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前の出来事で堪忍袋の尾が切れた私は、とにかく家から飛び出た。結束バンドのロイングループの最後のメッセージは私が送った「さようなら」というもの。
そのお別れの挨拶に、私は2つの意味を込めた。私がバンドを続けられるような心持ちではないという意思表明と、全員の好意に対するお断りの返事。つまり私は3人を同時にフった。
メッセージを送った時点で私は家にはいなかった。今は埼玉県のよく分からないビジネスホテルにいる。私はもう疲れたんだ。1週間くらいしたら家に帰るけど、これで皆にはしっかりと懲りてほしい。
スマホに入るメッセージは毎日しっかりとチェックしている。喜多ちゃんだけでなくリョウさんからも毎日すごい数のメッセージが送られてくるが、何が書いてあっても私は無視を決め込んでいるので問題はない。
それよりも気になるのは虹夏ちゃんのこと。あの人だけが何も言わない。一番メンタル的に不安定そうなあの人だけが。
「……怖いな」
彼女は……絶対に私のことを許していない。あの中で私を一番刺してきそうなのは、なんだかんだ虹夏ちゃんだと私は分かっている。
虹夏ちゃんに告白された3ヶ月前が一番幸せだったんだ。あの時私は恋愛のことなんて何も分からなくて、返事なんてできなかった。私が恋をしているわけじゃないのに流されて付き合うなんて、虹夏ちゃんに失礼だから。
でも、ちょっとだけドキッともした。
それが今でも本当に悔しい。自分の心の弱さが憎いよ。虹夏ちゃんは、どう見たって余裕なんてない。私のことしか見えていないのが痛いほど伝わってくる。その好意自体は私を全く嫌な気持ちにさせない現実。
喜多ちゃんやリョウさんにも同じことが言える。私が耐えられないのは、彼女達の自制心の欠如だ。こういう状況にケジメを付けるためにも、行動で示さなければならなかった。
もし虹夏ちゃんが、初めの頃のように私のお姉さんでいてくれたら、多分私は——
「あー! もう、最低っ。私最低だな、はぁ……」
「うん。最低だよ、ぼっちちゃん」
えっ!?
「何も言わないでこんなことするなんてさ」
部屋の中にいる。
虹夏ちゃんが!
「な、ななな何してるんですか!?」
「何って、話しかけてるんだよ」
「そうじゃなくてっ、鍵は!? 扉の鍵閉めましたけど!?」
「あたしがホテルまで付いてきたのには何も言わないんだ……鍵は最初から開いてたよ」
ああもう何やってんの私は!
「都外のホテルではガードが緩いんだね。ぼっちちゃんの新しい側面発見っ」
「いやあの、警察呼びますよ」
「あたしはお縄でバンドは解散。それでもいいの?」
「ぐう……」
「それにあたし、リョウや喜多ちゃんみたいに迷惑はかけないから」
「ここに来てる時点ですごく迷惑なんですけど」
「……ねえ、どうして最近そんなに冷たいの? 酷いよ。ぼっちちゃんはそんな人じゃない」
虹夏ちゃんはソファに腰掛けて、テーブルに小さな鞄を置いた。
私の方には寄ってこない。
「冷たくしなかったら皆が調子に乗るので」
「あたしは悲しいだけなのに」
「知りません。今の虹夏ちゃんは全然好きじゃないです」
「ぼっちちゃんにだって原因はあるよ。大体フるのだって昨日じゃ遅すぎだし」
「う」
「リョウとか喜多ちゃんにも随分デレてたみたいだし」
「デレなんかじゃないです!」
「大体、あたしへの返事保留してズルズル長引かせたのは——」
「ああーうるさいですーああー」
「皆を重くしてるのはぼっちちゃん自身だよ、そんなつもりが無いんだとしても」
そんな風に言われたって、私には方法が思い付かない。家出はどうやら効果なし、それどころか、皆の感情を逆撫でしているようだ。
「じゃあどうしろって言うんですか」
「どうしよっか」
「ちゃんとフればいいんですか?」
「嫌だ。嫌だよ。それだけは、あたしぼっちちゃんがいないとダメなんだ」
虹夏ちゃんは重い。俗に言うメンタルヘルス系のやつ。
でも私は虹夏ちゃんが嫌いになれない。
「……そしたら、これだけ約束してください」
虹夏ちゃんははっと顔を上げて、私の話に耳を傾けた。
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モテモテモテモテひとりちゃん。
ぼ虹。