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ーどこかのライブハウス 誰もいない暗い部屋ー
「もう、なんで逃げるの?なんにも怖くないよ〜」
「ひ…… はっ…」
部屋の隅に逃げるぼっちちゃん。顔をぐしゃぐしゃにしながら小さく縮こまってしまうその姿に、そういえばこんなマスコットキャラクターがいたなぁと連想する。
私としては逃げられるより、その場で塞ぎ込まれる方がありがたい。何よりその方がぼっちちゃんらしくて、いいな、と思う。
「ほーら、そんなに震えちゃって〜 かわいいなぁもう」
生物としての防御体勢、って言うのかな?背中を丸めて、頭を抱えて。
ちょっとかわいそうだけど、私はぼっちちゃんの両手を掴み、ぼっちちゃんのかわいい顔が見えるように大きく広げる。
「ばんざーい!!」
大きな声にびっくりしたぼっちちゃんは一瞬固まり、また震え出した。既に泣いてしまっている。大きい音に弱いのは知っている。知っていてやっている。ちょっとかわいそうだけど、ちょっと意地悪したくなる。ごめんね。
抵抗力の少なくなった両手を、ゆっくりと壁に押し付ける。私も床に膝をつき、上半身だけでぼっちちゃんに近付いていく。
ぷるぷると震える唇。近くで見ると歯も震えているのがわかる。愛おしさでいっぱいになる心に甘い痛みを感じながら私の唇を重ねると、小さい舌が抵抗してきて、それがなんともかわいい。くすぐったくて癖になる。
「ん、ちゅ・・・・・・ はぷっ、んぅ」
何度もぼっちちゃんを啄ばむ。唇が離れるか離れないかの所で、唾液だけがふたつを繋げている所で息継ぎをし、また味わう。ぼっちちゃんの口元がよだれで汚れていく。
ぼっちちゃんは口の中渇くこととか多いんだろうなぁ、とか考えてしまう。実際そうなのだろう。私の口元はぼっちちゃんに比べてあまり汚れていない。
「ちゅ、ちゅ・・・ んむ、ちゅ、れる・・・」
「ん、んうぅ・・・!」
ぼっちちゃんが暴れるので(それでも力は弱いが)、壁に押し当てていた腕をぼっちちゃんの背中に回してあげた。私の両手でぼっちちゃんを包み込むような形になり、少しほっこりした。さっきよりもぼっちちゃんの体温を感じることができる。
お互い両手が使えなくなったので、私は顔だけでぼっちちゃんの唇を追いかける。かわいい唇はおとなしくしててはくれないが、最近はこれも楽しいと思えるようになってきた。
でも、つかまえる。
「ちゅ・・・ んぷ、ちゅ・・・・・・」
「んぅ、や、やぁあ・・・! むぷ、ちゅ・・・・・・ んぁ」
顔を左右に振って必死に嫌がるぼっちちゃん。私も追いかけようとするが、動かれると標準が合わず、ぼっちちゃんの口の横、ほっぺや鼻に舌が当たり、よだれがさらに範囲を広げていく。もう顎から滴り落ちてしまうほどに。
泣きながら、口を震わせながら私を見てくるぼっちちゃん。もしもぼっちちゃんが普通の人ぐらいに上手く話せることができたのなら、もうやめて、とか、嫌だ、とか、もしくは、気持ち悪い、とか、叫んでいたのかもしれない。普通の人ぐらいに気が強かったのなら、私を睨んで、頭突きとか、噛みつきとか、していたのかもしれない。
でも、そうはならない。
ぼっちちゃんだから。
「ちゅむ、んちゅ、ん・・・ は、ちゅぷ・・・」
私が好きになった、いつも震えて、何かを怖がって、ギターが上手くて、人間が苦手で、喋るのが下手で、でも肝心な所ではかっこよくて、私が大好きな、ぼっちちゃんだから。
「ん・・・・・・・・・」
「ん・・・!? ぅ、んぅ・・・・・・!!」
大好き。
だから、もっとキスしたい。
繋がっていたい。
感じていたい。
あ、今のやつなんかの歌詞であったな。
そんなことを考えながらキスしてると、いつの間にかぼっちちゃんも私も息が乱れ、少し苦しくなっていることに気付く。息継ぎを忘れていた。
「んぐ、ふっ・・・! はあっ!はぁ・・・!!」
「あわわ、ごめんねぼっちちゃん!苦しかったよね!」
「はっ・・・ はっ・・・ んっく、はっあ・・・!」
ぼっちちゃんの息が顔に当たる。あったかい。
「ほんとごめん、ほら、深呼吸しよ!吸って~ 吐いて~」
「はっ・・・ は、す、すぅーー・・・ っはぁ・・・! は・・・!ゲホ、エホッ!」
「わわ、ごめんごめん!ほら、大丈夫だよ。落ち着いてね~ ゆっくりだよ~」
こんな状態でも私の言うことをきいてくれる。頭がいっぱいいっぱいになってるのに私の言うとおりにしたから、むせちゃった。私はぼっちちゃんを包んでいた手でそのまま背中をさすってあげる。
ジャージ越しにでもわかる。ぼっちちゃんの背中はじっとりと熱を含んでいて、熱いのに、寒がってるみたいにカタカタと震えている。呼吸をするたびに肩が上下し、私の腕も一緒に揺れていく。二人で一緒の動きをしているみたいで、また少し嬉しくなってしまう。
ぼっちちゃんの顔と私の顔は近いままだ。
「ごめんね、大好きだよ・・・」
そんなぼっちちゃんの弱々しい姿を、健気とも感じるその姿を見ていると、つい思ったことが言葉に漏れてしまう。
壁を後ろに、両手で捕まえるように抱きしめたまま、ぼっちちゃんの目を見つめながら。
「はぁ・・・・・・ はぁ・・・・・・・・・」
息が整ってきて、ようやく周りの状況を確認するようにしながら、ぼっちちゃんがゆっくりと私を見つめ返してくる。
涙とよだれでべちゃべちゃになったかわいい顔。浅い呼吸を繰り返しながら、弱々しく私を見る。
愛おしい。
「大好き」
言い足りない言葉が自然とあふれる。
「ぼっちちゃん」
もう抵抗を感じなくなった。というより、できなくなっているのだろう。ぐったりしている。
私の腕に身体を任せてくれているのを感じる。
ぼっちちゃんの重さを感じながら、私は少しだけ抱きしめる力を強める。腕の輪っかが小さくなり、ぼっちちゃんと私の顔がさらに近づく。もう鼻先はくっついてしまいそうだ。
「ね、ぼっちちゃん」
うつろな目で、もう諦めた、という感じで。ただ私を見つめてくるぼっちちゃん。
「もう一回、しよっか」
私の好きな人は、こんなにかわいい。