トランプ前大統領の起訴、元ポルノ女優との間に何があったのか
マッテア・ブバロ、ロビン・レヴィンソン・キング、BBCニュース
画像提供, Getty Images
トランプ氏は、ダニエルズ氏(右)との関係を否定している
アメリカのドナルド・トランプ前大統領は、元ポルノ女優との不倫関係について2016年大統領選の直前に口止め料を支払ったとされる問題について、ニューヨーク州大陪審によって正式起訴された。
ストーミー・ダニエルズ氏(本名ステファニー・グレゴリー・クリフォード)は、2006年にトランプ氏と性的関係をもち、2016年米大統領選の直前に13万ドルを口止め料としてトランプ氏の弁護士から支払われたと、2018年に複数の米メディアに明らかにした。
トランプ氏は2018年5月、自分の顧問弁護士がダニエルズ氏に払った口止め料を返済したと認める発言をツイッターでしていた。ダニエルズ氏との性的関係は否定している。
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口止め料の支払いを担当したとされるマイケル・コーエン弁護士は2018年12月、選挙資金法違反を含む複数の罪状を認めて有罪となり、禁錮3年の実刑判決を受けた(すでに刑期終了)。
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ダニエルズ氏の主張
ダニエルズ氏はこれまで複数のインタビューで、トランプ氏と性的関係をもったのは2006年7月のことだったと繰り返している。著名人が出場するチャリティー・ゴルフ大会の会場で出会い、カリフォルニア州とネヴァダ州の間にあるリゾート地、タホー湖沿いにあるホテルで、関係をもったという。ダニエルズ氏は当時27歳、トランプ氏は60歳だった。
ダニエルズ氏が2018年にこの件について公表した当時、トランプ氏の弁護士はその内容を徹底的に否定していた。
2018年5月に公表された米メディア「In Touch」の取材でダニエルズ氏は、ホテルでのトランプ氏に2人の関係を秘密にするよう言われたか質問されると、「特に気にしていないみたいだった。ちょっと傲慢な感じだった」と答えていた。
トランプ氏は2005年1月にメラニア夫人と結婚。ダニエルズ氏が言う2006年7月、メラニア夫人は長男出産の約3カ月後だった。
口止め料
ダニエルズ氏は2018年3月、米CBSテレビの報道番組「60ミニッツ」で、2006年にトランプ氏と性的関係を持ち、後にそのことを黙っているよう脅されたと主張した。2011年に米メディア「In Touch」の取材に応じて間もなく、ラスヴェガスの駐車場で1人の男が接触してきたという。この男に「トランプ氏から手を引け」と言われたほか、男はダニエルズ氏と一緒にいた幼い娘を見て、「彼女の母親の身に何か起きたら、とても残念だな」と言ったのだと、番組でダニエルズ氏は話した。
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ダニエルズ氏はさらに、2016年大統領選の直前に13万ドル(約1400万円)を当時のトランプ氏顧問弁護士、コーエン氏から受け取ったと話した。これは、自分や家族の安全のためだったと説明した。
コーエン氏は、2016年大統領選の直前に13万ドルをダニエルズ氏に支払ったことを認めている。トランプ氏は2018年5月、自分の顧問弁護士がポルノ女優に払った口止め料を返済したと認める発言をツイッターでしていた。
2011年の「In Touch」インタビューの全容は、2018年になるまで公表されなかった。
2018年3月のCBS「60ミニッツ」放送に先立ち、コーエン氏とつながりのあるダミー会社がダニエルズ氏を提訴。トランプ氏との性的関係を公表したことでダニエルズ氏が2016年大統領選前に結んだ秘密保持契約に違約したとして、2000万ドル(約21億円)の損害賠償を求めた。
こうした状況でCBS「60ミニッツ」に対してダニエルズ氏は当時、自分は出演によって数百万ドルの罰金を科せられるかもしれないが、「自分で自分を守れるようになることが、私にとって非常に重要」なのだと、出演理由を説明していた。
口止め料の支払いは違法なのか
秘密保持契約と引き換えに、相手に何らかの対価を支払うことは違法ではない。
しかし、コーエン氏を経由した問題の支払いが2016年大統領選直前の10月に行われたものだったため、これは選挙違反に相当するという批判が相次いだ。
コーエン氏は2018年8月、ダニエルズ氏を含む2人の女性への「口止め料」支払いをめぐり、脱税や選挙資金違反などの罪を認め、服役した。コーエン氏は当初は、トランプ氏の関与を否定していたものの、公判中に宣誓下で、トランプ氏の指示で「選挙結果に影響を与えるため」、13万ドルを支払ったと証言。トランプ氏による払い戻しがあったことも、証言している。
トランプ氏自身は2018年5月の時点で、コーエン氏への払い戻しを認めたが、選挙資金は使っていないので合法だと説明した。ダニエルズ氏との性的関係は否定した。
なぜトランプ氏は起訴されたのか
ニューヨーク・マンハッタン地区検事アルヴィン・ブラッグ氏は今年1月に、大陪審を設置した。ダニエルズ氏への金銭支払いをめぐり、前大統領を起訴するだけの十分な証拠が得られているか、市民の代表が検討することがその目的だった。
無作為に選ばれた市民23人からなるニューヨーク州大陪審は30日、正式起訴を評決で決定。トランプ氏は刑事事件で問われる初の米大統領経験者となった。具体的な罪状は、まだ発表されていない。
トランプ氏がコーエン弁護士に払い戻しをした際、記録上は弁護士業務の報酬として、事業経費として記載されている。これが、ニューヨーク州では軽犯罪に相当する事業記録の虚偽記載にあたるという指摘が出ている。
加えて、選挙に影響を与えようとした支払いが公職選挙法違反にあたるとされた場合、記録粉飾による犯罪行為の隠ぺいという重罪に相当するという意見もある。
トランプ氏は30日夜、自らのソーシャルメディア「Truth Social」で声明を出し、「腐敗して狂って、武器化された司法制度」による政治的な魔女狩りだと激しく非難した。