加藤 その一方でコンピュータにも強い関心がありました。それも旧来の計算システムとは比較にならないほど進んだ量子コンピューティングに興味があったんです。それで、学部では宇宙と量子コンピュータの両方を勉強して、卒論も2本書いたんですよ。
大学院の量子物性系の研究室に進んだときには、そのまま研究者になるつもりでした。量子コンピュータの実現に重要な、量子状態を安定的に維持できる粒子の実現を目指した研究です。そこは世界的にも流行りの領域だったので、毎日のようにポコポコと新しい論文が出てきていたんですね。どれも「実現できた」って主張しているけれど、精査してみたら怪しいものばかり(笑)。
アカデミアにおける流行りってこういうものなのかと思いつつも、そのあたりから研究に対して徐々に冷め始めてしまいました。あまり質の高くない論文がたくさん出ている「数撃ちゃ当たる」な状況に、ちょっとうんざりしてしまったんです。かすりさえすればノーベル賞がもらえるかもしれない。でもそれってただの「運ゲー」であって、僕の思っていた科学的な営みから遠いよなと。
それでも、SF小説の『ニューロマンサー』のように人間とコンピュータが接続されて、『ガンダム』のように宇宙へ行く、みたいな僕が夢見ていた世界にちょっとでも近づけるならいいのですが、研究の現場にいることがすごく遠回りに感じるようになってしまった。結局、大学院は1年で辞めたんです。
──研究の道から外れてどうされたんですか。
加藤 高等遊民みたいな生活をしていました。ちょうどスマートフォンが登場した時期で、スマホのカジュアルゲームが流行っていたんです。プログラミングにハマっていたので、スマホのカジュアルゲームをつくってお金を稼ぐことができました。2012年頃ですね。
生活に必要な分だけ働くとあとは本を読んだりゲームをしたり。まあ、引きこもりでしたね。