大丈夫、私はいます」
手が握られるのを感じると少し勇気が湧いてくる。どんなことを言われようが受け入れられるだけの覚悟もできた。
虹夏「あ…ひさし「虹夏」」
リョウ「ごめん、付いてきて」
乱暴に私の腕を掴むと無言のまま連れて行こうとする。
虹夏「何?どこに連れて行くの?ねぇ!」
すると足を止めたリョウは振り向くと私の空いている方の手を見つめる。
リョウ「そこに、ぼっちがいるの?」
私にはリョウの質問の意味が分からなかった。嫌味だろうか?ぼっちちゃんはもう死んでしまっていないのだ。私のせいで。わたしの…
ぼっち「へへ、私の影が薄すぎるあまり視認すらされなくなったみたいです…」
虹夏「もーう!またぼっちちゃんがメンダコになっちゃったじゃん!リョウも冗談言わないのー」
ぼっちちゃんは死んじゃったけど、見えないわけないよね。おねぇちゃんもぼっちちゃんも私から離れるわけないもん。…
喜多「いい加減にしてください!ひとりちゃんはもういないんです!先輩がこんなで結束バンドはどうすればいいんですか!?」
ぼっちちゃんがいない…?いない、いない……いない
虹夏「あ…ぁあ?…」
リョウ「い、郁代…」
喜多「あっすみません!うっかり…」
いない…そっか。そうだったんだね。
私は側に置いてあったカッターを喉に突き刺した。
その後、虹夏は病院に運ばれ集中治療を受けることになった。救急車内で私は何度も彼女の名前を呼んだ。しかし彼女の中にはぼっちしかいなかったのだ。私の呼び止める声よりも向こうにいるぼっちの姿を追って逝ってしまった。
リョウ「郁代、ぼっち…虹夏……待ってて」
タイトルふざけたけど許されるカネ