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ゆう
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(2/2) - ゆうの小説 - pixiv
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11,001文字
(2/2)
特技:お金持ちの成金我儘転生令嬢が皆を救う話。
003
2023年4月5日 15:04


「あら皆さんご機嫌はいかがかしら!いやだ、ボロ雑巾みたいじゃない」

 皆さんこんにちは。世界レベルの金持ち、有栖川です。
 今日は蝶屋敷にて、無限列車、VS猗窩座で怪我をした人々のお見舞いにきています。

「有栖川さんはご無事みたいで」
「当たり前でしょう、私に傷一つでもついてごらんなさい、世界の損失だわ」

 目の前にはハハと笑うかまぼこ隊と、もうほぼ怪我の治ったカナエさん、錆兎さん、そして包帯ぐるぐる巻きの煉獄さんがいる。推しの痛ましい姿に涙がちょちょぎれそうだが、生きてるならオールオッケーだ!

「けれど私を守ったあなた達には報酬を出すわ! ほしい物を何でもいいなさい、現金でもいいわよ、言い値を払うわ。いっておくけれど、この世に私が買えないものは天皇陛下御用邸と総理官邸くらいよ!」

 持ってきたケースをばばーんと広げてやれば、そこにはお札が大量に入っている。この時代にジュラルミンケースはないからその代わりだ。ちなみにこの時代の初任給が四十円くらいなので、これはすさまじい額である。善逸くんなんかは目をぱちくりさせて、指を入れたくなるくらい口をあんぐり開けている。錆兎さんたちが金に興味がないのは知っているが、さすがにこの札束は見たことがなかったのが、目は大きく開かれていた。戦闘では本当に役に立てなかったからね、金の力で懺悔させてください。

「なんでもいいのか! そしたら俺ぁあの列車が欲しいぜ!」
「いいわよ! あの会社も買収できたから、特別に特急伊之助号って名前をつけてあげましょう」
「ひゃっほー!」

 あのあと無限列車は勿論再起不能になってしまって、それを嘆いていた爺さんに金をチラ見せして納得させてやった。運転させる列車の1つに無限列車は残し、それ以外はわが社が責任をもって発展させていく事になった。伊之助号、いいじゃない。世が世ならラッピングして走行させてただろう。

「え、俺は、俺はえーっとどうしよう!」
「電車が欲しいならくれてやるわよ。ただ、あなたは雷の呼吸の子でしょ? 桑島さんの所の子は、有栖川とつく所では元々お金払わなくていい事になってるから電車以外にしたらどうかしら」
「なにそれ⁉ 初耳ですがなぜ⁉」
「あなたの兄弟子に獪岳って子がいるでしょう? その子、私の何でも屋さんみたいな事をしてくれてるから、そのお礼」
「かいがくぅ⁈ よりなんで⁈」
「私が町で護衛がいなくて困ってた時に「金なら払うから私を守りなさい」ってお札をばらまいたら一番に志願してきたのよ」
「あいつらしい!!」

 善逸くん、叫びすぎではないだろうか。まぁ確かに、獪岳はどこかで救いたいと思っていたのだけど、思わぬ所で出会いがあり、文字通り金を浴びせてやったら従順になってくれた。まさしく金の奴隷だ。まぁでも私のあげた金も、桑島師匠に仕送りしているようなので大変可愛い奴なのである。

「私は大丈夫かなぁ。そもそも、有栖川さんが蝶屋敷の人員不足を解消してくれたお礼に行っただけですから」
「礼を要求するなど、男のすることではない。……それに、俺も義勇も戦いではどうにもならぬ所を助けてもらった。その礼だ」

 錆兎さんが、ちょっと恥ずかしそうに言う。
 私はこの国の医療が発展するように、医療分野にめちゃくちゃ投資しているのだが、その関係で蝶屋敷、産屋敷にも敏腕の医者一族を関わらせている。だってお館様にも長生きしてほしいし、蝶屋敷って超大変じゃん、ダジャレじゃないよマジだよ。救命病棟だよ、こりゃユースケも「救命は死んだ」とかいうよ! と思って、大量に医者看護師を導入した。おかげで今蝶屋敷は人員的にも潤っている状態だ。
錆兎さんについては、義勇さんとの沽券にもかかわりそうなのでこの場では伏せておこう。とりあえずお金がたくさんかかった事だけ教えておく。私にとっては端金だし、まぁどれがどれだけの額だろうと推しに使える金ははした金なのだけど。

「やはり! 二人は有栖川嬢が呼んでくれたのか!」

 原作通り片目をだいぶ損傷した煉獄さんが、しかし意気揚々とクソデカボイスで叫ぶ。しゃべんな! 傷が開くだろ!

「あなたとこのちびっこ共じゃ頼りなかっただけよ」
「よもや! 列車では俺の実力を、強く買っていてくれたと思ったのだが」
「なんのことかしら!」

 忘れろ!と いう意味をこめて食い気味に叫ぶ。意訳すると「忘れてください、お願いします」だけど。

「護衛のために行ったというのに、俺は何度も君に助けられてしまったな」
「私はいるだけで利益が生まれてしまうもの。そう思うのも無理はないけれど、戦闘においては特に役立ってないわ」
「そんなことないですよ!」

 炭治郎くんが思わず、といった風に横やりを入れてきた。彼はとっても素直だ。素直な事はいい事だけど、マズイ気配がする。

「有栖川さんは煉獄さんを守れって俺たちを鼓舞してくれました! 煉獄さんという人は未来のために生きるべきだといって、煉獄さんがやられたかも、って時もすごく悲しい匂いがして、それに俺のことまでかばってくれて……俺、今まで有栖川さんのことよく分かってなかったんですけど、今回のことですごく良く分かりました」

 実はすごいいい人なんですね!これからもよろしくお願いします! と、純真無垢な炭治郎くんの声が響いた。そして、空間が静まり返る。
 神よ、私に試練を与えてくれるな。
 いつも推しが尊くて祈る神へと苦言を申しつつ、しかし炭治郎くんの純真さが尊くて同時に神に祈った。

「あなたばかねー! そんなの、私が投資してる鬼殺隊、いわば企業の上位幹部に目をかけるのは当たり前じゃない! え? 意味が分からない?つまり鬼殺隊は弁当箱、柱はメインの卵焼きってことよ! 主役級よ! その卵焼きがなくなるかもしれない、っていうっていうんだからそりゃあ何かするに決まってるじゃないばかねぇ」

 追随を許さぬように息継ぎもせずにペラペラとしゃべった。弁当箱のたとえがよくわからない?わかるでしょ、白米はお館様だから。

「あ、あなたたちを助けるのは自分のためよ。あなたたちを育て、支援し、鬼を殺してもらう。私が移動する時は柱でさえ護衛につけてもうらって約束なんだから! 私がやることは別に貴方たち個人を思ってのことではなくて、ビジネス的に見て利益になることだけよ。それが分からないから、貴方たち貧乏人は騙されたり、借金したりして貧しい生活になるのよ」

 この発言には何人かがムっとした表情をする。いいぞぉと思ったところで、炭治郎くんがスンスンと鼻をならした。

「嘘をついてる、そんな匂いがします。なぁ、善逸」
「え? あーうん、焦ってる音は、するなぁ」

 やめてくれ。それ以上いってくれるな。冷や汗を流しつつ、あれ、こんな状態どうやって切り抜ければいんだろうって焦る。さすがに炭治郎くんを庇うのはやりすぎてしまったようだ。いやだけどああしないと推しがヤバイってわかったら誰もするでしょ! 皆の視線が生暖かくなるような気がして、私はケースの中の金をとりあえずばらまいた。

「この金で記憶を消しなさい! 、次にこの話をしたら、全員訴えて財産しぼりとってやるんだから!」

 嘘だけどね!!!
 うまい逃げ切り方法が分からなくて、一先ずそう言い残して私は逃走した。
 私は我儘成金令嬢有栖川。
 いい人なんて思われたら、やりにくくって仕方がない。明日からもっと我儘にふるまってやろう、そう思いつつ、でも、元気で生きている推しを見れて、その口は自然と笑顔になる。

「今日も推しが生きてるって素晴らしい!」

 そう叫んで、私は青い空の下に駆け出した。
プリズムの煌めきって感じだ。








おまけ



 その日、鱗滝錆兎、冨岡義勇は日常生活でこれほど血の気が引いたことがない。そう思っていた。
 珍しく2人の非番が重なり、師匠の鱗滝への土産を選んでいたその日、往来では今でいうフリーマーケットのような催事が行われていた。
反応の薄い義勇に壁打ちのように錆兎が話しかけつつ歩みを進めていると、催事の中でも閑散とした、一目で高級とかる出店が目に入る。いかにも高級そうな壺やら皿やらが所狭しと並び、皆ぶつからないように避けているようである。質と陳列の不釣り合いさを疑問に思いつつも、錆兎は横にいる人物に声をかける。

「おい義勇、ぶつからないように―」

 鈍くはないのになぜか事件を起こす兄弟弟子を見れば、隣にあった姿は既になく。視線を動かせばその高級な催事場で壺を1つ手に持っていた。

「錆兎、これなんて」
「おい義勇、お前それ!」

 お前は危なっかしいんだから! そういって腕をつかんだ瞬間、驚いたのか義勇が手を壺から離し、そのまま垂直に落下していく。

「っと!」

 落ちた壺を流石は鬼殺隊の瞬発力で受け取ってみせるが、そのせいでやや不安定な体制な姿勢となった。一応はキャッチしたと安堵したところ、しかし後ろからやってきた人込みによって押されてしまう。

「なに⁈」

 義勇の腕を咄嗟に話すも時すでに遅し。2名は催事場のテーブルに突っ込むように倒れていき、見事な音を立て卓上にあった陶器たちが飛び散らせる。

「ちょ、ちょっとお兄さんがた! 何してくれちゃってんだい!」
「いや、これはぶつかって来た人が」
「人のせいにするんじゃないよ! これがいくらするかわかってんのかい!」

 義勇が静かに詫びるが、店主は割れた陶器たちを見ながら憤怒する。錆兎は義勇の肩をつかみ、店主の顔を見た。

「言い訳は男らしくない。店主、ダメにしてしまった分は弁償しよう、いくらだ」
「そうさなぁ、ざっとみてだ×××円はくだらないね」
「……は?」
「×××円だよ! これは舶来の品でね!あちらの貴族方も御用達の、仕入れにも苦労した品なんだ! ここでは店の客寄せに置いていただけで、売り物じゃぁなかったんだがね」

 ×××円。
 超名門大学卒業生の初任給が四十円代といわれる大正時代。三桁に登る時点でかなりの高額であることが分かる。鬼殺隊柱クラスともなれば高級取りではあるが、さすがに「はい、どうぞ」と払える金額ではない。

「いくらなんでも高すぎではないないか⁉」
「いっただろう舶来の品だって、外国のものは高いんだよ! それに、弁償するっていったのお兄さんだろう!」

 うっと声に詰まる錆兎に、義勇が視線を送る。そんな目で見るな! と吠える中、店主は二人の羽織から見え隠れするソレに気が付いた。

「あ、あんたらなんで刀なんて持ってんだい! だ、誰か! 警官、警官を呼んでくれ!!」

 しまった、となるがいつの間にか周囲は人だかりになっており、容易に抜け出せる状態ではない。弁償のこともあれば、警察のこもあり、曲がったことが嫌いな錆兎がそのまま逃げだせるわけもない。前へ3 / 3 ページ次へ


おまけ



 その日、鱗滝錆兎、冨岡義勇は日常生活でこれほど血の気が引いたことがない。そう思っていた。
 珍しく2人の非番が重なり、師匠の鱗滝への土産を選んでいたその日、往来では今でいうフリーマーケットのような催事が行われていた。
反応の薄い義勇に壁打ちのように錆兎が話しかけつつ歩みを進めていると、催事の中でも閑散とした、一目で高級とかる出店が目に入る。いかにも高級そうな壺やら皿やらが所狭しと並び、皆ぶつからないように避けているようである。質と陳列の不釣り合いさを疑問に思いつつも、錆兎は横にいる人物に声をかける。

「おい義勇、ぶつからないように―」

 鈍くはないのになぜか事件を起こす兄弟弟子を見れば、隣にあった姿は既になく。視線を動かせばその高級な催事場で壺を1つ手に持っていた。

「錆兎、これなんて」
「おい義勇、お前それ!」

 お前は危なっかしいんだから! そういって腕をつかんだ瞬間、驚いたのか義勇が手を壺から離し、そのまま垂直に落下していく。

「っと!」

 落ちた壺を流石は鬼殺隊の瞬発力で受け取ってみせるが、そのせいでやや不安定な体制な姿勢となった。一応はキャッチしたと安堵したところ、しかし後ろからやってきた人込みによって押されてしまう。

「なに⁈」

 義勇の腕を咄嗟に話すも時すでに遅し。2名は催事場のテーブルに突っ込むように倒れていき、見事な音を立て卓上にあった陶器たちが飛び散らせる。

「ちょ、ちょっとお兄さんがた! 何してくれちゃってんだい!」
「いや、これはぶつかって来た人が」
「人のせいにするんじゃないよ! これがいくらするかわかってんのかい!」

 義勇が静かに詫びるが、店主は割れた陶器たちを見ながら憤怒する。錆兎は義勇の肩をつかみ、店主の顔を見た。

「言い訳は男らしくない。店主、ダメにしてしまった分は弁償しよう、いくらだ」
「そうさなぁ、ざっとみてだ×××円はくだらないね」
「……は?」
「×××円だよ! これは舶来の品でね!あちらの貴族方も御用達の、仕入れにも苦労した品なんだ! ここでは店の客寄せに置いていただけで、売り物じゃぁなかったんだがね」

 ×××円。
 超名門大学卒業生の初任給が四十円代といわれる大正時代。三桁に登る時点でかなりの高額であることが分かる。鬼殺隊柱クラスともなれば高級取りではあるが、さすがに「はい、どうぞ」と払える金額ではない。

「いくらなんでも高すぎではないないか⁉」
「いっただろう舶来の品だって、外国のものは高いんだよ! それに、弁償するっていったのお兄さんだろう!」

 うっと声に詰まる錆兎に、義勇が視線を送る。そんな目で見るな! と吠える中、店主は二人の羽織から見え隠れするソレに気が付いた。

「あ、あんたらなんで刀なんて持ってんだい! だ、誰か! 警官、警官を呼んでくれ!!」

 しまった、となるがいつの間にか周囲は人だかりになっており、容易に抜け出せる状態ではない。弁償のこともあれば、警察のこもあり、曲がったことが嫌いな錆兎がそのまま逃げだせるわけもない。どうしようかと義勇もさすがに考えた所で、警察が野次馬をかき分けて現れた。

「何事だ!」

 笛をならしつつ現れた警官数人に、、二人はさすがに逃げるしかないかと振り返った所で、そこに立っていたいた人物に息をのんだ。

「あら嫌だわ。なんの騒動かと思えば、あなた達だったの!」

 何割れた皿の上に突っ立てるのかしら、趣味?
 そう高らかに蔑むのは、見た目だけはおしとやかで、そんじょそこらにはいない身目をした少女。しかし、腕を組み、有り余る自信と共に仁王立ちする姿は、鬼殺隊でよく見た姿だ。
鬼殺隊最大支援者、我儘令嬢こと、有栖川がそこには立っていた。

「な、なぜこんな所に……」
「私の行動理由をなぜあなたに言わなきゃいけないのかしら。失礼な人ね、もっと取引先に言うみたいに言い直して頂戴」

 言ってる意味が分からん、と錆兎が呟く。
しかし有栖川は余裕の笑みを崩さないまま、義勇たちと警官を見比べて「なるほど」と零した。

「状況は分かったわ。私が解決しましょう、有り余る財力で」
「別に頼んでな」
「黙って頂戴。私に意見できるのは私より年収が高い人だけよ」
「なんて女だ……」
「聞こえてるのだけど」

 そんな錆兎の暴言もどこ吹く風。有栖川はまずは店主の前まで歩み出て、羽織の懐から札束を取り出した。そんな所に札束なんて入れるか、と周囲が引き気味の中、それをばらまくように店主の頭上へと振りまく。

「これで弁償させて頂くわ」
「な、え、これ」
「恐らく弁償金の十倍はあるでしょう。これでここは収めて頂戴。まぁ、もっと欲しいなら出る所に出て勝負してもいいわよ。勿論私が勝つけれど」
「お、俺はこの二人にいってるんであってあんたには」
「この二人は私の身内みたいなものよ。大事な私の家族みたいなものなの、だから払ってもおかしくないでしょう?」

 有栖川の発言に、警戒していた二人の力が緩む。大事な家族。そういってもらった事に、少し嬉しいと思っている自身に、二名は気づかない。

「さて次にお巡りさんだけど……」
「な、なんだね! 我々は帯刀違反を」
「黙って頂戴、さっき言ったのを聞いてなかったの? 私に意見していいのは私より年収が高くなってからだって。それは警察だろうが総理大臣だろうが一緒よ」
「なんだこの女」
「さっきから失礼すぎないかしら、皆」

 唖然とする店主を放置して、有栖川は警官二人の前へと歩みを進めた。

「もう分かってると思うけれど私の名は有栖川。この世で一番お金を持ってる人間よ」
「そんな自己紹介初めて聞きましたが」
「褒めても何もでないわよ、まぁそんな事実は置いておいて」

 褒めてない! という警官の半ギレが響くが、相変わらず有栖川はどこ吹く風である。

「私はおまわりさん達にも多額の寄付をしているの。あなた達みたいな下っ端じゃあ知らないかもしれないけれど、上層部なら私の名前を聞いただけで跪いて靴を舐めたくなるほどにね。でも、私はそんな支援をしてる人たちに捕まったとなれば明日からそれをを辞めなくてはいけないわ」
「わ、我々は別にあなたを逮捕しようとは」
「私はこの二人の同行者なの。二人を逮捕するというなら、私も一緒に逮捕なさい。勿論誤認逮捕として訴えるけれど。私が一秒で稼ぐはずだったお金も一緒にね! さて、あなたたちに払えるかしら」

 高らかに宣言する姿はまさにご令嬢。
 傲慢の極み、といった堂々たる雰囲気に、助けてもらっているハズの二人もドン引きしてしまって空いた口がふさがらないでいた。

「さて聞きましょうか。あなたたちは何をしにここに来たのかしら」
「そこの帯刀している二人を」
「だめね、もう一度聞くわよ、いい?もう一度だけ聞くわ。あなたたちは今何をしにここにいるのかしら?」

 警察二名が黙り込む。
 それを見て、有栖川はにんまりと笑顔を作って見せた。

「そうね! 視回りよね、素晴らしい心意気だわ! これだけ人が集まっているんだもの、何かがあるかもしれないものね! 前へ3 / 3 ページ次へ


おまけ



 その日、鱗滝錆兎、冨岡義勇は日常生活でこれほど血の気が引いたことがない。そう思っていた。
 珍しく2人の非番が重なり、師匠の鱗滝への土産を選んでいたその日、往来では今でいうフリーマーケットのような催事が行われていた。
反応の薄い義勇に壁打ちのように錆兎が話しかけつつ歩みを進めていると、催事の中でも閑散とした、一目で高級とかる出店が目に入る。いかにも高級そうな壺やら皿やらが所狭しと並び、皆ぶつからないように避けているようである。質と陳列の不釣り合いさを疑問に思いつつも、錆兎は横にいる人物に声をかける。

「おい義勇、ぶつからないように―」

 鈍くはないのになぜか事件を起こす兄弟弟子を見れば、隣にあった姿は既になく。視線を動かせばその高級な催事場で壺を1つ手に持っていた。

「錆兎、これなんて」
「おい義勇、お前それ!」

 お前は危なっかしいんだから! そういって腕をつかんだ瞬間、驚いたのか義勇が手を壺から離し、そのまま垂直に落下していく。

「っと!」

 落ちた壺を流石は鬼殺隊の瞬発力で受け取ってみせるが、そのせいでやや不安定な体制な姿勢となった。一応はキャッチしたと安堵したところ、しかし後ろからやってきた人込みによって押されてしまう。

「なに⁈」

 義勇の腕を咄嗟に話すも時すでに遅し。2名は催事場のテーブルに突っ込むように倒れていき、見事な音を立て卓上にあった陶器たちが飛び散らせる。

「ちょ、ちょっとお兄さんがた! 何してくれちゃってんだい!」
「いや、これはぶつかって来た人が」
「人のせいにするんじゃないよ! これがいくらするかわかってんのかい!」

 義勇が静かに詫びるが、店主は割れた陶器たちを見ながら憤怒する。錆兎は義勇の肩をつかみ、店主の顔を見た。

「言い訳は男らしくない。店主、ダメにしてしまった分は弁償しよう、いくらだ」
「そうさなぁ、ざっとみてだ×××円はくだらないね」
「……は?」
「×××円だよ! これは舶来の品でね!あちらの貴族方も御用達の、仕入れにも苦労した品なんだ! ここでは店の客寄せに置いていただけで、売り物じゃぁなかったんだがね」

 ×××円。
 超名門大学卒業生の初任給が四十円代といわれる大正時代。三桁に登る時点でかなりの高額であることが分かる。鬼殺隊柱クラスともなれば高級取りではあるが、さすがに「はい、どうぞ」と払える金額ではない。

「いくらなんでも高すぎではないないか⁉」
「いっただろう舶来の品だって、外国のものは高いんだよ! それに、弁償するっていったのお兄さんだろう!」

 うっと声に詰まる錆兎に、義勇が視線を送る。そんな目で見るな! と吠える中、店主は二人の羽織から見え隠れするソレに気が付いた。

「あ、あんたらなんで刀なんて持ってんだい! だ、誰か! 警官、警官を呼んでくれ!!」

 しまった、となるがいつの間にか周囲は人だかりになっており、容易に抜け出せる状態ではない。弁償のこともあれば、警察のこもあり、曲がったことが嫌いな錆兎がそのまま逃げだせるわけもない。どうしようかと義勇もさすがに考えた所で、警察が野次馬をかき分けて現れた。

「何事だ!」

 笛をならしつつ現れた警官数人に、、二人はさすがに逃げるしかないかと振り返った所で、そこに立っていたいた人物に息をのんだ。

「あら嫌だわ。なんの騒動かと思えば、あなた達だったの!」

 何割れた皿の上に突っ立てるのかしら、趣味?
 そう高らかに蔑むのは、見た目だけはおしとやかで、そんじょそこらにはいない身目をした少女。しかし、腕を組み、有り余る自信と共に仁王立ちする姿は、鬼殺隊でよく見た姿だ。
鬼殺隊最大支援者、我儘令嬢こと、有栖川がそこには立っていた。

「な、なぜこんな所に……」
「私の行動理由をなぜあなたに言わなきゃいけないのかしら。失礼な人ね、もっと取引先に言うみたいに言い直して頂戴」

 言ってる意味が分からん、と錆兎が呟く。しかし有栖川は余裕の笑みを崩さないまま、義勇たちと警官を見比べて「なるほど」と零した。

「状況は分かったわ。私が解決しましょう、有り余る財力で」
「別に頼んでな」
「黙って頂戴。私に意見できるのは私より年収が高い人だけよ」
「なんて女だ……」
「聞こえてるのだけど」

 そんな錆兎の暴言もどこ吹く風。有栖川はまずは店主の前まで歩み出て、羽織の懐から札束を取り出した。そんな所に札束なんて入れるか、と周囲が引き気味の中、それをばらまくように店主の頭上へと振りまく。

「これで弁償させて頂くわ」
「な、え、これ」
「恐らく弁償金の十倍はあるでしょう。これでここは収めて頂戴。まぁ、もっと欲しいなら出る所に出て勝負してもいいわよ。勿論私が勝つけれど」
「お、俺はこの二人にいってるんであってあんたには」
「この二人は私の身内みたいなものよ。大事な私の家族みたいなものなの、だから払ってもおかしくないでしょう?」

 有栖川の発言に、警戒していた二人の力が緩む。大事な家族。そういってもらった事に、少し嬉しいと思っている自身に、二名は気づかない。

「さて次にお巡りさんだけど……」
「な、なんだね! 我々は帯刀違反を」
「黙って頂戴、さっき言ったのを聞いてなかったの? 私に意見していいのは私より年収が高くなってからだって。それは警察だろうが総理大臣だろうが一緒よ」
「なんだこの女」
「さっきから失礼すぎないかしら、皆」

 唖然とする店主を放置して、有栖川は警官二人の前へと歩みを進めた。

「もう分かってると思うけれど私の名は有栖川。この世で一番お金を持ってる人間よ」
「そんな自己紹介初めて聞きましたが」
「褒めても何もでないわよ、まぁそんな事実は置いておいて」

 褒めてない! という警官の半ギレが響くが、相変わらず有栖川はどこ吹く風である。

「私はおまわりさん達にも多額の寄付をしているの。あなた達みたいな下っ端じゃあ知らないかもしれないけれど、上層部なら私の名前を聞いただけで跪いて靴を舐めたくなるほどにね。でも、私はそんな支援をしてる人たちに捕まったとなれば明日からそれをを辞めなくてはいけないわ」
「わ、我々は別にあなたを逮捕しようとは」
「私はこの二人の同行者なの。二人を逮捕するというなら、私も一緒に逮捕なさい。勿論誤認逮捕として訴えるけれど。私が一秒で稼ぐはずだったお金も一緒にね! さて、あなたたちに払えるかしら」

 高らかに宣言する姿はまさにご令嬢。
 傲慢の極み、といった堂々たる雰囲気に、助けてもらっているハズの二人もドン引きしてしまって空いた口がふさがらないでいた。

「さて聞きましょうか。あなたたちは何をしにここに来たのかしら」
「そこの帯刀している二人を」
「だめね、もう一度聞くわよ、いい?もう一度だけ聞くわ。あなたたちは今何をしにここにいるのかしら?」

 警察二名が黙り込む。
 それを見て、有栖川はにんまりと笑顔を作って見せた。

「そうね! 視回りよね、素晴らしい心意気だわ! これだけ人が集まっているんだもの、何かがあるかもしれないものね! さぁ皆さん、この素晴らしいおまわりさん二人に拍手を!」

 わざとらしい拍手を有栖川はパチパチとたてる。それにつられて、見ていた野次馬たちも薄い拍手をしはじめた。警官二人は怖気ずくように顔を見合わせ、逃げるように駆け足で去っていく。

「頑張る皆さんにもご褒美が必要ね、ただこれをもらった人は今日のことを他言無用にしなくちゃダメよ」

 そういって、有栖川は更に懐から出した札束を、空に向かって放り投げた。途中紐が解けて宙にお札が飛び散りだす。人々は唖然となっていたのも忘れて、そのお金に群がり出した。醜い欲望の姿を見て顔をゆがませた錆兎だったが、その中心に立つ有栖川を見つける。周りに札が散る中、それを眺める有栖川は見た目通り、儚く、しかしその情景から思わずつぶやいてしまった。

「まさしく成金……」
「失礼ね、助けてあげたのに!まぁでも、これで問題はチャラね! 金だけに!」

 その笑顔に、錆兎と義勇は黙り込む。
 本当は、欲望に群がる人々の中、凛と立つ姿を褒めたかったなどと、来てくれて助かったなどと、素直でない錆兎は思っても口にすることができなかった。

「ところで、これは借りだから、いつか別の形で返して頂戴ね?」

 そう言われるまで、一瞬でも有栖川が良い奴なのでは、と思ったことを錆兎は恥じた。





(2/2)
特技:お金持ちの成金我儘転生令嬢が皆を救う話。
003
2023年4月5日 15:04
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