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ゆう
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(2/2) - ゆうの小説 - pixiv
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9,510文字
(2/2)
【完結しました】
転生したビックリするほど金持ち女が、我儘成金令嬢を演じながら柱死亡案件を回避していく話。
004
2023年4月4日 13:41



 これ、有名な転生ってやつだし、鬼滅の刃の世界じゃん。
 私がそう気づいたのは、転生したこの世界で五年がたった時である。その時既にそこそこの大富豪であった有栖川家の長女に生まれ、蝶よ花よと育てられていた私は、庭の池に落ちた時にそれを思い出したのだ。
まぁそれも、私の前世の死因が溺死だからだと思うんだけど、その衝撃ったらなかった。目覚めた時はわんわん泣いて、そりゃもう両親と使用人を困らせたそうな。天井つきのベットとか初めてみたよ、その時。そのあと一週間くらいかけて前世の記憶を整理したんだけど、更にその数日後、神は私を見放したのか両親が暴漢に襲われる殺人事件が起きた。その死体を見た時に、私は気づいたんだ。これは、鬼に襲われた傷だって。世間では体の一部を持ち去る猟奇的殺人とか言われてたけど、これは食べられたのだ。鬼が人を喰う、これって前世の激推し漫画・鬼滅の刃ではないのか、てね。

 そうと知れば、両親の死を悲しんでいる場合じゃない。誰かわからん奴の手に渡りそうだった会社を死守して、どうにかこうにか頑張って会社をめちゃくちゃ大きくした。両親を慕う部下たちが私を支えてくれたし、未来の知識は流行を先読みしているようで、とても役に立った。、私がこの時代にも欲しいと思ったものを作ると、最先端すぎるのかバカ売れするのだ。おしゃれなお菓子とか、喫茶店とか、大正時代にはない物が頭の中には有りすぎる。
 そうして誰もが「有栖川」の名を知り、有名になった頃、私は産屋敷一族に支援を持ち掛けたのだ。ただ支援するだけではダメだ。藤の家紋の家は既にあるし、ただ金を払ってるだけでは推したちは救えない。
そう、私は鬼滅の刃箱推しなのだ。
 全員死なせない。その気持ちだけで両親が死んだのも我慢して、全然知らない経営のことも勉強して、有り余る金を用意した。そうして私はありえない程莫大な資金・支援を提供する代わりに、鬼殺隊を護衛として使う権利、そして方針にちょっとだけ口を挟める権利を手に入れた。まぁつまるところ大口すぎる株主になったと思ってくれていい。

 それから私は、知りうる原作知識を振りかざしながら、少しでも推したちが死なないように我儘娘を演じているのである。




 ――我儘成金令嬢、有栖川。
 そう囁かれた悪口に、胡蝶しのぶは可愛らしい顔をそのままに、先ほどまで目の前にいた人物を思い出していた。噂は全て的を得ている。口を開けば「私に尽くせ」のオンパレード。常に「金ならあるわ」と財力をひけらかし、金で動かない人間なんていないと豪語する。正直にいって裕福ではなかったしのぶにとって、好きな相手ではない。しかし、この我儘娘のおかげで、自分の姉胡蝶カナエが死を免れたというのも事実であった。
 あの日、姉のカナエが向かうハズだった任務の日。焦ったように有栖川は蝶屋敷へと駆け込んできた。どんな無理難題をいわれるか、と身構えた自分達に

『今日は任務はやめて、私とここで花札しなさい』
 
 そう言ってのけて、二人を拍子抜けさせたのであった。どう言いくるめたのかお館様の了承も得て、その日は我儘令嬢と花札をして本当に一日を終えたしのぶだったが、後日、カナエが行くはずだった調査任務に上弦の弐が出て隊士が亡くなった事を知る。
 姉カナエは強い。しかし単身上弦の鬼と相まみえては死んでいただろう。そうしたら自分は? カナヲは? 考えるだけで寒気のする、あったかもしれない事実。それがあの花札で回避できたと思えば、成金令嬢の我儘につきあうのも悪くなかった、としのぶは思ったものだ。
 だがその翌日、真っ黒の鴉のような姿をした彼女をしのぶは目撃してしまう。どこにいっていたのか、その顔は青白く疲れ切っているようであった。そうしてそれが、この時代ではまだ喪服が白だということを知らず、カナエの変わりに死んだ隊士の墓参りにいった有栖川だと知ることは一生ない。





――現場の恐ろしさを知らない、お遊び気分の有栖川。
 そういわれてもおかしくない。そう冨岡義勇は心の中で一人思った。
有栖川の言動は意味不明、制御不能、私利私欲、三拍子が揃う迷惑さ加減である。護衛にひっぱりだされた事は数知れず、自分がいかに金持ちか、という自慢話をしては自宅に帰る。鬼が出たら守りなさい、盾になりなさい。そういう有栖川は本物の鬼にあったことはないのだという。だからお遊び有栖川、といわれるのか。それもあるが、それだけではない。
 有栖川が鬼殺隊の支援に加わったある年、藤襲山での最終選別には隊士が複数人、見回りとして山に入ることとなったのだ。というのも

『なれなかったなら死ぬ⁉ そんなの頭おかしいわよ! 隊士になれなくたって隊を支える労働力にはなれるでしょ! 労働力っていうのがどれだけ大切か一から説明してあげましょうか! さぁここに座りなさい、私が労働基準法と最低賃金から話をしてあげるわ』

 とよく分からないことを熱弁しはじめた有栖川のせいだという。これまであった“七日間生き抜く”という内容で、できなかった者は死ぬ、という厳しいルール。しかし、改正後は鬼に殺されそうになったものは現役隊士が助け、しかし一生隊士になることはできず選別から退場する、というルールに変わったのだ。これを甘い、隊士の質低下に繋がると反対したものも多かったが、生き残ったものは藤の家紋の家で働いたり、隠になったりと確かに鬼殺隊の人員は不足することがなくなったので何ともいえない結果も出てしまった。まんまと有栖川の要求が通ってしまったのである。

 そして義勇はそんな選別を兄弟弟子の錆兎と共に受けた。そこで、兄弟子たちを喰った手鬼といわれる存在に出会う事となる。動けなかった自分と違い、錆兎は立ち向かった。そして負けて殺されそうになった所を隊士に助けてもらったのだった。だが、新人隊士が相手する鬼ではないということで、錆兎は退場を免れて、一緒に入隊を果たした。
 あれは有栖川のおかげといっていいのかどうなのか、そう思いつつも、義勇はそれを知るせいか皆のいうように有栖川を嫌いになれないでいた。
 そして先日、有栖川が密に行う慈善活動に、鬼によって孤児になった子どもたちの保護施設運営があると知り、義勇はまた一つ、有栖川を嫌いになれなくなるのであった。






「さて、今日も護衛はあなたなのね。炎柱さん」
「うむ、俺が担当させて頂く! というより、あなたが指名するからなのだがな!」

 柱合会議でやんややんや口を出させてもらった私は、いつも自分の家に帰るとき隊士を一人、護衛につけてもらう。昼間だから絶対大丈夫だけど、色んな人を救済して竈門兄妹が合流した今、一番死に近いのはこの人、炎柱煉獄杏寿郎さんだ。八、九巻で泣いたのは私だけじゃないだろう。絶対救ってみせる。絶対にだ。という思いから、最近はいつも護衛につけて、ある程度行動を把握したいからだけど。

「私の護衛ができること光栄に思ってほしいわね! いくらでも追加金なら払うわよ」
「金はいらぬ! これも任務だからな」
「あらそう、欲しくなったらいつでもいいなさい」

 こうして我儘成金令嬢を装うのも板についてきた。
それにしても煉獄さん、元から分かっていたたけど本当にいい人である。私の我儘っぷりにも嫌な顔一?ふuつせず、相変わらずどこを見てるかわからないけど、誠心誠意尽くしてくれる。ついついお芋や好物を上げたくなっちゃうんだけど、それも「庶民への施し!」とか言わなくちゃいけないので、なかなか骨が折れる。

「して有栖川嬢。聞きたいことがあるのだがいいだろうか」
「今日の私は機嫌がいいわ。特別に許しましょう」
「感謝する! 今日の傷、あなた程使用人を抱え、不自由ない暮らしをしている方が、いかがして負ったものなのか。護衛として聞かせて頂きたい!」
「あらいやだ、さっきも言ったでしょ。ただ転んでついたのよ」
「見れば枝等で派手に切ったようにお見受けする。随分と大胆に転んだようで…」

 よもやおっちょこちょいなのでしょうか。
とでも言いたいのか、え~という顔で煉獄さんが私を見た。いやいや不注意だよ、そういうこともあるよ、金持ち令嬢だってケガすることはあるよ。

「私がひっかけた枝はその罪で伐採してしまったからいいのよ」
「伐採! 転んだだけで」
「私の肌に傷をつけたんだもの、当然よ」

 嘘だし生えてるけどね! だって藤の木だからさ、抜くわけにいかないじゃない? でもこういった方が煉獄さんの印象も悪くなるだろうし、我儘野郎って思われていたほうが救済の時の謎行動も「我儘だから」で済むしね。

「ありす~!」

 視認できる距離で、藤が咲き乱れる町が見えてくる。あれは私の屋敷がある町で、今回の産屋敷家からまぁ歩ける距離にある。あんだけ咲いてると疑われそうだが、そこは抜かりなく元々名産だった所に家を建てたのだ。私が色々町内整備なり様々な事に手を出したおかげで、有栖川町なんで有難いあだ名がある。豊田市みたいなもんかな。そんな町の入り口で何人かの子どもが私にむかって手を振っていた。いつも町の外には出んな!っていってるのに、本当にいうこと聞かないガキんちょどもだ。

「ありすー! 帰ってくるのおせぇよ!」
「今日私と遊んでくれるっていったぁ」
「ちがうよ、わたしとだもん」
「あーはいはい、順番ね、順番」

 わらわら寄ってくるガキんちょどもを軽くあしらいつつ、その頭を撫でてやる。一番先頭の黒髪の子は、近々水の呼吸の育手の元にいく予定だ。この子たちは鬼によって家族を殺された子たちで、私が作った孤児院の子たちだ。私はそうした子どもを保護しつつ、もしその子が隊士になりたいといったら育手との橋渡しもしている。育手への援助もしているし、なりたい夢があるならそれは応援する派だ。でも絶対に死ぬなよ、フリじゃないぞっていつも言っている。

「俺は来週までしかいねぇんだから、皆俺に譲れよな!」
「ずるーい! 最近いつもそうやってありすを独り占めする!」
「し、してねぇよ!」
「してるよー!」

 周りの子はそう非難しつつも、鬼殺隊になる道を選らんだ仲間を尊敬しているようだ。いつもならもう少し粘る所だが「先に帰ってるからね!」と走っていく。残った子は、隊士志望の少年で、やっぱり気になるのか横の煉獄さんを見た。

「ありす、この人はしら、ってやつ?」
「そうよ、あんたの未来の上司みたいなもんだから敬語使いなさい」
「未来のじょうし……」

 煉獄さんにもこそっと紹介してあげて、若い芽大好きまんの煉獄さんはニコニコと少年を見る。しかし少年は私の足にまとわりついて、少し隠れるようにしながら煉獄さんを見た。そして意を決したようにキっと睨む。

「将来あんたより強くなって、俺がありすを守るんだからな! あんたはただのまおとこだ!」
「ま、間男だと⁉」
「ちょ、あんた間男の意味わかってんの⁉」

 ベーと舌をだし、少年は私の後ろへと隠れた。正直可愛いし照れるし嬉しいけど、子ども好きがばれるのは成金令嬢としは少々頂けない。

「俺は死んでもありすを守るからな! ありす、そしたらかすてらいっぱい食わせてくれよな!」

 くう~かわいい事いいがやる。
だけどこれは頂けない。この子は小さい頃から私が面倒を見てる子で、弟みたいに可愛がってきたからこんなに懐いてくれているのだ。私もとてもかわいがっているから、だからその肩に手をおいてきちんと目を合わせた。

「馬鹿ね、カステラ作ってるのも私の会社よ。だから、死ぬなんていったらダメよ。死んだら、お墓に嫌いなニガウリしか持っていかないわよ!」
「それは嫌だ……」
「だったら絶対生きるのよ。隊士になんてなれなくたって、生きてるだけでいいんだから」

 そうして抱きしめてあげたら相手も抱きしめ返してくれる。暖かいこの子の温もりが失われることがないようにギュっと抱きしめて、よし! といって送り出す。すぐ追いつくと言えば、しぶしぶ先にいった子たちを追った。この町は隊士なら無料で使える店も多いから、上弦の鬼でも来ない限りは安全だ。そしてふっと立ち上がれば、微笑ましいです、って顔で煉獄さんがこちらを見ていた。これは非常にまずい展開だ。どうにか悪役成金っぽさを出さなくては。

「そんな顔をして、私がいい人だとでも思ってるのかしら」
「今のを見れば誰もがそう思うのでは? 俺も、あなたの見解を変える必要があるように思いましたが」
「柱といえどやっぱり人ね。あれは将来を見据えての事よ。ああして私に懐かせておけば、将来強い隊士になった時に真っ先に私を守ってくれるじゃない?」
「よもや、そのようなことを」
「いいことを教えてあげるわ、炎柱さん。金や権力では、本当の意味で人間を支配することはできないのよ。その二つ、そして恐怖で縛っては、喜んで私のために命を差し出す隊士は作れないわ」

 ちょっと苦しいかもしれない。だけど、煉獄さんはぐるぐるの目を更にぐるぐる回しているから、まぁ悩んでくれてるんだろう。この人に良い人だと思われるわけにはいかないのだ。前へ3 / 4 ページ次へ


「さて、今日も護衛はあなたなのね。炎柱さん」
「うむ、俺が担当させて頂く! というより、あなたが指名するからなのだがな!」

 柱合会議でやんややんや口を出させてもらった私は、いつも自分の家に帰るとき隊士を一人、護衛につけてもらう。昼間だから絶対大丈夫だけど、色んな人を救済して竈門兄妹が合流した今、一番死に近いのはこの人、炎柱煉獄杏寿郎さんだ。八、九巻で泣いたのは私だけじゃないだろう。絶対救ってみせる。絶対にだ。という思いから、最近はいつも護衛につけて、ある程度行動を把握したいからだけど。

「私の護衛ができること光栄に思ってほしいわね! いくらでも追加金なら払うわよ」
「金はいらぬ! これも任務だからな」
「あらそう、欲しくなったらいつでもいいなさい」

 こうして我儘成金令嬢を装うのも板についてきた。
それにしても煉獄さん、元から分かっていたたけど本当にいい人である。私の我儘っぷりにも嫌な顔一つせず、相変わらずどこを見てるかわからないけど、誠心誠意尽くしてくれる。ついついお芋や好物を上げたくなっちゃうんだけど、それも「庶民への施し!」とか言わなくちゃいけないので、なかなか骨が折れる。

「して有栖川嬢。聞きたいことがあるのだがいいだろうか」
「今日の私は機嫌がいいわ。特別に許しましょう」
「感謝する! 今日の傷、あなた程使用人を抱え、不自由ない暮らしをしている方が、いかがして負ったものなのか。護衛として聞かせて頂きたい!」
「あらいやだ、さっきも言ったでしょ。ただ転んでついたのよ」
「見れば枝等で派手に切ったようにお見受けする。随分と大胆に転んだようで…」

 よもやおっちょこちょいなのでしょうか。
とでも言いたいのか、え~という顔で煉獄さんが私を見た。いやいや不注意だよ、そういうこともあるよ、金持ち令嬢だってケガすることはあるよ。

「私がひっかけた枝はその罪で伐採してしまったからいいのよ」
「伐採! 転んだだけで」
「私の肌に傷をつけたんだもの、当然よ」

 嘘だし生えてるけどね! だって藤の木だからさ、抜くわけにいかないじゃない? でもこういった方が煉獄さんの印象も悪くなるだろうし、我儘野郎って思われていたほうが救済の時の謎行動も「我儘だから」で済むしね。

「ありす~!」

 視認できる距離で、藤が咲き乱れる町が見えてくる。あれは私の屋敷がある町で、今回の産屋敷家からまぁ歩ける距離にある。あんだけ咲いてると疑われそうだが、そこは抜かりなく元々名産だった所に家を建てたのだ。私が色々町内整備なり様々な事に手を出したおかげで、有栖川町なんで有難いあだ名がある。豊田市みたいなもんかな。そんな町の入り口で何人かの子どもが私にむかって手を振っていた。いつも町の外には出んな!っていってるのに、本当にいうこと聞かないガキんちょどもだ。

「ありすー! 帰ってくるのおせぇよ!」
「今日私と遊んでくれるっていったぁ」
「ちがうよ、わたしとだもん」
「あーはいはい、順番ね、順番」

 わらわら寄ってくるガキんちょどもを軽くあしらいつつ、その頭を撫でてやる。一番先頭の黒髪の子は、近々水の呼吸の育手の元にいく予定だ。この子たちは鬼によって家族を殺された子たちで、私が作った孤児院の子たちだ。私はそうした子どもを保護しつつ、もしその子が隊士になりたいといったら育手との橋渡しもしている。育手への援助もしているし、なりたい夢があるならそれは応援する派だ。でも絶対に死ぬなよ、フリじゃないぞっていつも言っている。

「俺は来週までしかいねぇんだから、皆俺に譲れよな!」
「ずるーい! 最近いつもそうやってありすを独り占めする!」
「し、してねぇよ!」
「してるよー!」

 周りの子はそう非難しつつも、鬼殺隊になる道を選らんだ仲間を尊敬しているようだ。いつもならもう少し粘る所だが「先に帰ってるからね!」と走っていく。残った子は、隊士志望の少年で、やっぱり気になるのか横の煉獄さんを見た。

「ありす、この人はしら、ってやつ?」
「そうよ、あんたの未来の上司みたいなもんだから敬語使いなさい」
「未来のじょうし……」

 煉獄さんにもこそっと紹介してあげて、若い芽大好きまんの煉獄さんはニコニコと少年を見る。しかし少年は私の足にまとわりついて、少し隠れるようにしながら煉獄さんを見た。そして意を決したようにキっと睨む。

「将来あんたより強くなって、俺がありすを守るんだからな! あんたはただのまおとこだ!」
「ま、間男だと⁉」
「ちょ、あんた間男の意味わかってんの⁉」

 ベーと舌をだし、少年は私の後ろへと隠れた。正直可愛いし照れるし嬉しいけど、子ども好きがばれるのは成金令嬢としは少々頂けない。

「俺は死んでもありすを守るからな! ありす、そしたらかすてらいっぱい食わせてくれよな!」

 くう~かわいい事いいがやる。
だけどこれは頂けない。この子は小さい頃から私が面倒を見てる子で、弟みたいに可愛がってきたからこんなに懐いてくれているのだ。私もとてもかわいがっているから、だからその肩に手をおいてきちんと目を合わせた。

「馬鹿ね、カステラ作ってるのも私の会社よ。だから、死ぬなんていったらダメよ。死んだら、お墓に嫌いなニガウリしか持っていかないわよ!」
「それは嫌だ……」
「だったら絶対生きるのよ。隊士になんてなれなくたって、生きてるだけでいいんだから」

 そうして抱きしめてあげたら相手も抱きしめ返してくれる。暖かいこの子の温もりが失われることがないようにギュっと抱きしめて、よし! といって送り出す。すぐ追いつくと言えば、しぶしぶ先にいった子たちを追った。この町は隊士なら無料で使える店も多いから、上弦の鬼でも来ない限りは安全だ。そしてふっと立ち上がれば、微笑ましいです、って顔で煉獄さんがこちらを見ていた。これは非常にまずい展開だ。どうにか悪役成金っぽさを出さなくては。

「そんな顔をして、私がいい人だとでも思ってるのかしら」
「今のを見れば誰もがそう思うのでは? 俺も、あなたの見解を変える必要があるように思いましたが」
「柱といえどやっぱり人ね。あれは将来を見据えての事よ。ああして私に懐かせておけば、将来強い隊士になった時に真っ先に私を守ってくれるじゃない?」
「よもや、そのようなことを」
「いいことを教えてあげるわ、炎柱さん。金や権力では、本当の意味で人間を支配することはできないのよ。その二つ、そして恐怖で縛っては、喜んで私のために命を差し出す隊士は作れないわ」

 ちょっと苦しいかもしれない。だけど、煉獄さんはぐるぐるの目を更にぐるぐる回しているから、まぁ悩んでくれてるんだろう。この人に良い人だと思われるわけにはいかないのだ。ボロが出る前にもう去ろう。

「さて、私はもう行くわね。今日も護衛ご苦労様。今度も指名させて頂くわ」
「う、うむ!」

 まだ考えがまとまってない煉獄さんを背に、とっととずらからせてもらう。無限列車の経営会社は今買収を進めてる。うまくいけば下弦の手伝いをする人間たちの乗車もどうにかできるかもしれないし、成功したら無限列車なんて縁起の悪い名前は「有栖川電鉄」とかに変えてやるわ! そう思いつつ、私は買収案件を頭で進めながら、自分が作り上げた屋敷へと入っていった。






「どうか、有栖川様を嫌いになられないでくださいませ」

 悪い噂の絶えない鬼殺隊最大の支援者、有栖川を見送っている所で、煉獄杏寿郎は一人の女性に声をかけられた。それは子どもたちと一緒にやってきたやや年配の女性で、お手伝いさんか子どもの目付け役のような格好をしている。

「嫌いになどと! 有栖川令嬢がしてくれている支援は、我らにとってなくてはならないものですから」

 通称有栖川町の人間は、鬼殺隊のことを知っている者がほとんどで、有栖川がその支援をしていることも理解している。だからこそ、この町では身分を偽ることも日輪刀を隠すこともしなくて良い為、入口の杏寿郎からもちらほらと隊士の姿が目に留まった。
 杏寿郎の発言に、しかし女は納得しなかったのか、おずおずと話しをつづける。

「あぁはいっておられましたが、有栖川様はとても優しい方なのです」
「優しい、ですか」
「この町の人間はほとんど鬼に家族を殺されたり、理由があって故郷を離れた流れ者が多いです。そんな我々を迎え入れてくださり、鬼除けの藤の花の手入れ業者も欠かさず、ああして孤児たちにも優しく接してくださる。町にいるあの方は、鬼殺隊の皆々様と話す時とは全く異なる雰囲気なのです」
「ううむ、それが本当ならなぜあのように冷たい発言をされているのか……」
「それは私にはわかりかねます…。ですが、昨日も木から降りられなくなった子どもを受け止めて腕に怪我をされて……」
「あぁ、左手をざっくりと切っていたな! だが、その木も伐採してしまったと聞いたが」
「とんでもない! それどころか「藤の木なら仕方がないわね! むしろ鬼除けの護りがついたかもしれないわ」なんて笑っていらして、私たちの方が慌てたくらいで……。私はあの方の、そういう所が大好きなのです」

 女性から語られる有栖川の真実に杏寿郎はぱちくりと瞬きをした。
 柱として、人の目利きには自身があったが、今日はそれを覆す出来事が多々起きている。

「(この女性が嘘をいっているようには思えん。しかしこれまで繰り替えされてきた横暴な言動、どちらを信用すべきか……)」

 杏寿郎はそのまま、有栖川が去っていった方へと視線をやった。

「どちらが本当の貴方なのか、これは暴きがいのある」

 舌なめずりこそしなかったが、それは獲物を捕らえるようだったと、手伝いの女は後に語る。
 しかし数週間後、言い渡された任務で更に彼女の裏の面を知ることになるとは、知るよしもない。





(2/2)
【完結しました】
転生したビックリするほど金持ち女が、我儘成金令嬢を演じながら柱死亡案件を回避していく話。
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2023年4月4日 13:41
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