pixivは2022年7月28日付けでプライバシーポリシーを改定しました詳しいお知らせを見る
「お姉ちゃん」
「うん」
「いよいよだね」
「だね」
「今日までほんとにありがとう。頼りすぎたくないって言いながら沢山頼っちゃってごめんね」
「いいって。お姉ちゃんができることなら何でもやるつもりだったんかから。でも、ふたりは自分でもよく頑張ってきたよ。それから、お礼を言うのはまだ早いんじゃないかな。本番はまだだよ」
「そうだね。あとちょっとだけよろしく!」
ついに文化祭ライブの日がやって来た。私たちが出る有志のステージは午後からある。部外者のお姉ちゃんと喜多ちゃんが出るための許可を取りに学校側に許可を取りに行ったのは7月のことだった。担当の先生はギターヒーローのファンで結束バンドのことも知っていたので、すぐにOKしてくれた。こういう時はお姉ちゃん達がそこそこ有名でよかったと思う
「任せて。そういえば私達が出ることは生徒には知らせてあるの?」
「ないよ。私が所属するバンドが出るってことしか書いてないの。お姉ちゃん達の力を使わずに宣伝したよ」
「そっか。中学ってステージ発表は生徒は全員参加だったよね?」
「うん。高校ほど自由じゃないからね。だから人がいるのは確定」
「あとはどれだけ注目してもらえるか、だね。実際どうなの?」
「えっとね…」
私の友達やクラスの人なんかは割と楽しみにしてくれているみたいだ。ありがたい。あとギターヒーローの妹がバンドを組んで演奏するという噂(というか事実)が広まっていて、それなりに注目してもらえているらしい。これに関してはお姉ちゃんの力だけどね…。自分でも宣伝はしたけど効果あったのかな?
「まあ、そこそこ期待されてるかも?結局お姉ちゃんの力を借りる形になっちゃったけど」
「ごめんね、お姉ちゃんがそこそこ有名で…」
「超むかつく…私だって宣伝したもん!」
「分かってるよ。そういえばこの前の路上ライブのことで来る人もいるかもね、ちょっとだけ話題になっちゃったし…。生徒以外も見れるんだよね?」
「うん。だから虹夏ちゃん達や1号さん2号さんも入れるはず。もし見れるのが保護者オンリーだとしても、一応みんな私の保護者ってことでいいよね?」
「いけるかな…いけるか。虹夏ちゃん達ならなんとかできるでしょ」
みんな私のお世話してくれたからね。ちなみにこの前やった路上ライブは結局SNSにその様子を上げた人がいてちょっとだけ話題になった。私のことも少し認知されたみたいだけど、お姉ちゃん達があまり話さなかったみたいで大事にはならなかった。感謝してます
「バンドって私達だけ?」
「バンドはね。他は合唱部とかなんか一芸ある人とかかな」
「ふーん、私の頃から変わってない気がするな。やっぱり中学でバンドって凄くレアじゃない?虹夏ちゃんとリョウ先輩は中学の文化祭でライブしたらしいんだけど…」
「やっぱりそうだよね?それはあの人達が特殊だと思う…。期待されてるのはそのせいもあるか。お姉ちゃん、ダイブしないでよね?高校の時酷かったらしいじゃん」
「絶対しない…!げふっ…」
「あ、ごめん…」
またトラウマ呼び覚ましちゃった…。怪我したらしいしそりゃもうやらないよね…
「ふたりちゃん、遅刻するわよー」
「あ、やばっ。じゃあ行ってくるね!ちゃんと後で喜多ちゃんと来てね!裏口からこっそりとだよ」
「分かってるって。一応母校だから場所も覚えてるはず…はずだよ…」
「心配だ…。分かんなかったら地図見なよ。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
生徒は普通に朝からあるので登校しなければならない。直前に練習する時間はあるけど、短いからちょっと不安だなあ。でも頑張ろう!
————————————————————
「…ふう。喜多ちゃんが来るまで待つか」
ふたりが中学に行ってしまったので暇になってしまった。思えばここ数か月、ふたりといっぱい話したなぁ。今までも普通に話してはいたけどここまでじゃなかった気がする。私が家にいる時間が短かったせいだけどね。最近はなるべく帰るようにして家族と話す時間を作った。私にとってもいいことだったみたいで、近頃周りの人から演奏の調子いいねって言われることが多い。もっと家族を大事にします。今まですみませんでした
仕事もなるべく減らさないようにして、ギターヒーローの動画も撮って、ふたりにギターを教えて…忙しかったけど充実してたな。中学までの私が見たら驚くだろうな。今でもたまに驚いてるし。後は作詞も1曲多くやったからちょっとだけ忙しかったな。今回、ふたりのためにリョウ先輩と曲を作った。この後のライブで披露する予定だ。曲名はふたりに決めて欲しいと言ったらすぐに決めてくれた。その題にした理由を聞いたら、なんだか感動して泣きそうになってしまった。歳かな…まだ若いけどなあ
ピコン
「あ、喜多ちゃんかな」
ロインが来た。思った通り喜多ちゃんからだった。『もうすぐ着くから待っててね!』と書いてある。『分かりました』…と、送信。あれ、虹夏ちゃんからも来てる。気づかなかったな。彼女からのロインを無視するなんて死刑になりかねないからすぐに見ないと
『おはよう!今日はあたしたちも行こうと思うんだけど、いいのかな?』
これはあれだ、部外者は行ってもいいかよく分からないから聞いてきたんだよね。私達も同じことを話したばかりだ。そうだ、お母さんに聞こう。私は下に降りてお母さんに尋ねた
「お母さん、虹夏ちゃんに聞かれたんだけど今日のステージって保護者以外も行っていいの?」
「プリントには制限があるとは書いてなかったし、いいんじゃないかしら?もしダメでもみんな保護者みたいなものだし大丈夫よ。あ、もちろんお母さん達も行くからね。ひとりちゃんとふたりちゃんが揃ってステージに立つなんて夢みたい!」
「いやー本当に楽しみだよ。ひとり、ふたりをしっかり支えてやってね」
「お父さん。分かってるよ。私と喜多ちゃんはそのために行くんだから。じゃあ行っていいって虹夏ちゃんに言っておくね」
「うん。そうしてあげて」
部屋に戻って早速返信をする。お母さん、私達と同じこと言ってたな。別に怪しい人達が行く訳じゃないからいいよね?え、バンドマンは怪しい?まあ…言い返せない…けど虹夏ちゃんだけは許してあげて欲しい…
『オッケー、あたしってぼっちちゃんの保護者だし大丈夫だよね!』
…彼女に舐められてるんですが。でも返す言葉がない。事実だから…本当にいつもお世話になっております。でもゲストの保護者は入れるんだろうか…
『じゃあリョウとお姉ちゃんと行くから。楽しみにしてるよ!』
追加で返信が来た。私よりふたりに言って欲しいけど、それは野暮だよね。ちゃんと私も仕事するよ。見ててね
『はい、見てくださいね』
ピンポーン
「喜多ちゃんいらっしゃーい」
「今日はうちの娘達をよろしくね」
暫く部屋でギター練習とかをしていたら、下でチャイムとお母さん達の声が聞こえてきた。喜多ちゃんが来たようだ。決してだじゃれではない。私も再び下に向かう
「あっ喜多ちゃんおはようございます」
「おはようひとりちゃん。今日はよろしくね」
「あっはい。こちらこそよろしくお願いします。ふたりの分も合わせてお願いします」
「うん。もう出た方がいいかしら?時間に余裕はあると思うけど」
「あっそうですね。実は生徒が体育館に集まってる隙に来て欲しいとのことなので、もう行かないといけないんです」
ちょうど今は全校が体育館に集まっているらしい。午後も集まるけどね。私たちがステージに出る前に生徒に見つかると騒がれるかもしれない、とふたりと関係者が考えたようだ。ま、まあちょっとは有名だからね…へへ…
「なるほど…まあ、私達ちょっとは有名だもんね。えへへ…」
「うへへ…」
(喜多ちゃん、うちのひとりに似てきてるような…)
「じゃあ行こうか。すみません来たばかりなのに。最近何回もお邪魔して申し訳ありませんでした。2人のことはお任せください!」
「そんなにかたくならないでよ。喜多ちゃんのことは信頼してるからよろしくね」
「そうよ。はいこれ、喜多ちゃんの分もお弁当作ったんだけど、要らなかったかしら?」
「えっありがとうございます!すみません本当に。お昼のこと考えてませんでした」
「それはよかったわ。はい、ひとりちゃんも」
「ありがとう。じゃあ行ってくるね。喜多ちゃん、行こう」
「うん!」
「あ、待ってひとり」
「え?」
「ふたりが隠し玉持ってるけど、それをやりだしても止めないでね」
「隠し玉?」
「詳しくは言えないけど、まあ楽しみにしててよ。じゃ、行ってらっしゃい」
「うん、分かった…行ってきます」
隠し玉…お父さんと何かこっそり練習したのかな。わざわざ言うってことはかなり変なことするのかな?まさかダイブ!?お父さん、それは止めるからね!
「ねぇ、ひとりちゃんも今から行く中学に通ってたのよね?」
「あっはい。ふたりと家が同じなので…」
「それはそうよね…。中学生のひとりちゃんって…ごめんなさい。聞かなかったことにして」
「あっはい…」
喜多ちゃん、言いかけてからやっぱりやめるのよくないよ。気を遣ってくれたのは分かるけど、私の中学時代に何もなかったことを察して黙られると結局傷つくから…
「でもよかったじゃない、当時は何もできなかった中学校で数年越しにライブできるんだから。中学生の頃から文化祭ライブしたかったんでしょ?」
「あっはい。今日の主役はふたりですけど、私の弔い合戦でもあります」
「誰も死んでないわよね…?でもそういうことなら一層気合い入れなくちゃね。後藤姉妹のためにこの喜多郁代、精一杯頑張ります!」
「ありがとう喜多ちゃん。私も頑張るよ。いっそのこと本気出しちゃおうかな…」
「大人気ないわよ…。でも、ふたりちゃんがメインといっても私達が下手にやれって無理だし、全力でやるしかないよね?」
確かに。ふたりは私達に頼りたくないとは再三言ってたけど、私達に本気を出すなとは言ってこなかった。つまり全力でやっていいってことだよね。そうじゃないとふたりにも観客にも失礼だし。いつも通り気合入れてやっちゃおう。どうせ結束バンドバレはするだろうし
「あっそうですね。中学生達を熱狂の渦に巻き込んじゃいましょう」
「文化祭でギターヒーローのライブが見られるなんて幸せよねー。しかも母校だし。もしかしたら、これから毎年出演依頼が来たりして」
「えっ?そんなことありますかね?」
もしそうなったら断れないな…。でも、毎年沢山の人にちやほやされちゃうかも…母校最高!卒業させてくれてありがとう…ふへへへ…
「ふへ…中学校最高…義務教育万歳…へへへ…」
「ひとりちゃん、中学生の前でそれやらないでね。ファン減るわよ」
「あっはい。気をつけます…」
「あ、ここよね?」
「あっはい。人に見つからないように裏口から入りますよ」
「学校の裏口って?職員玄関かしら?」
多分それかな。えーと確かこっちだったはず。見たところ人はいないけどなんとなく急いでしまうな
「あっ喜多ちゃん、こっちです」
「はーい。あっここね?さっさと入ろうか」
「はい。中に入ったら控え室があるらしいのでそこに行きます」
「分かったわ。ここがひとりちゃんの通っていた中学校なのねー。ひとりちゃんとはもう長い付き合いだけど、ここは私の知らないひとりちゃんが過ごした場所って考えると、ちょっと悔しいかも」
「悔しい、ですか?」
喜多ちゃんは不思議な感情を抱くんだなぁ。確かに喜多ちゃんと出会ったのは高校だから、ここは喜多ちゃんの全く知らない場所だけど
「うん。私の知らないひとりちゃんがここで3年間を過ごしたって考えるとなんか悔しいの。もし中学の頃にひとりちゃんに会えてたらどうなってたかな?ひとりちゃんはもうギターをやっていたから、私も釣られてギターを始めたかもね」
「あっそうですかね?でも喜多ちゃんはリョウ先輩目当てでこの世界に入ったじゃないですか」
「そうね、たらればを考えても仕方ないわね。でも気になっちゃったの。そういうの考えたことない?」
「ありますよ。そんなことばかり考えてた日々もありました」
もし虹夏ちゃんに出会えていなかったら。もし喜多ちゃんが結束バンドから一度逃げていなかったら。もし虹夏ちゃんがリョウ先輩を自分のバンドに誘わなかったら。リョウ先輩が前のバンドを辞めていなかったら。店長がライブハウスを作らなかったら。私がギターを始めていなかったら。どれも一度はした想像だ
でも、現実は全て違う。私達は出会い、それなりに売れているバンドになった。そして今日は妹とライブをする。全ての出来事は偶然によって成り立っているのかもしれない。けど、起こってしまったからには必然だ。それがいいことでも悪いことでも受け入れるしかない。私はここにいるのだから
結局何が言いたいのかというと、特に何を言いたいわけでもない。ごめんなさい。とにかく今生きているのは現実だってことだ。あれこれ考えてもそれは空想。現実を受け止めないとね
「…ひとりちゃん?」
「…すみません。ちょっと考え事してました。早く控え室行きましょう」
「うん。…ひとりちゃん」
「あっなんでしょうか」
「…やっぱりなんでもない!早く行こう!」
「え?あっはい。あ、こっちです。この部屋って控え室だったんだ…」
喜多ちゃんが何を言おうとしたかは分からない。でも、同じようなこと考えてたかもね。親友だから
2人で控え室に入る。ここって中学校時代はなんの部屋か分からなかったけど、控え室として使う部屋だったんだ。ちなみに職員玄関で事務員さんに入稿許可証をもらったので、私達は不審者ではない。いや不審者になるつもりはないんだけど
「ここにいるのはいいけど、誰か来ないのかしら?」
「あっもう少ししたらふたりが来るそうです。どうやら私達が来ることを知ってる人がほんとに少ないらしくて…先生でさえも数人しか知らないらしいです」
「そこまで秘匿されると緊張するんだけど…。普通に私達のこと知らない人の方が多そうだし」
「確かに…。まあ、やれることをやりましょう。あっお弁当食べますか?もうこんな時間だし」
「そうね。ひとりちゃんのお母さん、ありがとうございます♪」
「ですね。後で改めてお礼言っておきますね」
出かける前にお母さんに渡されたお弁当を喜多ちゃんと一緒に食べる。母親の弁当なんて何年ぶりだろう。お母さんありがとう。ライブ頑張ります
中学の文化祭ってあまり面白いことなかった気がします