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私を好きになる人なんていません。

私を好きになる人なんていません。 - キャレスター=リリーの小説 - pixiv
私を好きになる人なんていません。 - キャレスター=リリーの小説 - pixiv
3,777文字
私を好きになる人なんていません。
私を好きになる人なんていません。
タイトル詐欺。モッテモテひとりちゃん。
虹夏リョウ喜多の全員が重めだったら面白いなと。
続き→novel/18992645
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2022年12月25日 16:00

 総受けとかいうジャンルが人気だと聞いたことがある。
 BLではよくあるらしいが、言われてみれば最近は百合の二次創作でもそういうものが多い。私は別にBLも百合も読まないし興味があるわけでもないのだけれど。
 思い出しただけだ。
「……帰らせてくれませんか」
「ダメだよ。ぼっちちゃんが頷くまでは」
 いや、それじゃあ困るんですよ。
 5回はそう言った。でも虹夏ちゃんは聞いてくれない。
「……あと1回しか言わないよ? あたしだけを見て」
 虹夏ちゃんはさっきから機械のように繰り返している。これって告白なんだよね? そういうのは3ヶ月前まで経験がなかったのだけれど、ムードとかが必要なんじゃないかと不思議になる。もしここで私が「はい」と言ったとして、この人はそれで嬉しいのだろうか。
「……何回言われても同じです。バンド内恋愛は、何があってもしません」
 私はそれだけを言う。というかこれしか言うことはない。
 都内の個室居酒屋で二人きり。虹夏ちゃんの目はどんどん正気を失っていく。
「だったらさ。どうしてこんな飲みの誘いには乗ってくれるの? あたしが何言うか分かってたくせに」
「知らなかったです」
「嘘だよね、それ。こういう話するのもう何回目?」
「……拒絶したら、縁が切れると思って」
「いい子だね、ぼっちちゃんは。やっぱり諦めたくないなあ」
「すみませんが今日は勘弁してください。帰ってやることがあるので」
「一人暮らしなのに?」
「譜面覚えないとなんです。どうか」
「……分かったよ。ぼっちちゃん、またご飯行こうね」
「ありがとうございます」
 なんとか虹夏ちゃんの寂しそうな視線を避けられた。財布から適当に5,000円くらい出してテーブルに置き、私は街中の個室から一人で退室した。


 都心……東京湾近くの繁華街はとにかくうるさい。飲んだくれサラリーマン御用達の新橋の居酒屋で一杯しかお酒を飲まなかった私だが、酔いは回ってきている。
 ロインで未読の最新メッセージをチェックする。

・虹夏ちゃん(1件):ごめんね、酔いすぎてた。今日のことは忘れてね。
・リョウさん(1件):明日渋谷のスタバ14時だっけ。
・ふたり(1件):元気?
・喜多ちゃん(57件):[不在着信]

 うーん。ふたりはまあ問題ないとして。
 虹夏ちゃんは重い。年上で頼れる、お姉さんのような友達のような人。正直男の人にとって一番安心できる人なんじゃないかと思う。変なあざとさもないし腹黒さも見えない。自然体で綺麗な子だ。私はああいう人にはなれない。だから本当に理解できないんだ、私に言い寄るなんて。今日だって本当に、もしかしたら気が変わって今までの血迷った物言いを無かったことにしてくれるなんて、期待していたんだ。結局ダメだった。全然そんな気配がない。

 私たちのバンドは上手くいっている。来週には六度目のテレビ収録があるし、最新のシングル楽曲もチャートに載った。ミュージシャンとしては幸せだ。だから揚げ足を取ろうとする人たちに引きずり下ろされるような些細な不祥事すら起こしたくない。
 バンド内恋愛なんてもっての外で、しかも私たちは全員女性。流石に笑い話では済まされない。でもなんだか最近皆おかしくて、私はもうついていけない。虹夏ちゃんなんてまだマシだ。リョウさんと喜多ちゃんなんてもう……。
「……ひとりちゃん」
「エッ」
 嘘でしょ?
 なんでこんなところにいるの喜多ちゃん。変な声出ちゃったじゃん。
「ロイン見て」
「あ、あの」
「いいから」
 急いで確認しようとすると、喜多ちゃんが寄ってきた。ものすごくおかしな足取りで。
「ねえ、さっきまでスマホいじってたでしょ、その手つきだと。なんでロイン返してくれないの?」
「あ、いや、あの」
 上手く返せ私。乗り切れ、頼む。でも思いつかない。お酒飲まなければよかった。本当にタイミングが悪すぎる。
「き、喜多ちゃん重いですよ」
 ああもう何言ってるんだ私は。確かにこれは本音だけれど。いやきっとどうにかなる。なってほしい。
 でも現実は。
「それは誰のせいだと思ってるの、ねえ」
 地雷、踏んだかも。

「ひとりちゃんは私のだよね。ねえなんで伊地知先輩とサシで飲んでるの? 私知ってるんだよ、ひとりちゃんのことなら何でもね。今ひとりちゃんお酒回ってるよね、ちょっと顔赤いもん。そんな姿私以外に見せちゃダメだよ、ひとりちゃんの隠れた承認欲求のせいで誰かにお持ち帰りされちゃうから。ねえ私はひとりちゃんの何なの? ただのボーカル? バンドメンバー? 友達? どれでも全然足りないよ、だって私はひとりちゃんが全部だから。ひとりちゃん本当にひどいよね、そんな私を放置してどっか行っちゃ——」
「あああすみません今日は遅いのでもう帰りますまた今度!」
 逃げ出す私を喜多ちゃんは追いかけない。ただ突っ立って見ているだけ。
 私はその視線に振り返らない。目で見なくてもそれが今もずっと背中を突き刺してそのまま破るくらい鋭いものなのが分かっているから。



 翌日の14時すぎ。
 私はリョウさんと二人でスタバでのんびりとしていた。リョウさんは新しいフラッペを注文していたが、流行に疎い私はとりあえず冷たくて美味しそうなマンゴーパッションティーを注文する。暑い8月にはこれが無難。
「あの、リョウさん」
「何?」
「こんな渋谷のど真ん中で……周りの視線がすごく痛いんですけど」
 私たちは結構顔も名も知られているはず。こんな若者だらけの街に出てきたら、相当やりづらいだろうなとは思っていた。
 でもここまでとは。このお店はいつも混んでいる。人だまりが入った瞬間周りから戸惑っていって、ついに私たちから離れていった。ああ、この人たち私たちのこと知っているんだ。
 席なんてすぐに取れるはずないのに、注文品を受け取った途端に一番近くの女子高生二人組が何かワイワイ言いながら空けてくれた。
 リョウさん、なんでわざわざこんな目立つ場所に呼び出したんですか?
「ああ……。ぼっちを自慢したいから、かな」
「自慢?」
「うん。ぼっちって自称インキャじゃん? まあ実際そういうところあると思うけど」
「う」
「でも顔は本当に良い。勿体無いし、なんか悔しいよ。皆にちゃんと実物を見てほしい」
 リョウさんは新作のフラッペを片手に淡々と語る。チョコ系の味のそれは確かに美味しそう。
 うん、片手でプラスチック容器を持っているだけでも、リョウさんも充分可愛い。というかクールだ。別に私のことなんて心配しなくていいのに。
「リョウさん、やっぱり変わってますね」
「ふふ」
「でも私ファンが増えても、むしろボロを出してしまう気がします」
「ぼっちはそれでいいよ。私はそれが好きだから。というかぼっちの良さは、多分私が一番理解してる」
「そうですかね」
「うん。だから昨日何があったか、確認したい。答え合わせをしよう」
「……はい?」

 ああ。
 結局これか。
「ぼっちは昨日、虹夏と飲んでたね?」
「いいえ」
「飲んでたね?」
「……はい」
「告られたの、あれで4回目だよ」
「え」
「4回目だよ」
「……そうでしたっけ」
「ひどいねぼっち。せめて覚えときなって」
 いや、なんでリョウさんが回数を把握しているのか。
「それで、帰り道に郁代に会って——」
「まっ待ってください。なんでそんなこと知ってるんですか?」
「合ってるんだ。よかった、やっぱり私の目に狂いはない」
「いや、だから」
「なんでって? なんでだと思う?」
 はっとする。この人会話を直接聞いてるんだ。信じられない。
 慌てて鞄やスマホ、貴重品を全部チェックする。盗聴器らしきものは見当たらない。なんでだ、どこにあるんだ。
「探しても無駄」
「りょ、リョウさん! 流石に困りますって!」
「じゃあ自分で見つけて。今日はそれを伝えにきた」
「……外してください」
「虹夏と郁代と一切喋らなくなったらね」
「な、なんなんですか!? 皆本当に……!」
 私はお店を早足で出た。少し声を張り上げてしまって周りがやっぱりザワザワとしたけど、今はそんなことどうだっていい。とにかく帰って一人暮らしの部屋に引きこもりたい。



 帰った。とにかく帰った。
 怖くて電源を切っていたスマホの通知を確認。
 ロインがすごく溜まっている。開いてみると……。

・虹夏ちゃん(13件):会いたいよ。お願い。
・リョウさん(1件):今からそっち行く。
・喜多ちゃん(94件):おかえり。

 ああああ!
 なんだこれ! というかおかえりって何!?
 なんなんだこの人たち、どうかしている!
 喜多ちゃんは多分マンションの外にいる。信じられない。今すぐ帰ってほしい。最近忙しいんだから私を尾行する時間なんてないはずなのに。どうなってるんだ思考回路もメンタルも。

 どうしよう。もし今インターホンでも鳴ったら。
 どうしよう。そこのクローゼットから誰かが出てきたら。
 どうしようどうしようどうしよう……!!





 ——結局3人揃って同時に私の部屋に訪問し、かえって事が荒立てられずに済んだ。

私を好きになる人なんていません。
タイトル詐欺。モッテモテひとりちゃん。
虹夏リョウ喜多の全員が重めだったら面白いなと。
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