神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が見つかり、無職白石隆浩容疑者(27)が死体遺棄容疑で逮捕された事件で、唯一の男性被害者となった同県横須賀市の福祉関係職員、西中匠吾さん(20)が精神的な要因で6月末から約1カ月間、入院していたことが12日、分かった。所属バンドのメンバーらが横須賀市内で会見を開き、明かした。

 西中さんは介護関係の仕事、バンド活動と精力的に取り組んでいた。西中さんがベース担当として所属していた「BYE BYE NEGATIVES(バイ・バイ・ネガティブズ)」のリーダー、寺田敏也さん(34)は「ともに全力でやりすぎて疲れていたのかもしれない」と推察した。

 退院後、寺田さんや、他のバンド仲間、西川裕也さん(29)は、西中さんをなるべく1人にしないよう、8月中はバーベキューや花火大会、音楽フェスなどに連れて行った。ただ、退院間もないこともあり、処方された精神安定剤や睡眠薬に頼ることもあったという。

 8月20日には音楽フェス「サマーソニック」を見に行った。米ロックバンド「フー・ファイターズ」が登場すると「マックは自ら人をかき分けて最前列に行った。すごく興奮して『こんな風になりたい』と言っていた」と寺田さん。バンドマンとしての夢を語り、9月からは介護の仕事に復帰することも決まっていた。その矢先だった。

 同28日、大阪ライブから車で関東に戻ってきた時、寺田さんは「疲れたね」などと日常会話をして、それぞれ帰路についた。それが西中さんを見た、最後になった。翌29日には電話で会話。それ以降、行方不明になった。

 3日後、西中さんの両親から「3日帰っていない」と連絡が入った。無料通信アプリ「LINE」にメッセージを送っても「既読」にならず、嫌な予感がしたという。一方で、携帯電話にかけると、コール音が鳴り、つながる状態だった。

 さらに3日ほど経っても音信不通だったため、9月2日に携帯電話の位置情報を調べると同県海老名市にあることが分かった。しかし、同日午後4時ごろには、電話もつながらなくなった。

 その後、バンド仲間で西中さんの同級生らに情報を求めると、その中の数人が、西中さんが「自殺サークル」に関わっていたと証言。同サークル関係者と電話をしていたことも確認できた。同級生の1人は「退院してからバンド仲間と会う前に、自殺サークルの人と実際に会っていたのでは」と話したという。

 一方で、寺田さんによると、西中さんはベース技術を向上させようと、自らさまざまなバンドのベーシストに「今度ベースを教えてください」と頼み込んでいた。実際に、9月初旬にも違うバンドのスタジオ練習に参加する約束もしていた。

 寺田さんは「なぜ精神的な要因で入院したかは、おいおい聞いてあげたいとは思っていた。ただ退院直後に聞くのはまだ早いと…。だから1人にしないよう、ライブだけでなく、いろいろなところに連れて行った」と語り、「自分がなんで救えなかったんだろう…」と肩を落とした。【三須一紀、太田皐介】