うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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言うこと聞かねーとコトだぜ? 美女たち

 

 

 まず、秋川やよいという少女は、その明朗快活ながらも思慮深い人柄から、学園の理事長としてだけでなく一人の人間としても、周囲の人々から非常に厚い信頼を受けている。

 とても優秀で、生徒たちに対しては時に厳しく、時に優しく海のような寛大さで彼女たちを受け入れ導く……と、学園の理事長という直接的な指導からは少し遠い立ち位置であるにもかかわらず、教職員やトレーナーだけでなく学園のウマ娘たちからも積極的かつ好意的に話しかけられるその姿は、まさに理想の指導者像を体現したような存在だと言えるだろう。

 

 そんな中央トレセン学園の顔に相応しい彼女は、周囲の人間たちからは『欠点らしい欠点が見当たらない』という評価が下されているらしかった。

 学園のウマ娘の為になんでも無茶をする特性上、ポケットマネーを用いての学園設備の改造などは行おうとするものの、それに振り回されているのは秘書の駿川たづなくらいのもので、彼女が行動を抑制してくれるため理事長の破天荒な行動が表に出ることはほとんどなく、変わらず秋川やよいはウマ娘に対して強い情熱を燃やし続けてくれる理想的な理事長として周りから認識されている。

 

 ──つまるところ、あまりに完璧過ぎる外面を作ってしまった彼女は、その仮面を外せる機会がどんどん失われしまっている──否。

 やよいは『秋川理事長』として振る舞わなければならない環境を、自らどんどん広げてしまっているのだ。

 

 なにに置いても全ては『ウマ娘たちのため』であり、実際彼女のその行動が学園の生徒たちの益に繋がっているのも確かな事実ではある。

 次々に開催するイベントを通して学外や低年齢のウマ娘たちにも希望を与えている彼女の行動は、まさにこの国のウマ娘のレース界を支える秋川家の跡取りに相応しいものだ。

 加えてやよい自身もそれを苦だとは考えておらず、先祖代々受け継がれてきた使命を受け入れ自らの全てをウマ娘たちの未来へ捧げるその誇り高い姿勢には感服の一言である。

 

 まぁ、それは他人であれば、の話だが。

 俺、秋川葉月は彼女と同じ秋川家の生まれだが、本家の人間ではない。

 ウチの両親自体は多忙だが本家に比べれば一般家庭と言って差し支えなく、やよいとはただの従兄妹(いとこ)にしか過ぎず、また本来であれば家の集まり程度でしか顔を合わせないような、一族間での繋がりがあるだけの親戚という関係だ。

 あくまで()()()()()

 

 ──俺たち二人の間には、他の人たちとは多少異なる絆の形が存在している。

 やよいと俺は家族だ。

 確かに従兄妹ではあるが、断じてただの親戚などではない。

 この世で唯一無二と言っていいほどの──確かな心の繋がりを持つ存在なのだ。

 大人たちの都合で同年代の子供たちとは比べ物にならないような、全く遊びのないカスみてぇな環境に身を置くことになったあの時の俺たちにとっては、互いの存在だけが自分を支えてくれるただ一人の人間だった。

 俺は、やよいを。

 やよいは、俺を。

 昔秋川家の全ての人間が敵としか思えなかった俺たちは、小さい頃からずっと二人で一人だったのだ。それこそ本当の兄妹以上のように。

 

 ここまでゴチャゴチャと語り尽くしたがつまり何が言いたいかというと、幼い子供には辛すぎる環境を押し付けていた本家の人間たちの改心や、両親との多少の距離感の回復など今日に至るまでに紆余曲折ありはしたものの、結局俺という人間にとって最も大切な存在は、今でも変わることなく秋川やよいという少女なのだ──という話である。世界一愛してます。かわいい妹。

 誰よりも大切で誰よりも彼女を理解している立場だからこそ、俺だけはやよいが『秋川理事長』の仮面を外すことができる拠り所となり、立場ではなく人間としての彼女自身を評価し、他人には見えていない欠点までを含めて受け入れてやらなければならないのだ。

 

 ……で、だ。

 前置きが非常に長くなってしまったが、つまりその銀河で一番愛している存在に対して、もし物理的な危険が降りかかる可能性の高い要因が明確だったとしたら、ヒトはそれに対してどういう処置を施すだろうか、という話なのだ。

 無論、遠ざけようとするだろう。

 宇宙で最も愛してる妹なのだから、安全に守るため危険な事態に巻き込むまいと奔走するのは、人間として至極当然の判断だ。

 そうするつもりでいた。

 少し前までは。

 しかしなんやかんやあって街を守るヒーローもどきの立場になってしまい、自らの秘密を隠すのが難しくなってしまったのだ。

 このまま無理に隠し続けて不意に秘密が露呈するか、信頼ゆえの相談という形で隠し事を打ち明けるかの二つしか選択肢がない場合、親しい相手との関係性を保つためにはどちらを選ぶべきなのか。

 それを。

 じっくりと。 

 悩みに悩んで。

 

「…………やよい。とりあえず一旦離れ──」

「やだ」

「……。」

 

 いま、夕方の四時ごろ。

 場所、自宅の狭い畳張りの居間。

 状況──やよいが俺の膝の上に乗って正面から抱きついたまま一向に離れようとしない。

 

「やよい」

「拒否」

「……なぁ、一応理由は話したろ? これはしょうがない事で」

「却下ッ」

「…………まいったな」

 

 この状況を簡単に説明すると、つまり二択の内の『自ら秘密を打ち明ける』ほうを選んだのが十数分前で。

 話し終えてからというもの、彼女がひっつき虫になったまま動かなくなってしまったのが現状だ。こんなはずでは。

 

 やよいに話すかどうかについては、昨晩までにしっかり考えていたのだ。

 ユナイトでドエロく人間様に歯向かうようになった淫猥ベルちゃんを正常に戻した後、そのまま流れで助けに来てくれたマンハッタンとも怪異の事を教えるかどうか真剣に議論した。

 結果、ちゃんと包み隠さず話すことにした。

 思慮深いやよいの事だから、困惑こそすれ理解は示してくれるだろう──そういう結論のもと実行に移したわけだ。

 しかし現状はコレときた。非常に困ったことになった。

 

「……もう戦っちゃダメ。ユナイトとか意味わかんないのも禁止。サンデーって女の子も離してあげて。あと叔父さんに言って一人暮らしも止めさせるから」

「おいおい、ちょっと落ち着けって……」

「落ち着いて自分の状況を振り返るべきなのは葉月のほうでしょ。ただでさえ大切な高校生活の傍ら得体のしれないバケモノたちと闘って、道端で倒れて救急車を呼ばれるほど衰弱しても『必要経費だ』って言い張るワケ? どう考えてもここまでただ運よく助かってるだけじゃん。下手したら……死んでるよ」

 

 俺の胸に埋めてた顔を上げ、まっすぐ目を見つめて怒った表情で捲し立てるやよいの目尻には、ほんの少しだけ水滴が浮かんでいる。

 まさか半泣きになりながらここまで真っ向から引き留めてくるとは思っていなかった。

 サポートをしてくれるとまではいかなくても、少しの忠告は挟むとして理解自体はしてくれるだろうと考えていたのだが、完全にこちらの想定が甘かったらしい。はしゃぎすぎ。

 

「遅すぎるくらいだけど……正直に話してくれたのは嬉しい。でも、だめ。怪異に関わることはもう全部やめて」

「……トレセンがあるこの街を守るためでもあるんだ」

「街の前に自分の命を優先してよっ! 葉月の周りの人たちが言わないなら私が葉月のこと怒る! いいからもう闘わないでっ!」

 

 狭い部屋の中で少女の声が木霊する。

 マジでめちゃくちゃごもっともな意見だ。

 ──冷静に考えれば当たり前の事だった。

 もし俺がやよいの立場だったら何が何でも止めるだろうし、怪異と関係のある存在からは絶対に遠ざけようとするに違いない。

 俺がやよいを大切に考えているのと同じように、やよいも俺のことを想ってくれているのだ。少し考えれば分かることだった。俺たちは二人で一人、幼い頃から唯一そばに居続けた家族なのだと、そう言ったのは俺の方なのだから。

 

「とにかく話は終わり。叔父さんたちが帰って来られないなら葉月にはウチの実家で過ごしてもらうから」

「ちょ、待てって!」

 

 俺から離れ、そそくさと家を出ていこうとするやよいの手を掴んで引き留めた。彼女の考えは理解できるが、俺もこのまま流されるわけにはいかない。

 

「俺が闘わないとバカ共が街で暴れるんだって!」

「怪異を認知してる人自体はそこそこいるんでしょ? それを専門に扱ってる大人なんて沢山いるだろうし、その人たちを呼んで怪異を黙らせればいい。手配は私がやるから心配しないで」

「いや、インチキ霊能力者なんてそれこそ世の中にごまんといるじゃないか。やよいだって誰が本物なのかとか、知らないだろ?」

「……っ」

 

 ムッとするやよい。かわいい。だが引かない。

 俺だって何も考えずに闘っているわけではないのだ。

 

「ちゃんとした人を探し出すのにも時間がかかるはずだ。そもそも実在するのかすら怪しいし、怪異だってそれを待ってくれるわけじゃない。それに得体のしれない『見えない何か』が市街地を荒らしたってニュースで、どれぐらいの被害が出てたかはやよいも知ってるだろ。アレを野放しにしたら怪我人どころかもっと大変なことになるかもしれない。学園のウマ娘だって狙われないわけじゃないんだ」

「……それはっ、そうかもしれない、けど……。……で、でも葉月が傷ついていい理由にはならないじゃんっ!」

 

 やよいは聡明な少女だ。ちゃんと理屈を分かったうえで家族の情から俺の身を案じて抵抗してくれている。それ自体は涙が出るほど嬉しいが、今の俺にはそれすら説き伏せるほどの理由が必要なのだ。

 そうしなければ助けられるはずの人まで手が届かなくなってしまう。それだけは許されない。王として、男として。ハピネス。

 

「呪いの話はしたろ? 俺個人を狙ってる敵も存在するんだ。戦う力を失くしたらそいつに襲われた場合に抵抗できない」

「ぐぬぅ……」

「少なくとも他の怪異に力を与えた元凶であるそいつを倒せば、この派手な騒ぎは収まる。だから怪異と闘って街を守ることが、ひいては俺自身を守ることに繋がるんだよ」

「ぐぬぬぅ……ッ!」

 

 イけるぞ、もう一押し!

 

「──正論ッ!!」

 

 っ!?

 

「舌鋒! 見事ッ! しかし納得できず! 私ではこのまま流されてしまう可能性が高いため、応援として理子ちゃんを呼ぶッ!」

「ばっ、樫本先輩まで呼んでどうすん──」

「もしもしッ! 至急ッ! 葉月の家まで来てくれたまえッ!!」

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「うえええぇぇん葉月に言い負かされたぁあああ」

「理事ちょ……ぁ、いえ、やよいさん。大丈夫よ、落ち着いて……」

 

 それから数分後に爆速で駆けつけてきた樫本先輩にやよいが泣きつき、事の経緯とやよいにしたのと同じ内容の秘密の説明を先輩に伝えた。

 とりあえずまた居間に座って話す体勢にはなっているが……先輩も複雑そうな困った顔をしている。彼女も結論を決めかねているのだろう。

 怪異については多少知っている先輩だが、普段は彼女にすら『秋川理事長』として振舞うやよいが限界化してかつてのように抱きついている姿を目の当たりにした困惑が大きいようだ。

 

「……私も葉月の意見は理解できるわ。現状あなたしか怪異と闘える存在がいないのも事実だし……」

 

 先輩はやよいの背中を撫でてあやしながら続ける。こうしてみると姉妹みたい。”良”。

 

「でも、やよいさんの気持ちも分かるの。以前に基本的な話だけは聞いていたけれど、入院するほどあなたがボロボロになると知っていたら私だってきっと止めていたと思う」

 

 どちらかと言えばやよいの味方だ、と彼女は語る。

 これはマズい。このまま多数決の流れになったら敗北は必至だ。

 

「葉月。やよいさんの為にも正直に答えて。……怪異には何度負けたことがあるの?」

 

 めちゃくちゃ真剣な表情で質問してるところ申し訳ないのだがバトルに関しては常勝無敗だ。というか一回でも負けたらゲームオーバーなのでそもそも敗北自体が許されないギリギリの闘いなのです。

 

「……負けた事は一度も無いです。向こうは数が多いけど、ステータス自体はこっちのほうが圧倒的に高いから、基本的に敗北することはありません」

「それならどうして怪我をしたり……あそこまで衰弱していたのかしら」

「勝負自体は勝てますけど向こうが攻撃をしてこないわけじゃないんです。それで打撲とか掠り傷くらいは負いますけどそれが敗北に繋がることはないと思います。それぐらい戦力差がハッキリしてる」

 

 怪我自体はどうってことないのだ。特別治りが早いわけではないが、大怪我を負うような派手な攻撃はレース中であっても余裕で避けられるし、回避動作を取ったとしてもアイツらに後れをとることは無い。

 

「……体調が悪くなるのは……その、変身した際に生じるデメリットと言いますか……」

「ユナイト……と言っていたわね。つまりまとめると、敵に対しては強く出ることができるけれど、彼らと闘うための身体に形態変化すると……闘った後に体調を崩してしまう、という事かしら」

「はい。そんな感じです、先輩」

 

 実際あのカラスに困らされることはあれど、怪異自体に負けそうになったことは一度もないのだ。

 それに加えてこちらが本気を出したことはない。サンデーの疑似封印を避けるための処置ではあるが、そのセーブした状態でも十分勝てる相手だという事である。

  

「……うぅん」

 

 先輩がこめかみを押さえて懊悩している。

 やよいと俺の主張を加味した上で大人の意見を下さねばならない難しい立場だ。酷な判断を強いてしまっているのは素直に申し訳ないと思う。

 

「葉月の身を守るためには葉月自身が闘わなければならなくて……でも、やよいさんが危惧している通り、それを放置していたらいつか大怪我を──いえ、もっと大変なことになるであろうことは目に見えている。現に病院へ搬送されているわけだし……はぁ」

 

 樫本先輩はやよいを下ろし、隣で頭を撫でつつ顔を上げて俺を見た。

 やよい自身はもう先輩の意見に従うといった様子だ。途中で口を挟もうする様子はない。

 

「葉月」

「は、はい」

 

 ド緊張♡ 

 

「もう一度改めて確認させて頂戴。怪異との闘い自体はあまり問題なくて、ユナイトすることで発生するデメリットが体調不良の原因なら……そのデメリットを何とかすれば、あなたは安全に闘えるという事で合ってる?」

「平たく言うと……」

 

 ユナイトしても体調がおかしくならなければ、以前のように三連戦を仕掛けられても問題はなく、弱ったところを狙われる可能性も格段に低くなる。

 しかしダメなのだ。

 俺の負担を減らす方法は現状デュアルシステムしかないが、アレに頼ることはできない。

 自分と相棒はともかくとして、他のデュアル対象は半減された渇きすら耐えられない。その相手が悪いのではなく、数ヵ月も苦しみに耐え続けないと耐性がつかないような強すぎるデメリット自体がカスすぎるという話だ。

 その説明は先輩にもした。

 デュアルしたドーベルがどうなったのかも含めて。

 

「……」

「先輩……?」

「……ねえ葉月。半減がダメでも、三等分すればどうにかなると思わない?」

「えっ……」

 

 それはつまり──

 

「私とやよいさんであなたのデメリットを三分の一にする……というのはどうかしら」

「い、いやちょっと待ってくださいっ」

 

 それは早計というものだろう。

 ドーベルがデメリットでどれほど錯乱してしまったかは事前に伝えたはずだ。

 半分でアレなのだ。

 三分の一になったところで変わるようなものだとは思えない。

 

「俺を参考にしちゃダメです……! なんつーか……その、経緯が複雑なんですよ。本来なら耐えられる俺がそもそもおかしいってレベルの渇きで──」

「それでも三分の一になれば話は別でしょう。私もやよいさんも忍耐力なら生徒たちにも負けないわ」

 

 体力は無いが精神力は強い、という彼女の特性は理解しているつもりだ。だがそういう話ではない。あまりにもお下劣すぎますからな。

 

「どうかしら、やよいさん」

「ん? ……あっ、さ、賛成ッ! やってみなければ分からないものもある!」

 

 いま油断してたろお前。本当に大丈夫かよ。

 そもそも業務中に爆発的な三大欲求に突然襲われたら、耐えられるかどうかは別としてその衝撃を周囲から誤魔化せるのか? 現実じゃエロ漫画みたいな誤魔化しは通用せんぞ。

 やってみなければ分からないとはいえ、何かあってからでは遅い。三分の一がどの程度なのかを確認する術など無いし、そんな先の見えない状況でデュアルしても不安でまともに闘えない。

 人目に触れる機会が多い立場のこの二人が、もしあの時のドーベルみたいになってしまったら、秋川家どころかトレセンがもうおしまい!

 

(……たぶんだけど、先生が協力してくれるならデメリットの具合を夢の中でのシミュレーションで確認できるかも)

 

 マジ。

 もし可能ならやってもらわなければ。

 それで一応デメリットがどれ程キツイものなのかを二人に理解してもらおう。そして出来ればデュアルは諦めてもらって、今まで通りに闘うことを許してもらおう。そうしよう。

 

「あの、先生」

「……?」

 

 この家に来てからやよいの頭から飛び降り、以降ずっと部屋の隅っこで香箱座りしてたネコ先生に声をかけると、目を覚ました彼女はひょこひょこと俺の元まで寄ってきた。非常にキュート♡ 反省しろ。

 

「お願いがあるんですけど、いいすか」

「んなぁ」

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「えぇと……つまりここは葉月の夢の世界……という事でいいのかしら」

「まぁ、そんな感じです」

「奇怪ッ!? わっ、私がもう一人! しかも猫耳生えてる!」

「それ先生だぞ」

「ぇ。……うそ、擬人化できるとか聞いてない……」

 

 とりあえずサンデーに提案されたやり方を二人に説明し、先生の力をお借りして先輩とやよいには俺の夢の中へと来てもらった。

 周囲はなんだかボヤけていて、クリーム色の不思議な空間が広がっている。

 

「にゃーん」

「わひゃっ。ちょ、先生がいつにも増してくっついてくる! 私の姿で!」

「……それで、葉月? あなたの夢の中へ移動したのはいいとして、どうして私たちは()()()()になってるのかしら」

「…………。」

 

 イチャイチャする二人のやよいと、困惑した様子で佇む樫本先輩。

 その三人が全員クラシカルなメイド服を身に纏っているのだ。スカート長いのが逆に良いんだよな、このタイプ。

 ちょっと遠くでお昼寝してるサンデーもよく見たらメイド服だ。どうやら俺以外の全員に俺自身の欲望が形となって伝播してしまったらしい。

 ──とりあえず土下座しながら説明していく。

 

「俺の夢の中なので……無意識に願望とか欲望が表に出るみたいです……誠に申し訳ありません……」

「なんで土下座してんの葉月? 可愛いじゃんコレ。ね、理子ちゃん」

「まぁ……肌が露出しているわけでもないし……とりあえず顔を上げなさい葉月」

「ぁ、はい……」

 

 夢の中という事もあってか、二人は現実世界より寛容というか思考が少しだけ緩くなっている。まさに夢見心地というやつだ。

 とはいえ夢の案内人である先生が正式に連れてきてくれた相手なので、意識はしっかり保っているはずだ。まだ夢の世界に慣れていないだけで、じきに普通の状態に戻るだろう。

 とにかく具現化した妄想が古風なメイド服で助かった。

 いや助かってはいないのだが不幸中の幸いというやつだ。思春期男子の胸の内に秘めた欲望の発露となれば、最悪の場合は水着やバニーガールの衣装になってた可能性もあった。危なかったぜ。

 

「と、とりあえずシミュレーションを始めましょう。先生、俺も含めて三分の一でよろしくお願いします」

「ふるる」

「どんな感じなんだろうね?」

「葉月は極度に疲弊すると言っていたし……シャトルランを終えた直後のような感じかしら……?」

 

 やよいと先輩がこれから起きることを話している中、俺の指示を聞いて先生がパチンと指を鳴らした瞬間。

 ──ドクンッ、と一度心臓が大きく跳ねた。

 しかし……なんというか、それだけだ。

 やはり大して違和感は感じない。

 ドーベルとの半分こで感じていた頭の重みもさほど感じないし、個人的には三分の一まで減らされたら十分すぎるほどだ。コレなら十連戦は続けられる。

 さて、肝心の残りの三分の二を与えられた二人は──

 

「っ゛♡ ……っッ゛♡♡」

「や、やよいさん、しっかり……♡ ──うぅっ、めまいが……♡♡」

 

 先輩は明らかに頬が紅潮しておりフラフラ。半減時のドーベルに比べてもう少しダメージが大きそうな印象。

 やよいに関してはもう虚ろな目のまま横たわっていて気絶寸前だ。お尻も浮いててマジでヤバい。放送事故とかそういうレベルじゃない。

 

「は、葉月っ……♡」

「おっと。……あの、駄目そうですか先輩」

「ご、ごめんなさい……見栄を張らずに言うならっ、ぜんぜん無理……っ♡ 視界がボヤけててフラフラするし、ふ、二日ほど断食したくらいお腹が空いて……眠気も、やば……♡」

 

 倒れ込んできた先輩を支えたが顔やば♡ シャレになってないよ。

 もしかして半減であのレベルだったドーベルですらマシな方だったのだろうか。こうしてみるとウマ娘とそうじゃない場合でもダメージ量が違うように見える。

 ──いや、しかしコレで耐性が判明したのは助かった。

 もしあのまま流されてデュアルしていたら、彼女たちは教職員やウマ娘たちの前で激アクメをかますところだったのだ。やよいなんかもうほとんど気絶だし本当に危なかった。

 メイド服姿の大人の女性を支えながら同じくコスプレした気絶ロリっ子を眺めるこの光景ヤバすぎるだろ。終わり終わり終わり!!

 

「ハヅキ。どう」

「いやどう見てもダメだろ。三分の一でコレだぞ? ……ていうか、ここまで来ると耐えられてる自分が怖くなってきたわ……」

 

 ほんとに俺、大丈夫? 気づかない間にこっそり人間辞めてたりしてない?

 

 

 

 

 その翌日。

 再び俺の夢の中の空間にて。

 やよいと先輩はシミュレーションにて失敗したものの、ならば更に人数を増やせばいいのではないかという考えに変わり、今度はバイト先の三人がここへやって来た。

 マンハッタンとサイレンスの二人は既にドーベルからデュアルについて聞いていたらしく、円滑に事が進みそうな雰囲気ではあるのだが──ひとり納得してない人物がいる。

 

「疑問ッ! 我が校の生徒たちを巻き込む必要はあるのだろうか!」

 

 そう声を上げたやよいは現在平然と()()()()を身に纏っている。彼女だけでなく他の皆も同様だ。それぞれ体のラインがあまりにも出すぎている。ウ~ウ~! ハレンチ警察の権限において実力を行使する!

 どうやら今回も俺の欲望が発露したらしいのだが、男子高校生が女子複数人の水着をそれぞれ別々に想像できるわけもなく、もれなく全員ちょっとデザインが異なるだけの競泳水着にフォームチェンジすることになってしまった。

 例によって例の如く土下座したまま俺は動いていない。もうここまで来ると言い訳も虚しく意味をなさない。

 

「やよいさ──理事長。私は以前、彼女たちからしっかりとこれまでの経緯を話してもらいました。彼女たち三人はただ巻き込まれただけの生徒ではありません」

「しかし!」

「私たちが何も知らなかった最初の数ヵ月間、葉月が壊れないように支えてくれていたのは他でもない彼女たちです。()()()()()()()()、怪異現象に対しての覚悟も本物です」

「──っ! だ、だが……っ」

 

 少し前のイベントの時、俺とサンデーが気絶している間に、先輩とあの三人は現状について詳しく話し合っていた。内容は知らないがきっとマンハッタン辺りが詳しく解説してくれたのだろう。

 教育者として生徒を巻き込むまいと反対するやよいと、同じ指導者でも彼女たちの覚悟のほどを以前の対話で理解している樫本先輩の討論が続く中、そこに割って入ったのはサイレンススズカだった。競泳水着でよりスラッとした体の線があらわになってる。抱きしめやすそう。

 

「理事長……私たちは確かにまだ学生の身です。とても自立した一人の人間とは言えません。……でも、葉月くんを支えたいと思う気持ちに嘘偽りはありません……!」

 

 さらにマンハッタンも参加する様子。

 

「私も……スズカさんと同じ想いです……。救ってくれた葉月さんだからこそ……この身を賭しても助けたい。彼に傷ついてほしくないのは……理事長も同じなのでは……?」

「む、むぅ……」

 

 あ、やよいちゃんまた論破されそう。学園の改造か俺が関わらなければ討論はいつも常勝無敗なんだけどなアイツ。

 

「ね、ねぇツッキー……」

 

 うわっ!!!!!!!!!!! 競泳水着でおっぱいがちょっと潰れちゃってますよ。ミチミチと。水着をいじめるのいい加減やめよう。

 

「なんでみんな水着なのに平気なの……? これってアタシがおかしいだけ……?」

「いや……ベルが正しいよ。冬場で海でもプールでもないのに変な格好させてすまん。俺も自在に夢を操れるわけじゃなくて、どうしても制御できない部分なんだ……」

「それって、つまりツッキーはアタシに水着を着てほしかったってこと?」

「……広義の意味ではそうなるな」

「っ! え、えっち……こうなるなら事前にちゃんと言ってよ、ばかっ」

 

 報連相を怠って大変申し訳ございませんでした。眼福です。結婚しよう。

 ここに来る前──つまり夢の世界に来る前のことなのだが、あの狭い俺の家にやよいと先輩だけでなくドーベルたち三人も来ているのだ。

 客人用の布団を出しても足りず、現実世界の俺は彼女たちを夢へ誘う都合上、全員に触れられながら布団の上で眠っている。

 なんというハーレム。

 ハーレムか?

 負い目から延々と土下座をし続けるこの状況が? 世界ふしぎ発見。

 

「……承諾。我々で五人で協力して葉月の負担を減らそう」

 

 おっ、五等分の花嫁。

 

「本当に心の底からマジでありがとう、みんな。……じゃあ先生、俺も含めて六分割した場合のシミュレーション、お願いします」

「うなーん」

 

 指パッチン。

 シミュレーション開始。

 

「……大丈夫そう、か?」

 

 始まった瞬間は何もない。

 デカい衝撃もなければ、やよいも気絶していない。

 言わずもがなだが俺は全く平気だ。

 さすがに六分割までいけば普通の人でも耐えられるレベルにダウンしてくれるらしい。

 

「スズカさん……大丈夫ですか……?」

「え、えぇ、たぶん平気よ、カフェさん。何だかウズウズするけどこの程度なら……♡」

「…………いや、アタシは結構ムラムラするかも」

「ドーベルさん……!?」

 

 まさかの発言。さすがのカフェちゃんも驚いてしまったよね。

 

「ご、ごめん二人とも……♡ でも、デュアルって元凶を倒すまでは定期的に続けるものでしょ……なんというか、これって実験なんだしハッキリ言わないと意味が無いかなって……♡」

「肯定ッ! 多少は耐えられるがこれはまだ一体目だからだと、思われ……るぅ……」

 

 ドーベルに便乗したやよいをフォローするように、樫本先輩も手を上げた。

 

「理事長の言う通りかもしれません……もう一段階上にあがったら難しいかも。最低でも葉月が入院するきっかけになった三体分の敵と戦った後のデメリットくらいは耐えられないと……ぅっ♡」

 

 とはいえ実際に受けて体を慣らす方法は使えない。アレは俺が一人だったから隠せたのであって、この五人が往来で急にこの様子に変化してしまったら誤魔化す事は難しいだろう。

 そもそも何か月もかかる訓練をやってもらうわけにはいかない。

 ただの高校生な俺と違って、学園の運営側のやよいや先輩はもちろんのこと、バリバリ現役のトップアスリートであるこの三人も多忙なスケジュールが前提の生活だ。

 一応耐えられはするだろうが、初期段階の渇きでこれではまだ安心できない。

 

「葉月ぃ~っ♡」

 

 やよいも後ろから抱きついてきちゃった。おぉ元来は甘ん坊さんだったのだね。

 

「り、理事長、しっかり……♡」

 

 いや先輩も俺の右腕にくっついてますよ。なに? 待ちくたびれちゃった? 可愛い仔猫ちゃんだ。でも今日は交尾しないでおこっかな~。

 

「つ、ツッキーってば、ちゃんと抵抗しなよ!」

 

 左腕を唐突に占拠しておいて何をのたまう? 学園でしちゃいけないこと一杯してるだろ既に。ピサの斜塔。

 

「じゃあ私は葉月くんのほっぺ触ろうかな……」

 

 おいおい平気とか言ってたのに早くもダウンか? 遺憾のイだぜ? すげ~サポート完璧じゃん手厚いじゃん♡

 待て待て。

 おかしいだろ。

 みんな自分の状況を俯瞰できてたのに、やよいを皮切りに我慢の仕方を忘れてるじゃねえか。そんなに俺のことが好きなのか? スタンプブチュチュンパキッスも忘れるな……♡

 やばいって。君たち自分が競泳水着だってこと忘れてない? もう全部当たってますよこの世の全てが。

 

「ふむ……難しいですね。まだ分割が足りないのでしょうか……?」

 

 反転して遠くから眺めてるマンハッタンは頬こそ少し赤いがあまり問題なさそうだ。

 サンデーから直々に『耐性がある』とお墨付きをもらっていたワケだし、六分の一程度なら余裕なのだろう。

 ていうかそもそもサンデーを視認できる人間はこういうのに対して強いのではないだろうか。マンハッタンも俺も視て触れられるわけだし、他の四人とはダメージ量の差があっても仕方のない事なんだと、この際もう割り切ったほうがいいかもしれない。

 

「葉月さん、他に頼れそうな方などは……」

「一通りの事情が分かってるやつはあとゴールドシップだけだな。……あぁ、それとコスチューム制作の件で事情を共有したいと思ってた相手にデジタルさんがいるよ」

「なるほど……ではそのお二人にお願いしましょう。八等分までされれば……三連戦で生じるデメリットでも耐えられるかと……」

 

 というわけで今日はお開きとなった。

 にしてもみんな夢見心地で三大欲求を刺激されててなおかつ男がその場に俺しかいなかったとはいえ発情し過ぎです。危うく本気にするところだったぜ。俺でなければだがな。

 

 

 

 

「おい、アタシはあくまでマックイーンに危害が及ばないために利害一致の関係でここにいンだからな? 勘違いすんなよ、このスケベ太郎」

「はい……面目次第もございません……」

 

 なんだか恒例になってしまった夢シミュレーターでのデメリット実験、三日目。

 今日も今日とて相変わらず俺は土下座をしていた。

 だが今日に関してはいつにも増して本気というか、地面にこめかみがめり込む勢いの土下座だ。

 ついにやってしまったのだ。

 本日のコスプレ衣装は俗に“バニーガール”と呼ばれるものです。

 それも基本色だけじゃなく黒タイツ網タイツ生足と無駄にバリエーションまで豊富になっている。競泳水着の時より妄想爆発しちゃってるよ危うく死刑。

 ゴールドシップの怒りはごもっともなのだ。仕方なく協力してやるつもりで訪れたら閲覧に年齢制限がかかりそうなコスプレを強制されたのだから。

 むしろ『今回は露出多いなぁ』とか完全に慣れたセリフを言いながら平然としてるやよいがヤバいよ本当に申し訳ございませんでした。この世で一番愛してる。

 

「あ゛ぅ゛……ウマ娘ちゃんたちのバニーは刺激が強すぎぃ……天国どころの騒ぎじゃないよぉぉぉお」

 

 まだ実験は始まっていないのに既に恍惚とした表情になっているウマ娘が一人。

 本当にアグネスデジタルには迷惑をかけてばかりだ。

 今回だって損得なしの善意で参加してくれたのに蓋を開けてみればこの状況。そろそろ本当に嫌われてもおかしくない。

 

「あの……本当にごめんデジタルさん。わざわざ時間取ってくれたのに……」

「いえ、寧ろお礼を言わせてください。言わなければなりません。この度はお招きいただき誠にありがとうございました。このご恩は一生忘れません……っ」

「いやお礼を言われるような事なんて……」

「いえいえとんでもございません……」

 

 なぜかいつの間にか土下座勝負になってしまっている。本当にこのウマ娘を俺の予想をいつも超えてくる面白い少女だ。

 

「あっ」

 

 やべっ。

 顔を上げたら胸元の危うい部分が見えそうになった。

 咄嗟に顔は背けたが……。

 

「っ? ……──ぁっ。ひゃわっ、あぅ……♡」

 

 どうやら遅すぎたらしい。めっちゃバレてる。顔を真っ赤にして胸元隠しちゃった。親友の想い人を相手にどれだけ罪を重ねれば気が済むというのだ。俺はそろそろ死ぬべきかもしれない。

 バニー衣装ヤバい。うひょ~一回拝んでみたかったんだよな。

 

「む……葉月くん。私もバニーなんだけど……」

 

 斜め横に視線を逃がしてたらその先にサイレンスがやって来てしゃがんだ。なぜ俺をボロカスに打ち負かすのだ? マジでキレたわ。

 

「ゴルシちゃん参上。もういっそアタシに惚れさせればマックちゃんには近づかないのでは? と考えたゴルシちゃんなのであった。ほれ、拝むか純情ボーイ」

 

 デッッッッッッッッッッッッかくない? よく見たらゴールドシップさん違法建築じゃん。こいつ……ちょっとお灸が必要なようだな!

 

「ツッキー、まだ正座してるの? もうみんな気にしてないからさ、そろそろ立とう……?」

 

 わっ、あ。あ。

 

「葉月さん……この衣装は男性ならばしょうがない事だと思います。ましてやまともなコントロールなど叶わない夢の中ですし……あまりご自分を責めては……」

 

 山田たすけて! 山田たすけて! 山田たすけて! 山田たすけて! 山田たすけて!

 バニー天国だと思ったら大間違い。

 これは夢の中ということで若干思考がフワフワしてる彼女たちの言動を絶対に真に受けず、やよいと先輩の前でちゃんと理性をもってこれまで闘ってきたことを証明しなければならないチキンレースなのだ。さながら戦場のバニーレーサーといったところ。わっぴ~!

 

「にゃーん」

「ハヅキ。先生がもう始めていいかって」

 

 あたりきシャカリキ山椒の木。

 はい指パッチン。

 もう一気に三段階まで上げちゃっていいよ。アクメしなければそれまで。

 

「んっ……理事長、どうですか?」

「驚嘆ッ! まさか八等分するとここまで平気になるとは! 生徒諸君はどうかな!」

 

 あからさまに問題無しなやよいと同様、他のみんなもフラつくような様子は見受けられない。

 いまここで正常じゃない感情に悩まされているのはただ一人──俺だけだ。

 それもシミュレーションなんざ関係ない。ただ男が持ちうる当たり前の感情として無理なのだ。バニー衣装の美少女たちに包囲されて逃げ場のないこの状況は限界を迎えるに足るものだろう。この観察眼、真贋の判断、時代の寵児。

 

「やったわね、葉月くん。これできっと倒れることもなくなるわっ」

 

 うおっサイレンスすっげヌルヌルして……住みたい街ランキング。

 

「葉月くん……?」

「……今から十秒以内に俺から離れないと全員襲う。いいな」

「えっ」

 

 おい情けねえメス! 返事しろ! めっちゃかわいいね♡

 マジでもうプッツンした。俺も我慢の限界だ。もし俺をからかってるんだとしたら誘ってるも同義だ。本当のマゾ。真実のマゾ。

 カウントダウン開始!

 十、九──残り二秒。

 二。

 一!

 

「………………」

 

 ──なんで全員頬染めたまま動かねえんだよ。

 もういい!!! エッフェル塔。

 そこから立ち上がって先生の元へ駆け寄った俺は、彼女の肩を揺らしまくってバニーガールたちよりも一足先に覚醒し、夢の世界から脱出した。

 

 

「っ!」

 

 目を覚ますとそこは自宅の布団の上。

 サイレンスを始めとして数多の美女たちが眠りながら俺の身体にくっ付いている。

 ここにいたら確実に性犯罪者になるルートを開拓してしまうと察した俺は、仕返しついでに眠ってるスズカちゃんのかわいい柔らかほっぺを揉み揉みしてから家を飛び出し、愛機のバイクに跨って夜の街へと駆けだした。

 

「ハヅキ。どこいくの」

 

 うるせぇ黙ってろ美しすぎる可憐な女!! いつの間に後ろ乗ってたんだお前かわいい!!! 俺が俺である為に夜を駆けて頭冷やすんだよ結婚して♡

 なんで負担を減らすための行動をしてたのにもっとデカい攻撃をくらってるのだろう。八分の一じゃなくて八倍の威力だよ? 交尾のスタンバイは完了ってわけだ。

 

「ん、怪異の気配。……五体くらい?」

 

 上等だ頭きたぶっ祓うてやる。仏の顔も三度まで。やっぱこれだね。

 

「……さっきまでのは夢でのシミュレーションで、現実世界ではまだ誰ともデュアルしてない。五連戦なんてしたら──」

「お前がいるだろ」

「っ……!」

 

 いつでもどこでもサンデーちゃん♡ あなたのお傍にお友だち♡ 御託は済んだかよマゾメス。

 別にどんなザコ怪異と闘おうが夏のイベントの時に対峙した激ヤバくん程ではないんだし、俺たちも成長してるのだから一体あたりにかかる対処時間も短縮できてるはずだろう。むしろそれを確かめる良い機会だ。

 

「……デュアルしに戻らなくてもいいの」

「お前がいれば大丈夫だっつってんだろ!」

「…………」

 

 そもそもデュアルの儀式が時間かかるしあいつら俺の高潔な恋心を乱しやがって。いかがなさるおつもりか? いつも通り二人で片づけた方が早いに決まってるだろ! 夜の帳。風情があるね。ブーゲンビリアの丘。

 仮にデメリットで三大欲求爆発してもデュアル対象たちがいない間に二人で済ませばいい。

 デュアルはあくまでもやよいに戦いを納得させるための手段であって、協力してくれたみんなの気持ちは涙がダム決壊するほど嬉しいが必須ではない。

 ドカ食いして爆睡して夢を見ればいいだけの話なのだ。まぁその具体的な()()()()()()()あいつらにも教えていないが。

 五連戦となると一回の夢では解消しきれない可能性もあるが、常日頃から一緒にいるのだからいつでもできるだろう。お前の心を俺の形にフィッティングしてやるからな♡ 静粛に。

 

「あれは──見つけた! とりあえずアイツから片付けるぞ、お嫁さん!」

「……うん。しよっか、ユナイト」

 

 と、そんなこんなで深夜のハイパー大運動会が開催され、結局全勝したがデメリットでボロカスになった俺たちは帰宅後、目を覚ました美少女たちと入れ替わるように布団の上へ倒れ込み爆睡をかますのであった。次誘惑してきたら全員娶るのでそのつもりでな。いかがでしたか? 続きは支援サイトで!

 

 


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