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「お姉ちゃん」
「なに」
「明日からツアーだよね」
「うん。今更どうしたの」
「別に。東京公演は行くからね」
「ありがとう…あっそうだ、チケット渡してなかった。待ってね、確かあそこに…」
「チケットならあるよ」
「えっ」
明日からは結束バンドの公演ツアーだ。2週間くらい家を空けることになる。ふたりの練習見られないのは痛いけど、心配いらないよね
今回のツアーで結束バンドのみんなと色んな場所に行くのが楽しみだ。リョウ先輩は競馬場、喜多ちゃんは無限に映えスポット巡りをするとかなんとか…虹夏ちゃんが呆れてたな。私は…虹夏ちゃんとデートする予定だ。中日が何日かあるからその時に2人きりでどこか行こうと思っている。もちろんライブは全力でやるけどね。ほら、愛の力があればライブも成功するって偉い人が…言ってないか。じゃあ私が言ったということで
話が逸れすぎた。ふたりにはもちろんライブを見に来て欲しいから、毎回チケットをあげている。身内特権だ。なのに今回はもう持っているって?もうあげてたかな、最近忙しくてあげたことすら忘れてたか…
「いつ渡したっけ?」
「お姉ちゃんからは貰ってないよ」
「え、じゃあ何で持ってるの?」
「そんなの、自分で買ったに決まってるじゃん。お母さんとお父さんと3人分申し込んで何とか1枚取れたんだー。ちゃんとお小遣いから払ったよ?」
「それは偉い…じゃなくて、何でそんなこと…言えばいつもみたいにあげたのに」
「まあまあ、たまにはいいじゃん。いつも関係者特権で貰うのも申し訳ないし。ファンならフェアにいかないとね?」
「今回だけ調子いいなぁ…」
ファンなのは嬉しいけど、妹なんだから優遇するに決まってるのに。でも自分でチケット取るくらい熱心なのは嬉しい限りだ。チケット代は後でお母さんにこっそり渡しておこう。あ、でも…
「あっお母さんとお父さんの分はないんだよね?それはあげるから。絶対にあげるから」
「圧が凄い…うん、それは貰うつもりだった。ありがとう」
「じゃあはいこれ。一応ふたりの分も用意してあるから3枚渡しておくね。友達でも誘ったら?」
「友達かあ…これ、学校でオークションしたら凄く高く売れそうじゃない?」
「リョウ先輩みたいなこと言うね…」
オークションって…ありがたいことに今回のライブのチケットは完売したみたいだけど。確かにふたりの学校にも欲しい人はいるかもね。でも、どうでもいい人にあげてほしくはないなあ。一応そのチケット関係者枠だし…
「オークションはやめてくれないかな。やっぱり友達にあげてよ。…ふたり、まさか友達いないの」
「いるよ!お姉ちゃんじゃないんだし」
「ごはっ!!」
「あ、ごめん」
ふたり、それは禁止カード…今更謝ってももう遅いよ…。今だって大して友達いないし…いるからいいもん!
「ごめんなさい…もっと人の痛みが分かる子になります…」
「い、いや大丈夫…お姉ちゃん今は友達いるから…」
「そうだね。あと、余ったチケットはちゃんと友達にあげるよ。1人私と気が合うしギターヒーローと結束バンドのファンの子がいるんだ」
「そんな完璧な子いるんだ…じゃあその子と一緒に見においで。きっと満足させるから」
「うん!結束バンドを見て満足できないわけないでしょ」
「う、プレッシャー…頑張るよ。そうだ、その子とバンド組めばいいじゃん。ダメなの?」
「私もそう思ってるよ。けどなんとなく申し訳なくて」
「まずは話してみないと始まらないよ。そうだ、私と虹夏ちゃんの出会いって知ってる?」
「小さい頃聞いたけど忘れちゃったかも…」
「そっか。じゃあもう1回話してあげるよ。あれは…」
私は虹夏ちゃんと出会った日のことをふたりに話した。忘れもしないあの日のあの公園。少しでも何かが狂っていれば出会うことはなかったはずだ。私があの公園でひとりぼっちでいて、喜多ちゃんが逃げ出して、虹夏ちゃんがギタリストを探していなかったら出会わなかったんだよね。リョウ先輩も虹夏ちゃんとバンド組んでなかったら、そもそも結束バンドはなかっただろうし。全てが噛み合って私達は巡り会えたんだろうって思ってる
「…あー、思い出したかも。凄い偶然だよね。そりゃお互い惹かれあって付き合うのも分かるよ。運命の相手じゃん」
「ふへへ…それほどでもあるよね…」
「むかつく…」
「…まあ、とにかく私は虹夏ちゃんに強引に連れていかれたからこそ今こうして結束バンドでいられてるんだよ。だからふたりも誘いたい子はちょっと強引にでも誘ってみればいいんじゃないかな?」
「…そうだね、虹夏ちゃんに習うとしますか!私虹夏ちゃんに似てるとこあるらしいし」
「あっなんとなく分かる…」
私に文句を言いながらも世話を焼いてくれるところとかは虹夏ちゃんに似てるかも
「じゃあ文化祭終わったら誘ってみるよ。それまではお姉ちゃん達を利用するから!」
「…ふたり、お姉ちゃん達そこそこ有名なんだから大事にしてよね?ファンに怒られちゃうよ」
「分かってまーす。でも私後藤ひとりの妹だから!家族特権!」
「そう言う時だけは家族を盾にするんだ…いいけどさ」
全く都合のいい妹だなぁ。そこがまたかわいかったりするから怒れないけど。私もシスコンってやつかな。店長みたいだ。姉同士も似るのかもしれない
「そういうわけだから、まずはツアー頑張ってね」
「言われなくても。ちゃんと見に来てよね」
「それこそ言われなくても行くつもりだったから」
「あはは、流石はファンの鑑であり妹だね。お姉ちゃんも嬉しいよ」
「今は加えてバンドメンバーだからね。どう、お姉ちゃんは結束バンドだけのものじゃないって分かった?」
「そんなこと最初から分かってるよ。私は結束バンドである以前にふたりのお姉ちゃんだから。けど、ずっとバンド優先でふたりには寂しい思いさせてたよね。ごめんなさい」
高校もライブハウスも家から遠いのもあって、バンドに入った時から家にいる時間は減ってたもんね。ふたりともっと遊べればよかったけど…いや、こいつ私のこと舐めてたからお互い様では?うーん大人気ないな後藤ひとり。相手は11個下なんだから少しは大人になりなさい!
「分かればよろしい。私も舐めててごめんね!まだ舐めてるけど!」
「ぐぬぬ…」
「あっそうだ、リョウさんにこのこと言ったらお姉ちゃんをめぐって対バンしようって言われちゃった。冗談だろうけど」
「リョウ先輩…」
あの人のことだから半分は本気かもしれない…私に決定権はないんですか
「もし本当にやるなら私完敗するからどうしよう。お姉ちゃん味方になって!あと分身して」
「お姉ちゃんに何を求めてるの?」
「後藤さんにんを生み出す」
「ええ…」
誰…そういえば私達の名前の由来って何だっけ?ひとりは百歩譲っていいとして…名は体を表しすぎてるし。ふたりって何…
「っていうかお姉ちゃんを味方にした時点でふたりの勝ちじゃん。おめでとう」
「あ、ほんとだ。じゃあお姉ちゃんは私のものということで。結束バンドさんにはレンタルということで」
「その対抗心なんなの…寂しいんでしょ?ごめんってば」
「うん。長年最愛の妹を放ったらかしにしてる罰。今は虹夏ちゃんのものだし…妹の私に付け入る隙は無いのです…しくしく」
「ふたり、変なもの食べた?」
いつもにまして甘えん坊というか、テンションがおかしい。姉のこと好きでいてくれるのはありがたいけど
「食べてないよ。喜多ちゃんの真似」
「結束バンドメンバーがふたりに悪影響与えまくってる…」
「お姉ちゃんが1番悪影響与えてるから心配しなくていいよ?」
「がはっ…」
「また吐血しちゃった…ごめんなさい…」
「ぐへっ…ふたり…もうちょっと考えてから発言して…」
この妹容赦なさすぎ…絶対人の痛み分かった上で言ってるよ。私のせいなの?
「でもあれでしょ、ロックなら何でも許されるんでしょ?免罪符ってやつ」
「限度はあると思う…」
「そう?まあいいや。とにかくライブ行くから。ツアーが終わったらきちんと真っ直ぐうちに帰ってくること。レンタルの延長は許しません!」
「またそれ…私じゃなくてみんなに言ってよ」
ほんとに元気だな。嫌じゃないから好きに言わせとくけど。終わったらちゃんと帰るから安心して。打ち上げとかで遅くなりそうだけど…
「じゃあそうする!」
「えっ本気なの?」
「えーと…よし、送信!」
「あれ、それ私のスマホ…結束バンドのグループに送ったの…」
自由すぎる…リョウ先輩と喜多ちゃんの影響だ…。せめてふたりの前では自制してもらおう
2人でロインを眺めていると、すぐに返信が来た
『代金は虹夏持ちでいいよね?』
リョウ先輩払う前提!?しかも虹夏ちゃんに払わせるのか…
『何でだよ!』
『ふたりちゃん、バンドメンバー割引はないの?』
虹夏ちゃんと喜多ちゃんも返してきた。喜多ちゃんも払うつもりなのか…その上で安くしてもらおうとする図々しさ何なの?
「ぐぬぬ、結束バンド手強いな…。お姉ちゃんはいくら出せる?」
「えっ私も払うの?だったらすぐ帰る…」
「お姉ちゃんも結束バンドさんの一員だからね。請求は全員にするよ」
「何その設定…」
『リョウさんも払ってください。1人1時間1000円です』
『高っ!』
『虹夏頼んだ』
『しばく』
『ふたりちゃん、割引お願い!じゃないと抜けるわよ!』
「何この人達…」
「ごめん…」
ふたりも反省して欲しいけど、この人達の方がもっとダメだ…。虹夏ちゃん、しばくとか言わないで。怖いよ。リョウ先輩、今は少しは稼ぎあるんですから残してください。喜多ちゃん、大人気ないからやめよう
「ふたり、スマホ貸して。みんなのこと叱るから」
「お姉ちゃんにできるの?」
「私だって少しは成長したんだよ。それにバンドメンバーは対等だから!見ててよね」
私はふたりからスマホを取り返してメッセージを打ち込む。中学生に見せていい会話じゃないよ…
『代わりました、ぼっちです。みなさんやめてください。妹の前で変なこと言うのは困ります』
『お、ぼっちちゃんは妹の肩を持つんだ?』
『ぼっちが払ってくれるならいいよ』
『ひとりちゃん、家族と第二の家族どっちが大事なの?」
「何この人達…」
「お姉ちゃんもダメじゃん…」
うん、ダメだ。虹夏ちゃんも味方になってくれないならもうダメだ。私の負けです。延滞料金払うから延長させてもらおう
「ふたり、悪いけどツアー終わったら打ち上げとかあるだろうし、すぐには帰れないと思うんだ。延滞料金払うから許して…」
「お姉ちゃん…もう、冗談だよ。お姉ちゃんからは取らないって」
「ふたり…じゃあみんなからは取るの?」
「正直取りたい気持ちはあるよ。私の知らないお姉ちゃんをいつも見てるみんながずるいんだもん」
「わがまま言わないの。みんなだって家での私は知らないんだからお互い様でしょ?」
「確かに。じゃあ許す!お姉ちゃんスマホ貸して。みんなに謝るから」
「分かった。はい」
「ありがとう。えっと…」
『ふたりです。変なこと言ってすみませんでした。ツアーの間姉をよろしくお願いします』
『もちろん!彼女に任せてよ』
『ぼっちの命は預かった』
『死んでもすぐに生き返らせるからね!』
「「何この人達…」」
虹夏ちゃんはまあいいよ。でも人前でそう言うのやめて欲しい。恥ずかしいから。リョウ先輩はもう脅迫じゃん。喜多ちゃんも便乗してるし…いや生き返らせてくれるのはありがたいです。はい
「ほんと面白い人達だね。お姉ちゃん、大事にしなよ?」
「もちろん。まだまだ一緒にいたいからね」
「いいなー、私もそういうバンド組みたいな」
「ふたりにならできるよ。まずは文化祭頑張ろう。あっお姉ちゃんがいない間もちゃんと練習するんだよ?」
「分かってるって。元々お姉ちゃんに隠れてやってたから心配ないよ」
「そっか」
そういえばそうだったな。ふたりは1人でもしっかり努力できるってことだね。まあ私よりスペック高いからなぁ
私はふたりからスマホを返してもらい、こう打ち込んだ
『ぼっちです。みなさん、明日からもよろしくお願いします。ツアー頑張りましょう!』
『おー!あ、デートよろしくね」
『ぼっち、競馬場行こう。当てるぞ』
『映えスポット巡りもしようね!』
…何この人達。自由すぎて最高だ
「…お姉ちゃん、結束バンドって名前変えたら…?」
「大丈夫だよ。ちゃんと結束力はあるから。ライブ見れば一発で分かるよ」
「それはそうだけど…そうだね、楽しみにしてるよ」
まあ私達以外には中々分からないだろうな。この結束力ってやつは。ふたりには教えてあげてもいいけど、ライブ見てもらえればいいし。それにふたりなら自分で気づいてくれるんじゃないかな?
よし、気合い入れよう。今日はもう少しだけ練習して早めに寝ようっと
「ふたり、お姉ちゃんもう少し練習するから部屋出てもらってもいい?」
「はーい。今回は新曲やる?」
「それは内緒。まあないわけないと思うけど」
「そっか。ありがと、じゃあねー」
ほんとはダメだけど答え言っちゃった。これも家族特権ということで。シスコンなお姉ちゃんは妹を優遇してしまうのでした
ずっと仲良しでいて欲しい